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46.接近 1 *

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「一体ここで何して?」

 上空に吹く風にリリーの髪がなぶられ揺れる。お互いもう就寝してもいい時間帯でリリーは飾り気のない室内着のシャツに楽そうなスラックス、対しアーキンはハイネックのシャツと下衣は騎士隊の制服に騎士団のマントを羽織っているだけの軽装だ。リリーの身分ならばここにいる理由が見張りと言われても通らないだろう。

「私だってプライベートだ。息抜きくらいしてもいいだろう?」

 誰の目も届かないちょっとした自分だけの時間のはずだったのに…お前が来たら意味がない…

 リリーは冷たい視線をアーキンに送る。そんなリリーの視線をものともせずに風で乱れた前髪をそっと撫で付ける様にアーキンはリリーに優しく触れてくる。ここは風も強い上空である。風が強ければ強いほど寒さも感じるだろうに、今は何故だか逆だから不思議なものだ。

「触るな…!」

 ピッと軽いタッチでリリーはアーキンの手を振り払う。触られたのは一瞬…それなのに掠めるくらいの微かな体温にも反応してしまうとはΩの身体が恨めしい。

「前の様にいきなり眠らせるのは無しな?眠らせたら浮遊の魔法も効かないと思うから。俺を即死させたいならどうぞ?」

 静かな口調とは裏腹にアーキンは実に不穏な事を言ってのける。アーキンは得意の魔力操作で今リリーからの魔法干渉を遮断している状態にいる。アーキンにとって知っている魔法を完全に遮断する事は難しくはない。だが以前リリーから受けた眠らされた時の魔法には詳しくはないのだ。
 リリーがその気になればアーキンはここで難なく眠らされてしまうだろう。もし眠ってしまって落ちていくアーキンにリリーの浮遊の魔法が効かなければアーキンの言うようにそのまま落下死を免れない。アーキンは自分から距離を取ろうとしているリリーの退路の一つを自分の命をかけて塞いできた。

「…卑怯者……そんな事をしてなんの得がある?」

「得……?大いにあるだろう?」

 アーキンは遠慮なく距離を縮めてリリーの頬に触れる。暖かく柔らかい……風が強い上空では気のせいかもしれないがリリーの体表全てから何とも言えない自分を誘う良い香りがしている気がしてならない。

「…さわ……っ」

 るな、と最後まで言わないうちにビクッと身体が跳ねる。後ろに下がろうにもここは空中でアーキンも自由に制限なく移動できるのだ。例えリリーが下がって距離を取ろうとしても先程の様に直ぐにアーキンに間合いを詰められるだろう。

「もう一度言う。私に、触れるな…!」

 下がろうとするリリーの先を見越してアーキンは既に距離を詰めていた。やっと手を伸ばせば届く距離にいたのに何という事だろうか、リリーは今はアーキンの腕の中だ。

「2度目だ……」

 グッと腕を伸ばして身体を引き剥がそうとしても体格差があってリリーには無理だろう。今は帯剣していないし魔力で吹き飛ばして意識でも失ったらアーキンの言う通り落下死は免れない事になる。どうにかして離れたいリリーの思いなど最早どうでもいいのかアーキンは腕に力を込めてリリーをしっかりと抱きしめた。

 柔らかさと、体温…肌を通して響いてくるお互いの鼓動…気の所為なんかではない番の香り…相手の全てが完璧でついウットリしてしまう。

「下に行こうリリー。ここは冷える。」

 本当は水風呂に入った方が良さそうなくらいには身体が火照っているのだが……

「1人で…行けばいい……」

 自分の使命を思い出せ…!Ωであったからこそ、辛く、寂しい幼少期を過ごす事になったではないか…もう2度と誰も求めないと…誓ったのに……!

「絶対にリリー1人を置いて行かない。」

 アーキンは羽織っていた騎士のマントでリリーをスッポリと包んでしまった。

 風が遮断される……マントの中はアーキンとリリーの香りが濃く充満していく…
 嗅げば嗅ぐだけ一呼吸毎に理性は剥がれる……番の存在は自分でどうこうできるものではなかった…………



 

「んっ……ふぅ……っん…」

 どちらの吐息か漏れ出た声かお互い識別できなくなるほど夢中で唇を求め会う。互いの吐息、熱に匂い…舌先から感じる番の味まで全てが甘く、熱く、溶けてしまいそうだ……

 こうならない様に距離を取ったはずだ。姿を見せなかったし目も合わせなかったのに…元々身分の差があるし拒絶を見せれば大人しく自分を抑えているものと、そう思っていたのに…リリーは完全にアーキンを見誤っていたのだ。越えられない壁をわざわざ登ってくる様な馬鹿な者では無いと。だが、結果がこれだ。今互いが互いを求め合うという一番落ちてほしくはない結末に落ち着こうとしているなんて…

 角度を変えてリリーの口腔内をアーキンの舌は自由に思うがままに蹂躙してくる。リリーは後頭部を大きな手で抑えられ逃げることも吸い付くアーキンの唇から顔を背けることもできはしない。そんな相手に屈服させられる様な屈辱的な状況に今信じられない事にリリーは喜びを感じている。

 熱烈なキスをしながら、細身のリリーの身体を確かめる様に宥める様に一瞬たりとも離れず触れてくるアーキンの大きな手の感触がくすぐったくて、アーキンに求められるこの状況が何故だが無性に誇らしくて気を抜けば涙腺まで崩壊してきそうになる……
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