26 / 144
26.潜入捜査7
しおりを挟む
その部屋は地下にあった…木造りの表のドアを入りしばらくは薄暗い廊下を進む。暗がりでも足元はしっかりと見える様に魔法灯が輝いて通路を照らしていた。その廊下から階下に通じる階段を降りると二つの扉があった。一つは質素な作りをした木のドアでスタッフと書かれている。もう一つは豪奢な作りをしていて明らかに客を迎えるべきドアに見える。店主と共に地下に降りたヤリスはこのスタッフと書かれた木の扉から部屋に入る。中は非常にこじんまりとしていて簡素なテーブルに椅子が置いてあるだけだった。が、壁一面鏡の様になっている。
「ここだ。ここでお前は勉強してもらうよ?」
「なんのでしょう?」
客を取らせる算段の一つとして娼館ラークの館の店主はヤリスに勉強をさせる為にここに連れてきたのだ。
「まぁ、見ていればわかる。お前、Ωを見た事はあるかい?」
「いえ、ここ以外で実際には……」
「だろうさ。今時分そうΩなんて居るもんじゃない。」
「けど、シュウさんは……?」
「ははっ!あれはビジネスだよ?仕事だ。ああ言うね?けどな?本当にいる所にはいるものさ…」
スッと店主はガラス張りの壁に手を近づけた。
「……!?」
確かに前面にはガラスが張っていたはず?その奥までは見えていなかったのに、今はこの部屋がまだ続いている様な錯覚を起こしそうなほどにクリアに隣の部屋が見えていた。
「なんだ、そんなに驚いてないのか?お前は本当に分かりずらいね?まぁ良い。これは魔法の応用の一種だ。お前も魔力は持っているだろう?ほんの少しでも流すと向こうを見る事ができる。」
「あの、向こうからは?」
「それは見えないんだよ。だから素の状態のΩが見れるぞ?」
「……Ω……?では、ここに?」
「そうだ。今日は余す所なく見せてやろう。今日は特別なお客様が見えるのでね?中のΩも万全の状態で待っているぞ?」
覗き見れる向こう側には階上の部屋よりも豪華な作りの家具が揃えてある。窓は一切ないが魔法灯はふんだんにあしらわれまるで昼間の様な明るさだ。中央に置かれたベッドもシュウが使っているものよりもさらに大きく布地の質も上等なものに見える。その別途のうえで蠢く人影が先程から見えている。その者は既に一糸纏わぬ裸で首に太い首輪がはめられていた。
「あれが、Ω?」
寝具の上で身をくねらせる様に悶えていて、尋常ならざる雰囲気だ。
「そうだ。特別な薬を使っていてね。今丁度発情させている所なのさ。」
「無理やり……?」
Ωの人物の顔は良く見えない。男である事はわかったが年齢も定かでは無い。
「そう言うのが好きなお客様が居てね?Ωの子に強請られて強請られて焦らす様をみるのが趣味らしい。」
「………………」
なんとも悪趣味な趣味の持ち主…発情中は頭が焼けそうになる程αを求めると聞いた事がある。
「世の中にはいろんな客がいるのさ。本物のΩを金を湯水の様に払ってまで手に入れたいと思う者も偽りと知っても一時の夢で良いと言う者も。俺達はそんなお客様に答えているんだ。さ、もうじきいらっしゃるな?」
可哀想な目の前のΩを買おうとしている悪趣味な客がくる。胸糞悪い気しかしないがヤリスの表情は変わらない。
「ヤリスよ…お前も一緒に挨拶するのだぞ?愛想笑いでもいいから笑顔を作りなさい。」
スタッフと書かれているドアを出れば、階上が賑やかしい。どうやら件の客が到着したらしかった。笑い声と何かを称賛する様な媚びた声。ヤリスも良く知っているラークの館の従業員が客を地下に案内してくる。
「いらっしゃいませ。旦那様…」
店主の挨拶と合わせてヤリスも深く頭を下げる。ここでは客の個人名を呼ぶ事はない。地位ある者もお忍びで足を運ぶ事がある為だ。今日のお客様も仮面舞踏会の様な仮面を付けていた。
「うむ。今日も世話になるな。」
「今か今かとお待ち申し上げておりました。ささ、中にどうぞ?もう待ちきれませんでしょうから。」
下卑たニヤケ面で店主の挨拶を受けたお客様はふと足を止める。
「ん?そっちの子は?見ない顔だね?」
挨拶は終わったとばかりにヤリスは顔を上げてしっかりと客を見つめる。
「あ、こちらはこれからここで働く者でございます。どうかお見知り置きを……」
「ほう…ここでね?」
「はい。左様です。さ、ヤリスご挨拶しなさい。」
後ろに控えていたヤリスに店主は挨拶を促した。ヤリスは一歩前に出てゆっくりと丁寧で上品な挨拶をする。
「お初にお目にかかります。ヤリスと申します。以後お見知り置きを。旦那様には良い1日が訪れます様に。」
顔を上げた瞬間、今まで誰も見た事がなかった様な美しい笑みでヤリスは客を見つめる。
「…!?」
「……ほうっ!これはこれは……!美しいな………」
ホクホクとΩの部屋へ入ろうとしていた客はヤリスの笑みに魅了されたように恍惚とした表情となる。
「店主!この子はいつから店に出るのだね?」
「はぁ…まだ不作法でございまして、今勉強中なのでございます。」
「不作法?この子がかね?先程はこんな所で見られない様な見事な礼儀作法だったじゃないか?」
「そうでございましたか?」
「あぁ、そうだとも!こんな暗がりで燻らせておくなんて勿体無い!勉強中と言ったね?」
「はい左様です。」
「では今日は私と一緒に来る様に。勉強したいと言うのならば一番近くで見ていれば良い!」
この、変態親父……これを顔に出さずにヤリスは更に美しく微笑んでみせた。
「ここだ。ここでお前は勉強してもらうよ?」
「なんのでしょう?」
客を取らせる算段の一つとして娼館ラークの館の店主はヤリスに勉強をさせる為にここに連れてきたのだ。
「まぁ、見ていればわかる。お前、Ωを見た事はあるかい?」
「いえ、ここ以外で実際には……」
「だろうさ。今時分そうΩなんて居るもんじゃない。」
「けど、シュウさんは……?」
「ははっ!あれはビジネスだよ?仕事だ。ああ言うね?けどな?本当にいる所にはいるものさ…」
スッと店主はガラス張りの壁に手を近づけた。
「……!?」
確かに前面にはガラスが張っていたはず?その奥までは見えていなかったのに、今はこの部屋がまだ続いている様な錯覚を起こしそうなほどにクリアに隣の部屋が見えていた。
「なんだ、そんなに驚いてないのか?お前は本当に分かりずらいね?まぁ良い。これは魔法の応用の一種だ。お前も魔力は持っているだろう?ほんの少しでも流すと向こうを見る事ができる。」
「あの、向こうからは?」
「それは見えないんだよ。だから素の状態のΩが見れるぞ?」
「……Ω……?では、ここに?」
「そうだ。今日は余す所なく見せてやろう。今日は特別なお客様が見えるのでね?中のΩも万全の状態で待っているぞ?」
覗き見れる向こう側には階上の部屋よりも豪華な作りの家具が揃えてある。窓は一切ないが魔法灯はふんだんにあしらわれまるで昼間の様な明るさだ。中央に置かれたベッドもシュウが使っているものよりもさらに大きく布地の質も上等なものに見える。その別途のうえで蠢く人影が先程から見えている。その者は既に一糸纏わぬ裸で首に太い首輪がはめられていた。
「あれが、Ω?」
寝具の上で身をくねらせる様に悶えていて、尋常ならざる雰囲気だ。
「そうだ。特別な薬を使っていてね。今丁度発情させている所なのさ。」
「無理やり……?」
Ωの人物の顔は良く見えない。男である事はわかったが年齢も定かでは無い。
「そう言うのが好きなお客様が居てね?Ωの子に強請られて強請られて焦らす様をみるのが趣味らしい。」
「………………」
なんとも悪趣味な趣味の持ち主…発情中は頭が焼けそうになる程αを求めると聞いた事がある。
「世の中にはいろんな客がいるのさ。本物のΩを金を湯水の様に払ってまで手に入れたいと思う者も偽りと知っても一時の夢で良いと言う者も。俺達はそんなお客様に答えているんだ。さ、もうじきいらっしゃるな?」
可哀想な目の前のΩを買おうとしている悪趣味な客がくる。胸糞悪い気しかしないがヤリスの表情は変わらない。
「ヤリスよ…お前も一緒に挨拶するのだぞ?愛想笑いでもいいから笑顔を作りなさい。」
スタッフと書かれているドアを出れば、階上が賑やかしい。どうやら件の客が到着したらしかった。笑い声と何かを称賛する様な媚びた声。ヤリスも良く知っているラークの館の従業員が客を地下に案内してくる。
「いらっしゃいませ。旦那様…」
店主の挨拶と合わせてヤリスも深く頭を下げる。ここでは客の個人名を呼ぶ事はない。地位ある者もお忍びで足を運ぶ事がある為だ。今日のお客様も仮面舞踏会の様な仮面を付けていた。
「うむ。今日も世話になるな。」
「今か今かとお待ち申し上げておりました。ささ、中にどうぞ?もう待ちきれませんでしょうから。」
下卑たニヤケ面で店主の挨拶を受けたお客様はふと足を止める。
「ん?そっちの子は?見ない顔だね?」
挨拶は終わったとばかりにヤリスは顔を上げてしっかりと客を見つめる。
「あ、こちらはこれからここで働く者でございます。どうかお見知り置きを……」
「ほう…ここでね?」
「はい。左様です。さ、ヤリスご挨拶しなさい。」
後ろに控えていたヤリスに店主は挨拶を促した。ヤリスは一歩前に出てゆっくりと丁寧で上品な挨拶をする。
「お初にお目にかかります。ヤリスと申します。以後お見知り置きを。旦那様には良い1日が訪れます様に。」
顔を上げた瞬間、今まで誰も見た事がなかった様な美しい笑みでヤリスは客を見つめる。
「…!?」
「……ほうっ!これはこれは……!美しいな………」
ホクホクとΩの部屋へ入ろうとしていた客はヤリスの笑みに魅了されたように恍惚とした表情となる。
「店主!この子はいつから店に出るのだね?」
「はぁ…まだ不作法でございまして、今勉強中なのでございます。」
「不作法?この子がかね?先程はこんな所で見られない様な見事な礼儀作法だったじゃないか?」
「そうでございましたか?」
「あぁ、そうだとも!こんな暗がりで燻らせておくなんて勿体無い!勉強中と言ったね?」
「はい左様です。」
「では今日は私と一緒に来る様に。勉強したいと言うのならば一番近くで見ていれば良い!」
この、変態親父……これを顔に出さずにヤリスは更に美しく微笑んでみせた。
応援ありがとうございます!
12
お気に入りに追加
351
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる