21 / 144
21.潜入捜査2
しおりを挟む
「では、リリーこの件は我ら第2で編成を組みます。」
花街にヤリスと共に潜入しているのはグレイルの部下である。合同任務でもない限り他の騎士団に助けを求める事はない。まずは自己の隊で編成を組むのだ。グレイル率いる対魔法第2騎士団は今季入団したアーキンを含む新米騎士3名を抱える事となっている。
「うん、私も出る…」
「……良いんですか?新人ももちろんの事連れて行きますよ?」
新人と言えども戦闘経験のある者達ばかりだ。他団員との意気を合わせる為に実戦での経験が何よりのものとグレイルは考えている。なので新人達を積極的に連れ立って任務に赴くのだ。
「構わんよ?いつもの事だろ?」
書類に落とされた紫金色の瞳に揺らぎはない。読み進めて行くうちに少し長めの瞳と同じ紫金色の髪が頬にかかり光を受けて深い色味の艶を出す。Ωなのに弱い所も無く凛とした趣はΩというよりも人の上に立つ者のそれを彷彿とさせるものだ。
「ええ私は行きますし、ノルーも居るでしょう。ならばいつもと変わりませんね?」
「そうだ。変わらない。」
スッと視線を上げてグレイルの濃紺の瞳を捉えた紫金色の色の中には揺らぎはなかった。
「リリー、御命令に従います。」
ΩであってΩではない。αの騎士達をも捻り上げて平伏させることができるのがリリーなのだ。ここにいる騎士達でまだ誰もこのΩから勝ちを得たことが無い。
αが守るべきΩに従っている。なんとも普通のαの面々からしたら理解できない事かも知れないが、実際リリーは強い。桁外れた魔力量から繰り出される魔法は、得て不得手など無いに等しいし毒も薬もその身体には効かない。そればかりかリリーが自在にαを手球に取れるとしたら?こんなにも稀有な存在は他にいないのだから…
「気を引き締めろ!!ここは見習い訓練所ではない!!」
筋骨逞しい騎士達が怒号と汗を飛ばしながら剣を合わせ体当たりし魔力を爆発させ合う。流石に百戦錬磨とも言われる騎士団本部の騎士達の訓練は気迫も技量も魔力量も皆それぞれ桁外れな者が多い。いつもの訓練時間が本気の戦闘に発展している様な緊張感と命の危機さえも感じる。ここでは新騎士と言えどまだ一新兵と同等だ。騎士団団員の本気の連携の前には至る所で新騎士達が転がされている。
「ぐぅっ…」
「てぇ…!」
「どうしたどうした!?お前らあそこを抜けて来たんだろ?やってる事は変わらないぞ?本気を出し切っていない者はとっとと出しな!!」
転がっている新騎士達を煽るが如く先輩騎士は手を抜かない。
「おら!どうした!!お前らに命を預けるんだ!いざって時にその様じゃ預けられるもんも預けられねぇぞ!!」
朝から日が落ちるまで、時には日が落ちてから闇夜の中で昼夜を問わず訓練は続く。そして通常の訓練と合わせてあの地獄のΩフェロモンを浴びる事にもなる。心底クタクタになっている所にΩのフェロモンに相対するには心底閉口する。しかしこれは他の先輩騎士達も同じ事なのだ。まだ上手くΩのフェロモンを遮断できない新騎士達はなんとか自制を保つ事はできても身体の反応まではまだ抑えられないでいる。しかし先輩騎士は慣れたものでΩのフェロンを浴びた所で何の変化を見せる事はなかった。それどころかそのままの状態で戦闘訓練までこなしている始末だ。
「嘘だろう…?」
ただでさえ集中していないとフェロモンに飲み込まれて行ってしまうのに更に真剣や魔法の応酬がまだこれから待っている……
「嘘なものか。時にはΩを庇いつつ応戦しなければならないんだ。まだ新入りに任せられる仕事では無いが自らのα性を抑えられる事が重要になってくる。俺達みたいな強靭な騎士に守ってもらえると思ったらΩだって安心するだろう?」
ある時こう語ってくれた先輩騎士がいる。どうしても番が欲しいのだそうで、その出会いの為に日々業務をこなしているのだそう。自分の番を守れる事は何よりの喜びだろうと今から胸を躍らせている。
「わからんでも無いよなぁ…何しろ、これからは現場でΩに接触するしなぁ…」
いつものΩフェロモン遮断訓練が終わったところで、グッタリしつつマルスは言う…
毎日の訓練に僅かな希望。αの騎士達は自分のΩを夢見て日々尽力している様なものだった。
これから第2騎士団が向かう北領はセロント領という。王都より北にあたり気温もそれなりに低い所だ。作物があまり育たない地域だからだろうか昔からこの地方は娼館が多いのも有名なのだ。近年、Ωの娼婦(夫)が多くいると評判が上がり国中の好色家に注目されている地域でもある。
その娼館の名前はラークの館と言う。美形揃いのΩを全面に押し出し客足を掴んでいるが、実際にΩの娼婦(夫)の届けではない。そして近年Ωフェロモンに似せた媚薬も開発されると言う偉業によりこのΩの存在にも疑問が出始めていた。本物を笠に着て違法に運営しているところなど水面化に腐るほどあるのだが、しかし本物のΩが届出なく搾取され続けている可能性があるのならばそれは防がなくてはならないのだ。
花街にヤリスと共に潜入しているのはグレイルの部下である。合同任務でもない限り他の騎士団に助けを求める事はない。まずは自己の隊で編成を組むのだ。グレイル率いる対魔法第2騎士団は今季入団したアーキンを含む新米騎士3名を抱える事となっている。
「うん、私も出る…」
「……良いんですか?新人ももちろんの事連れて行きますよ?」
新人と言えども戦闘経験のある者達ばかりだ。他団員との意気を合わせる為に実戦での経験が何よりのものとグレイルは考えている。なので新人達を積極的に連れ立って任務に赴くのだ。
「構わんよ?いつもの事だろ?」
書類に落とされた紫金色の瞳に揺らぎはない。読み進めて行くうちに少し長めの瞳と同じ紫金色の髪が頬にかかり光を受けて深い色味の艶を出す。Ωなのに弱い所も無く凛とした趣はΩというよりも人の上に立つ者のそれを彷彿とさせるものだ。
「ええ私は行きますし、ノルーも居るでしょう。ならばいつもと変わりませんね?」
「そうだ。変わらない。」
スッと視線を上げてグレイルの濃紺の瞳を捉えた紫金色の色の中には揺らぎはなかった。
「リリー、御命令に従います。」
ΩであってΩではない。αの騎士達をも捻り上げて平伏させることができるのがリリーなのだ。ここにいる騎士達でまだ誰もこのΩから勝ちを得たことが無い。
αが守るべきΩに従っている。なんとも普通のαの面々からしたら理解できない事かも知れないが、実際リリーは強い。桁外れた魔力量から繰り出される魔法は、得て不得手など無いに等しいし毒も薬もその身体には効かない。そればかりかリリーが自在にαを手球に取れるとしたら?こんなにも稀有な存在は他にいないのだから…
「気を引き締めろ!!ここは見習い訓練所ではない!!」
筋骨逞しい騎士達が怒号と汗を飛ばしながら剣を合わせ体当たりし魔力を爆発させ合う。流石に百戦錬磨とも言われる騎士団本部の騎士達の訓練は気迫も技量も魔力量も皆それぞれ桁外れな者が多い。いつもの訓練時間が本気の戦闘に発展している様な緊張感と命の危機さえも感じる。ここでは新騎士と言えどまだ一新兵と同等だ。騎士団団員の本気の連携の前には至る所で新騎士達が転がされている。
「ぐぅっ…」
「てぇ…!」
「どうしたどうした!?お前らあそこを抜けて来たんだろ?やってる事は変わらないぞ?本気を出し切っていない者はとっとと出しな!!」
転がっている新騎士達を煽るが如く先輩騎士は手を抜かない。
「おら!どうした!!お前らに命を預けるんだ!いざって時にその様じゃ預けられるもんも預けられねぇぞ!!」
朝から日が落ちるまで、時には日が落ちてから闇夜の中で昼夜を問わず訓練は続く。そして通常の訓練と合わせてあの地獄のΩフェロモンを浴びる事にもなる。心底クタクタになっている所にΩのフェロモンに相対するには心底閉口する。しかしこれは他の先輩騎士達も同じ事なのだ。まだ上手くΩのフェロモンを遮断できない新騎士達はなんとか自制を保つ事はできても身体の反応まではまだ抑えられないでいる。しかし先輩騎士は慣れたものでΩのフェロンを浴びた所で何の変化を見せる事はなかった。それどころかそのままの状態で戦闘訓練までこなしている始末だ。
「嘘だろう…?」
ただでさえ集中していないとフェロモンに飲み込まれて行ってしまうのに更に真剣や魔法の応酬がまだこれから待っている……
「嘘なものか。時にはΩを庇いつつ応戦しなければならないんだ。まだ新入りに任せられる仕事では無いが自らのα性を抑えられる事が重要になってくる。俺達みたいな強靭な騎士に守ってもらえると思ったらΩだって安心するだろう?」
ある時こう語ってくれた先輩騎士がいる。どうしても番が欲しいのだそうで、その出会いの為に日々業務をこなしているのだそう。自分の番を守れる事は何よりの喜びだろうと今から胸を躍らせている。
「わからんでも無いよなぁ…何しろ、これからは現場でΩに接触するしなぁ…」
いつものΩフェロモン遮断訓練が終わったところで、グッタリしつつマルスは言う…
毎日の訓練に僅かな希望。αの騎士達は自分のΩを夢見て日々尽力している様なものだった。
これから第2騎士団が向かう北領はセロント領という。王都より北にあたり気温もそれなりに低い所だ。作物があまり育たない地域だからだろうか昔からこの地方は娼館が多いのも有名なのだ。近年、Ωの娼婦(夫)が多くいると評判が上がり国中の好色家に注目されている地域でもある。
その娼館の名前はラークの館と言う。美形揃いのΩを全面に押し出し客足を掴んでいるが、実際にΩの娼婦(夫)の届けではない。そして近年Ωフェロモンに似せた媚薬も開発されると言う偉業によりこのΩの存在にも疑問が出始めていた。本物を笠に着て違法に運営しているところなど水面化に腐るほどあるのだが、しかし本物のΩが届出なく搾取され続けている可能性があるのならばそれは防がなくてはならないのだ。
23
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う
hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。
それはビッチングによるものだった。
幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。
国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。
※不定期更新になります。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!?
※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる