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48.接近 3
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「お帰りなさいませ。リリー?」
「…ん…」
野営地のリリーのテントの中にはいつもの様にノルーがリリーの身の回りのことをするために控えている。本来ならばリリーが外出する際本人がなんと言おうともノルーは後についていくのだが、今このテントの中にはラークの館から助け出してきたΩのイルンが一緒に滞在している。帰還中は健康的な生活をしているせいか保護直後よりもイルンの顔色はかなり良くなった。けれどずっと娼館に監禁されていた様なイルンでは長旅にも慣れておらず娼館では強制的に過度の薬を使われていた為身体的な負担を軽視する事はできない。だからイルンもまだ体調を注意深く観察していかなくてはいけない時期にある。なのでノルーはイルンの世話も請け負っていて本日のお忍びはリリー単独のものとなっていたのだった。
常ならばどこに行っていたのかなど軽く状況を把握しようとするノルーがリリーを一目見て怪訝な顔をする。
その理由ならばリリー自身もわかっている。しばらく風にあたって十分に冷却してきたはずだから身体の火照りは冷めたはず…だから他人の目にはそう変わった所など映らないはずだ。だが、リリーの事になると非常に細かい観察眼を働かせる侍従であるノルーの目は誤魔化せなかった様だ。
「……おめでとうと、言って差し上げたいところですが…番には?」
怪訝そうに近づいてくるノルーはリリーの肩に一枚上着をかけた際に複雑な表情へと変わっていく。あれだけ散々番ってしまえとけしかけていたのはノルーなのに、いざその現場に立ち会ってしまえば内心は穏やかかと問われれば複雑だ…
「なるわけないだろ?わかってるくせに……」
「それはもう十分に…けれどリリー…」
確かにリリーの首筋には番の証拠となる跡が無い…いや、跡がないわけではないのだが…それは別のもので…リリーにとってもノルーに取っても喜ばしいものといえる物だ。けれど番を目の前にして、その様な関係になってまで番う事を拒むことなんてできるのだろうか?
「向こうの草むらに、アーキンを眠らせて転がしてあるから回収に行って。」
「リリー!?」
まさか自分の番に番わせる事も拒否してあろう事かそのまま眠らせて転がしてきたと?
自分の主人であるリリーの口からとんでもない事を聞かされたノルーは一瞬で真っ青になる…
番だ…主人の番ならば元の身分が低かろうとも主人と同等の礼儀は尽くす。それがノルーの中の主従関係で自身の矜持とも思っている。その大切なリリーと同等の者がリリーが命よりも大切にするべき番が草っ原で転がされてる!?
「あってはならないことじゃありませんか!?貴方、自分の番になんて事してるんです?」
そんな関係になった状態でリリーは番を放置して野営地に帰ってきたのだ。ならば当然事後のはず。いくら本人に眠っている時の記憶がないと言えどもここ周辺に巡回している騎士はいるし野の獣だっているだろう。それらに見つからないという保証はどこにもないのに…!
「ちゃんと着替えさせて簡易結界も張ってきたから…」
悪戯を見つけられて怒られる子供の言い訳の様に少し口籠もってリリーは状況を説明した。
「だからって!リリー!?」
「しっ…イルンが起きるぞ?」
体力的にはまだまだなイルンだ。朝早起きして行動しているせいか夜半は早く就寝しているため既にテント内では静かに寝息を立てている。
「はぁぁぁ~……アーキン殿になんて説明したらいいんだか……もう!リリーが説明してくださいよ!?折角一緒の時間を過ごせたというのに、知らない内に眠らされて放置って…男の沽券にかかわる大問題じゃないですか!もう~」
「行くの?行かないの?」
頭を抱えそうになっているのノルーにリリーは声をかける。
「行きますよ、勿論!他の騎士になんて言いましょうね?あ、香りでバレるか?」
ブツブツ言いながらテント内を移動し大判なベッドカバーらしき布をむんずと掴んでノルーは足速にテントから出て行こうとする。
「もぅ、私浮遊魔法得意じゃないんですよ、もう!」
まだまだノルーはリリーに対して言いたい事がある様だ。普段ならば二つ返事でリリーの命令には従順に従う彼なのだが、いかんせん番を野原に捨ててくるという前代未聞の仕打ちを仕出かしたリリーの所業に仕事用に被っていた仮面がポロリと落ちてしまったのだろう。
「ノルーなら上手くやるだろ?一人くらい…」
「リリー……」
最早ため息以外出てこない…どうしてこうも自分の主人は頑ななのかと頭を押さえてしまう。
「えぇ、勿論。他でもない貴方のご命令ならば何でも喜んで。でもリリー、これはきっと違うでしょう?きっと貴方の本心ではない。だから私だって困惑するんですよ…」
テントから出ていきながら静かに呟いたノルーの声は頑固な主人に届いたのだろうか。ノルーはそれを確かめる間も無く主人であるリリーの魔力の残滓を追っていく…その先に主人が命よりも大切と思う主人の番がいるのだから。
自分の役目は把握していてもやはりノルーは寂しくもある。出来たらば幸せそうに笑う姿が見たいのだから…
「…ん…」
野営地のリリーのテントの中にはいつもの様にノルーがリリーの身の回りのことをするために控えている。本来ならばリリーが外出する際本人がなんと言おうともノルーは後についていくのだが、今このテントの中にはラークの館から助け出してきたΩのイルンが一緒に滞在している。帰還中は健康的な生活をしているせいか保護直後よりもイルンの顔色はかなり良くなった。けれどずっと娼館に監禁されていた様なイルンでは長旅にも慣れておらず娼館では強制的に過度の薬を使われていた為身体的な負担を軽視する事はできない。だからイルンもまだ体調を注意深く観察していかなくてはいけない時期にある。なのでノルーはイルンの世話も請け負っていて本日のお忍びはリリー単独のものとなっていたのだった。
常ならばどこに行っていたのかなど軽く状況を把握しようとするノルーがリリーを一目見て怪訝な顔をする。
その理由ならばリリー自身もわかっている。しばらく風にあたって十分に冷却してきたはずだから身体の火照りは冷めたはず…だから他人の目にはそう変わった所など映らないはずだ。だが、リリーの事になると非常に細かい観察眼を働かせる侍従であるノルーの目は誤魔化せなかった様だ。
「……おめでとうと、言って差し上げたいところですが…番には?」
怪訝そうに近づいてくるノルーはリリーの肩に一枚上着をかけた際に複雑な表情へと変わっていく。あれだけ散々番ってしまえとけしかけていたのはノルーなのに、いざその現場に立ち会ってしまえば内心は穏やかかと問われれば複雑だ…
「なるわけないだろ?わかってるくせに……」
「それはもう十分に…けれどリリー…」
確かにリリーの首筋には番の証拠となる跡が無い…いや、跡がないわけではないのだが…それは別のもので…リリーにとってもノルーに取っても喜ばしいものといえる物だ。けれど番を目の前にして、その様な関係になってまで番う事を拒むことなんてできるのだろうか?
「向こうの草むらに、アーキンを眠らせて転がしてあるから回収に行って。」
「リリー!?」
まさか自分の番に番わせる事も拒否してあろう事かそのまま眠らせて転がしてきたと?
自分の主人であるリリーの口からとんでもない事を聞かされたノルーは一瞬で真っ青になる…
番だ…主人の番ならば元の身分が低かろうとも主人と同等の礼儀は尽くす。それがノルーの中の主従関係で自身の矜持とも思っている。その大切なリリーと同等の者がリリーが命よりも大切にするべき番が草っ原で転がされてる!?
「あってはならないことじゃありませんか!?貴方、自分の番になんて事してるんです?」
そんな関係になった状態でリリーは番を放置して野営地に帰ってきたのだ。ならば当然事後のはず。いくら本人に眠っている時の記憶がないと言えどもここ周辺に巡回している騎士はいるし野の獣だっているだろう。それらに見つからないという保証はどこにもないのに…!
「ちゃんと着替えさせて簡易結界も張ってきたから…」
悪戯を見つけられて怒られる子供の言い訳の様に少し口籠もってリリーは状況を説明した。
「だからって!リリー!?」
「しっ…イルンが起きるぞ?」
体力的にはまだまだなイルンだ。朝早起きして行動しているせいか夜半は早く就寝しているため既にテント内では静かに寝息を立てている。
「はぁぁぁ~……アーキン殿になんて説明したらいいんだか……もう!リリーが説明してくださいよ!?折角一緒の時間を過ごせたというのに、知らない内に眠らされて放置って…男の沽券にかかわる大問題じゃないですか!もう~」
「行くの?行かないの?」
頭を抱えそうになっているのノルーにリリーは声をかける。
「行きますよ、勿論!他の騎士になんて言いましょうね?あ、香りでバレるか?」
ブツブツ言いながらテント内を移動し大判なベッドカバーらしき布をむんずと掴んでノルーは足速にテントから出て行こうとする。
「もぅ、私浮遊魔法得意じゃないんですよ、もう!」
まだまだノルーはリリーに対して言いたい事がある様だ。普段ならば二つ返事でリリーの命令には従順に従う彼なのだが、いかんせん番を野原に捨ててくるという前代未聞の仕打ちを仕出かしたリリーの所業に仕事用に被っていた仮面がポロリと落ちてしまったのだろう。
「ノルーなら上手くやるだろ?一人くらい…」
「リリー……」
最早ため息以外出てこない…どうしてこうも自分の主人は頑ななのかと頭を押さえてしまう。
「えぇ、勿論。他でもない貴方のご命令ならば何でも喜んで。でもリリー、これはきっと違うでしょう?きっと貴方の本心ではない。だから私だって困惑するんですよ…」
テントから出ていきながら静かに呟いたノルーの声は頑固な主人に届いたのだろうか。ノルーはそれを確かめる間も無く主人であるリリーの魔力の残滓を追っていく…その先に主人が命よりも大切と思う主人の番がいるのだから。
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