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22.潜入捜査3 *
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「なぁ、いいだろう?あと一回!!」
「え~~どうしようかなぁ…だって、もう時間だよ?」
狭い室内にはセミダブルのベッドと鏡台があり直ぐ隣の部屋にはトイレとバスルーム。ベッドの上ではその身に一糸纏わぬ姿で絡みあっている2人の人の姿がある。身体の大きな男は小綺麗で華奢な青年を組み敷いてキスの雨を降り注いでいた。
「シュウだってここが寂しいだろう?」
シュウと呼ばれた青年は娼館で働く娼夫である。青年というよりはもっと若そうな印象も受ける整った顔立ちをしている。客から降り注がれるキスの雨から何とか逃れようと客の体の下で身を捩って反転する。
「あっ…ん…いきなり…やっ」
先程までこの男が入っていた場所はまだ柔らかく潤っていて無理矢理でもすんなりと奥まで客の猛りを受け入れてしまった。
「何を言っているんだ?ここだってまだまだ欲しいと言ってるじゃないか?」
「あっ…あん……やぁ…あっ」
「Ωなんだからちゃんと入れておいた方が良いんだろう?シュウにはまだ番がいないし発情期にでも入ったら抑制剤を買うのも大変だろう?」
Ωの発情期はαに沈めてもらう事が一番手っ取り早い。けれど番がいない者は売られている抑制剤を決して安くはない値で買わなくてはいけなくなる。
「でも…で…も…」
「遠慮するなって……」
「何が遠慮するな、だ!!」
ボン!!客が去った後の部屋は荒れ模様だ。客が意気揚々と出て行ったドアに向かってシュウは羽枕を投げつけた。
「シュウさん備品にあたると怒られますよ?」
そのドアから1人の少年が入ってきてその枕を拾う。
「いいんだよ!あんな奴!金払いも悪いくせに目一杯自分しか楽しもうとしないでさ!?何がΩだ!そんじょそこらにΩなんか転がってるかってーの!ばーか!!」
いい客悪い客という者があるのだ、とシュウは年若い弟分に切々と話聞かせてくれる。
「いい?ヤリスは何しろ顔が良いんだからね?もっと自覚しなきゃダメだよ?じゃなきゃあんな客に良い様に貪られるだけなんだから!」
ここはΩが接待してくれると言う売りの店。だから客もそのつもりでくるのだろう事は分かるのだ。しかしこの店だけでも20名程の娼婦(夫)達が働いているのだがΩがそこここにこんなにいるもんじゃないだろう事は少し考えてみても分かるはずなのに。ここにくる客といったらそんな思考回路が全てバグってしまっているみたいだった。
この店の娼婦(夫)たちはほぼβである。
中には訳ありのαもいるにはいるがこの花街全体の中でも一握りもいない。そんなβ達がΩを偽る。Ωという希少性に興味を持った客を手っ取り早く掴むためだ。そして店の方もプロである。Ωと謳うのであればそれなりの準備もするわけで客に甘える態度から発情している様な素振りから色々と叩き込まれるのである。
「でもシュウさんβですよね?同衾しててよくバレませんね?」
ヤリスは圧倒的に表情が足りない。何があっても無表情と言っても良い。ここに売られたのだってこんな無表情を気味悪がられたからなんじゃないかと噂になったほど。だからどんな会話や質問にも照れた様子も狼狽える様子もなく聞いてくるがその様さえつまらなく見えてしまう。
「そりゃあね?相手、αを騙すんだよ?演技だけじゃダメだって事はわかるだろ?だからこっちにはちゃんと秘策があるんだ。後ろを濡らすには潤滑剤って物があるしね?Ωだって思われる為に……」
シュウは鏡台の引き出しの中から幾つかの小瓶を出す。
「ほら、Ωのフェロモンに似せた香水。これを濃度を変えてつける事で本物のΩ感を出すんだよ。」
並べ置かれた小瓶は一見すると香油やら化粧水の様に見える。
「ヤリス…もう少し笑ってごらん?顔の作りはここ一番良いのに…店主もお前を秘蔵のΩとして売り出したいみたいだよ?せめて甘える仕草を身につけなくちゃαに酔いしれるΩを演じられないじゃないか…」
はぁぁぁ…とシュウは裸のままで深いため息を吐く。年若い娼婦達の面倒を見るのは先にここで働いている先輩達の仕事の一つだ。弟分であるヤリスは外見は申し分ない程見事であるのに、圧倒的な表情の乏しさからこのまま行くと変な趣向の愛好家達の慰み者にしかならなくなるかも、と少し心配にもなってくる。
「でも僕もβですし。」
「そ、ここはほとんどがβだよ?」
「本当のΩは居ないんですね?」
「そう思う?」
意味深なシュウの物言い。
「こんな小さな店でも目が眩む程の金が動くことがあるんだ。ヤリス字は読めたよね?」
「ええ、まぁ…」
「だったら時折店主の帳簿を覗いてごらん?面白い物が観れるから。」
「面白いもの?そんな事したら酷く怒られますよ?」
この様な店の折檻は有名だ。余計な事には口を挟まない方がいいはずなのだ。
「そ、字を読めないふりしてね?見つかったら帳簿の赤字を指してこの綺麗な文字はなんですかってさ。」
「シュウさん、やった事あるんですか?」
「ん、まぁね。だってつまらないじゃないか…!ここからは勝手に出られないで閉じ込められたまま!それに毎日好きでもない相手と濃厚な時間を過ごさなきゃならないんだからさ…少しくらい楽しみがあったっていいだろう?」
「………そうだ…これを預かってきたんでした。」
ヤリスは手に持っていた衣装をシュウに渡す。
「うげぇ…またあの変態親父………」
それはヒラヒラフリフリスケスケのナイトドレスとも言い難い代物だった…
「え~~どうしようかなぁ…だって、もう時間だよ?」
狭い室内にはセミダブルのベッドと鏡台があり直ぐ隣の部屋にはトイレとバスルーム。ベッドの上ではその身に一糸纏わぬ姿で絡みあっている2人の人の姿がある。身体の大きな男は小綺麗で華奢な青年を組み敷いてキスの雨を降り注いでいた。
「シュウだってここが寂しいだろう?」
シュウと呼ばれた青年は娼館で働く娼夫である。青年というよりはもっと若そうな印象も受ける整った顔立ちをしている。客から降り注がれるキスの雨から何とか逃れようと客の体の下で身を捩って反転する。
「あっ…ん…いきなり…やっ」
先程までこの男が入っていた場所はまだ柔らかく潤っていて無理矢理でもすんなりと奥まで客の猛りを受け入れてしまった。
「何を言っているんだ?ここだってまだまだ欲しいと言ってるじゃないか?」
「あっ…あん……やぁ…あっ」
「Ωなんだからちゃんと入れておいた方が良いんだろう?シュウにはまだ番がいないし発情期にでも入ったら抑制剤を買うのも大変だろう?」
Ωの発情期はαに沈めてもらう事が一番手っ取り早い。けれど番がいない者は売られている抑制剤を決して安くはない値で買わなくてはいけなくなる。
「でも…で…も…」
「遠慮するなって……」
「何が遠慮するな、だ!!」
ボン!!客が去った後の部屋は荒れ模様だ。客が意気揚々と出て行ったドアに向かってシュウは羽枕を投げつけた。
「シュウさん備品にあたると怒られますよ?」
そのドアから1人の少年が入ってきてその枕を拾う。
「いいんだよ!あんな奴!金払いも悪いくせに目一杯自分しか楽しもうとしないでさ!?何がΩだ!そんじょそこらにΩなんか転がってるかってーの!ばーか!!」
いい客悪い客という者があるのだ、とシュウは年若い弟分に切々と話聞かせてくれる。
「いい?ヤリスは何しろ顔が良いんだからね?もっと自覚しなきゃダメだよ?じゃなきゃあんな客に良い様に貪られるだけなんだから!」
ここはΩが接待してくれると言う売りの店。だから客もそのつもりでくるのだろう事は分かるのだ。しかしこの店だけでも20名程の娼婦(夫)達が働いているのだがΩがそこここにこんなにいるもんじゃないだろう事は少し考えてみても分かるはずなのに。ここにくる客といったらそんな思考回路が全てバグってしまっているみたいだった。
この店の娼婦(夫)たちはほぼβである。
中には訳ありのαもいるにはいるがこの花街全体の中でも一握りもいない。そんなβ達がΩを偽る。Ωという希少性に興味を持った客を手っ取り早く掴むためだ。そして店の方もプロである。Ωと謳うのであればそれなりの準備もするわけで客に甘える態度から発情している様な素振りから色々と叩き込まれるのである。
「でもシュウさんβですよね?同衾しててよくバレませんね?」
ヤリスは圧倒的に表情が足りない。何があっても無表情と言っても良い。ここに売られたのだってこんな無表情を気味悪がられたからなんじゃないかと噂になったほど。だからどんな会話や質問にも照れた様子も狼狽える様子もなく聞いてくるがその様さえつまらなく見えてしまう。
「そりゃあね?相手、αを騙すんだよ?演技だけじゃダメだって事はわかるだろ?だからこっちにはちゃんと秘策があるんだ。後ろを濡らすには潤滑剤って物があるしね?Ωだって思われる為に……」
シュウは鏡台の引き出しの中から幾つかの小瓶を出す。
「ほら、Ωのフェロモンに似せた香水。これを濃度を変えてつける事で本物のΩ感を出すんだよ。」
並べ置かれた小瓶は一見すると香油やら化粧水の様に見える。
「ヤリス…もう少し笑ってごらん?顔の作りはここ一番良いのに…店主もお前を秘蔵のΩとして売り出したいみたいだよ?せめて甘える仕草を身につけなくちゃαに酔いしれるΩを演じられないじゃないか…」
はぁぁぁ…とシュウは裸のままで深いため息を吐く。年若い娼婦達の面倒を見るのは先にここで働いている先輩達の仕事の一つだ。弟分であるヤリスは外見は申し分ない程見事であるのに、圧倒的な表情の乏しさからこのまま行くと変な趣向の愛好家達の慰み者にしかならなくなるかも、と少し心配にもなってくる。
「でも僕もβですし。」
「そ、ここはほとんどがβだよ?」
「本当のΩは居ないんですね?」
「そう思う?」
意味深なシュウの物言い。
「こんな小さな店でも目が眩む程の金が動くことがあるんだ。ヤリス字は読めたよね?」
「ええ、まぁ…」
「だったら時折店主の帳簿を覗いてごらん?面白い物が観れるから。」
「面白いもの?そんな事したら酷く怒られますよ?」
この様な店の折檻は有名だ。余計な事には口を挟まない方がいいはずなのだ。
「そ、字を読めないふりしてね?見つかったら帳簿の赤字を指してこの綺麗な文字はなんですかってさ。」
「シュウさん、やった事あるんですか?」
「ん、まぁね。だってつまらないじゃないか…!ここからは勝手に出られないで閉じ込められたまま!それに毎日好きでもない相手と濃厚な時間を過ごさなきゃならないんだからさ…少しくらい楽しみがあったっていいだろう?」
「………そうだ…これを預かってきたんでした。」
ヤリスは手に持っていた衣装をシュウに渡す。
「うげぇ…またあの変態親父………」
それはヒラヒラフリフリスケスケのナイトドレスとも言い難い代物だった…
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