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45.疑惑 4
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王都への長い帰路中にもたれる休憩ではリリーやイルンはほぼ馬車の中で過ごしていてあまり外へは出歩かない。その姿を拝みたくても護衛なる先輩騎士達に周囲を囲まれてしまってその姿を捉えるのさえ難しい。
「リリー、あの者と何かありましたね?」
休憩の度に突き刺さるような視線を感じている身としては、その視線に殺意さえ込められているのではないかとさえ錯覚しそうになっている。グレイルがリリーに手を差し伸べたり身体に触れるような行為があった時は一際それが激しいのだ。
「新米騎士は暇なのか?」
「いえ、決してそうじゃないと思いますが…煩わしかったら王都にでも伝令として飛ばしますか?」
「バンシルー卿、そんな事をしたら余計恨まれますよ…」
苦笑を漏らすのはノルーだ。
「やれやれ…彼も必死ですね?リリー、折れてあげては?」
「本気で言ってるのか、ノルー?放っておけ…」
周囲の心配を他所にリリーの対応はそっけない。彼の中で番を持つ事は重要事項の上位に無い。番でなくても発情期には対処できるし、Ωの自分が番を持って子を残さなければならない立場でもないからだ。
それにまだまだやる事がある…
幼い頃に心に決めて唯一望む事を許された自分の望み。リリーはそれを叶える為だけに生かされているようにも思う。
「時間の問題…かと思いますけどね?」
「消しましょうか?」
騎士と共に騎乗にて帰路についていたヤリスはサラッと恐ろしい事を言ってくれる。
「ヤリス…今はまだ良い、殺すなよ?あれでも大事な戦力だからな。あ、それでヤリス、イルンと同い年だぞ。時々構ってやれ。」
「ご命令でしたらリリー。」
「お前は相変わらず無愛想だね?怖がられない様に優しくね?」
「分かっております。お任せください。」
そう頭を下げるヤリスの顔に笑顔はない…
「今日はここで野宿だそうだ。」
保護対象のΩと重要参考人なるミルカを護送中の一行は、王都までの道のりを細かい休憩を取り入れつつ進んでいる。時にはこうして野営をし夜を明かす。遠征に慣れた者達ならば野営の準備もお手のものだった。夜も深け賑やかしい食事が終われば見張り番を残し野営地も周囲の様な静けさを取り戻す。
見晴らしの良い草原が広がる静かな周囲には野営の魔法灯と月明かり以外に辺りを照らすものはない。遠目から見たら魔法灯で浮き出された野営地は幻想の様に美しく見えたに違いなかった。
「らしくない事をする……」
ぼうっと浮かぶ野営地を眼下に見下ろしながらリリーは独りごちる。天候にも恵まれ帰路は順調で明日の夕には王都へと到着の予定だ。なのに、後1日程をも耐えられずに陣営から抜け出しているのだから…
司令官である自分の天幕は意外と居心地が良いのだが、いかんせんここには奴がいる。緊張を強いられるような場面ではいざ知らず今回の事件については既に山場を越したもいいところで、考えないようにしていてもついついその存在自体が鼻に付くのだ。
「新騎士どころか総司令も暇なのか…?」
誰に問うまでもなくリリーは1人で空に向かって呟く。
「私には要らないのに……」
そう、要らないのに…伴侶も結婚にも興味なんてない。まして番などもっての他だと思っている。
Ωに産まれたのだから本人の希望や望みなんてものは役に立たない事はよく理解した上でそれでも今までやってきた。そして今まで通りΩである事実を抑えつつ過ごそうとしても今現在身体は真逆の反応を起こすから戸惑いが大きい。
「あんた、まさか襲われたい願望があるとかじゃないよな?」
空中に静止している状態でまさか後ろから声がかかるとは思いもよらない。この時ばかりはリリーは油断した自分を大いに呪う。全くと言っていいほど周囲に気を回していなかった…
油断した………
ノルーに知られたら小一時間程小言の嵐になりそうだ。
空中に静止するリリーの後ろには同じく空中に留まるアーキンの姿がある。
「まさか……」
襲われたい願望など勿論ない…そして、ここにアーキンがいるとも思わなかった…けれど切れ長の燃えるような赤い瞳は確かにリリーの視線を捉えて外さない。
「そうか…?前は発情フェロモン出しながら外にいるし、今だって護衛もなしだろう?」
Ωを求めるαがリリーを思うようにできるかどうかは別として、リリーの行動はもう誰でもいいから襲ってくれと言っているようなものだと思う。そんな姿を見せつけられては番となるべくアーキンは黙ってなどいられるものではない。
「……上官に対する態度ではないな…?」
言葉を崩して話しているアーキンはリリーの忠実な部下達から不敬罪として吊し上げられそうなものである。
「…今は勤務時間外。プライベートだ。」
「…それでも身分は違うぞ?」
「なんだ…跪けばいいのか?」
ここは空中である。言葉通り膝をつくことはできないだろうに。
「はぁ……どうしてここにいる?」
無駄な言葉遊びは止めて本題に入って早く帰らせたほうがいい。
「あんたの気配が動いたからだよ。」
それもこんな上空に…!
「リリー、あの者と何かありましたね?」
休憩の度に突き刺さるような視線を感じている身としては、その視線に殺意さえ込められているのではないかとさえ錯覚しそうになっている。グレイルがリリーに手を差し伸べたり身体に触れるような行為があった時は一際それが激しいのだ。
「新米騎士は暇なのか?」
「いえ、決してそうじゃないと思いますが…煩わしかったら王都にでも伝令として飛ばしますか?」
「バンシルー卿、そんな事をしたら余計恨まれますよ…」
苦笑を漏らすのはノルーだ。
「やれやれ…彼も必死ですね?リリー、折れてあげては?」
「本気で言ってるのか、ノルー?放っておけ…」
周囲の心配を他所にリリーの対応はそっけない。彼の中で番を持つ事は重要事項の上位に無い。番でなくても発情期には対処できるし、Ωの自分が番を持って子を残さなければならない立場でもないからだ。
それにまだまだやる事がある…
幼い頃に心に決めて唯一望む事を許された自分の望み。リリーはそれを叶える為だけに生かされているようにも思う。
「時間の問題…かと思いますけどね?」
「消しましょうか?」
騎士と共に騎乗にて帰路についていたヤリスはサラッと恐ろしい事を言ってくれる。
「ヤリス…今はまだ良い、殺すなよ?あれでも大事な戦力だからな。あ、それでヤリス、イルンと同い年だぞ。時々構ってやれ。」
「ご命令でしたらリリー。」
「お前は相変わらず無愛想だね?怖がられない様に優しくね?」
「分かっております。お任せください。」
そう頭を下げるヤリスの顔に笑顔はない…
「今日はここで野宿だそうだ。」
保護対象のΩと重要参考人なるミルカを護送中の一行は、王都までの道のりを細かい休憩を取り入れつつ進んでいる。時にはこうして野営をし夜を明かす。遠征に慣れた者達ならば野営の準備もお手のものだった。夜も深け賑やかしい食事が終われば見張り番を残し野営地も周囲の様な静けさを取り戻す。
見晴らしの良い草原が広がる静かな周囲には野営の魔法灯と月明かり以外に辺りを照らすものはない。遠目から見たら魔法灯で浮き出された野営地は幻想の様に美しく見えたに違いなかった。
「らしくない事をする……」
ぼうっと浮かぶ野営地を眼下に見下ろしながらリリーは独りごちる。天候にも恵まれ帰路は順調で明日の夕には王都へと到着の予定だ。なのに、後1日程をも耐えられずに陣営から抜け出しているのだから…
司令官である自分の天幕は意外と居心地が良いのだが、いかんせんここには奴がいる。緊張を強いられるような場面ではいざ知らず今回の事件については既に山場を越したもいいところで、考えないようにしていてもついついその存在自体が鼻に付くのだ。
「新騎士どころか総司令も暇なのか…?」
誰に問うまでもなくリリーは1人で空に向かって呟く。
「私には要らないのに……」
そう、要らないのに…伴侶も結婚にも興味なんてない。まして番などもっての他だと思っている。
Ωに産まれたのだから本人の希望や望みなんてものは役に立たない事はよく理解した上でそれでも今までやってきた。そして今まで通りΩである事実を抑えつつ過ごそうとしても今現在身体は真逆の反応を起こすから戸惑いが大きい。
「あんた、まさか襲われたい願望があるとかじゃないよな?」
空中に静止している状態でまさか後ろから声がかかるとは思いもよらない。この時ばかりはリリーは油断した自分を大いに呪う。全くと言っていいほど周囲に気を回していなかった…
油断した………
ノルーに知られたら小一時間程小言の嵐になりそうだ。
空中に静止するリリーの後ろには同じく空中に留まるアーキンの姿がある。
「まさか……」
襲われたい願望など勿論ない…そして、ここにアーキンがいるとも思わなかった…けれど切れ長の燃えるような赤い瞳は確かにリリーの視線を捉えて外さない。
「そうか…?前は発情フェロモン出しながら外にいるし、今だって護衛もなしだろう?」
Ωを求めるαがリリーを思うようにできるかどうかは別として、リリーの行動はもう誰でもいいから襲ってくれと言っているようなものだと思う。そんな姿を見せつけられては番となるべくアーキンは黙ってなどいられるものではない。
「……上官に対する態度ではないな…?」
言葉を崩して話しているアーキンはリリーの忠実な部下達から不敬罪として吊し上げられそうなものである。
「…今は勤務時間外。プライベートだ。」
「…それでも身分は違うぞ?」
「なんだ…跪けばいいのか?」
ここは空中である。言葉通り膝をつくことはできないだろうに。
「はぁ……どうしてここにいる?」
無駄な言葉遊びは止めて本題に入って早く帰らせたほうがいい。
「あんたの気配が動いたからだよ。」
それもこんな上空に…!
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