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16.隠された秘め事*
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白の邸宅も深夜には闇夜に飲み込まれる。どの部屋からも灯りが消えて静まりかえるころには白の邸宅と呼ばれる様相を垣間見ることさえできなくなる。しかし闇夜の中でも蠢く者達は何処にでもいるものだ。
誰だとも判別できない程の暗い室内ではそんな者達がたてる衣擦れと寝台の軋む音が微かに響く…
「…ぁっ……ん……」
「力を抜け?まだそんなに濡れてない…少し舐めるぞ?」
「いうな…っ…て……あっ…」
白い細身の肢体を開き大柄な男が中心に顔を埋めていく。
チュッチュウッと吸い付く様な水音がシンと静まる室内に大きく響いていく。
「我慢するなって…」
「してな、い…」
「体液入れなきゃ治らないだろ?もう少しほら、もう少し頑張れ。」
キュッと閉じそうになる脚の大腿を抑え込まれて全て晒される。自分で選択した結果であり初めてでもないくせにこんな時はまだ羞恥が襲ってくるものだ。
「ん…っ…」
身体の内側まで探られて感じてしまう身体とそれを拒否しようとする心…流れてくる涙は羞恥なのか自己嫌悪なのか自分でも分からなくなるくらいに快楽に流されてしまえばいい……
「お疲れ様でございます。」
真っ暗な室内とは正反対に帰り支度をするべき通された客室は優しい魔法灯の明るさに照らされている。
「…あぁ…」
いつもはきちんと整えられている蜂蜜色の髪は乱れ、それを整えつつ気怠げにジーン・ショーバンは側に控えた侍従に応えた。側に控えているカルトンは両手にトレーを携えてジーンの身支度が済むのを待っているのだ。
「抑制剤はご入用ですか?」
「いらんよ、カルトン。知っての通り俺には番が居るからね。他のΩのフェロモンには煽られないし、リリーからのはしっかり遮断もしている。」
「はい。十分に解っております。では中和剤としてこちらをどうぞ。」
カルトンが差し出したのは甘みとその甘い芳香が強い酒だ。抑制剤ではなく身体に纏わりついたΩの香りを断つ中和剤。
「うちのレイは焼きもちなぞ焼かんぞ?」
「ふふ。温厚な方ですものね?それでも、理解があっても心が伴わない事もありますから。リリーの為と思ってお取りください、ショーバン卿。」
「心配症だな、カルトン?早めに老けるぞ?」
「他ならぬリリーのためですから。今、どうしていますか?」
この様な時リリーは酷く人目を嫌う。側仕えであったとしても入室を禁ずる時もあるのだ。
「寝入ったよ。さんざん付き合ったからな。暫くは起きないだろ。次は一月後、予定通りグレイルでいいだろう。」
身支度を終えたジーンはカルトンが用意してくれた酒を一気に煽った。
「はい。お勤めご苦労様です。」
「ふ…勤め、か。まぁαにしたら役得ってもんだろうな。」
「そう言っていただければ……」
「そうなんだよ、カルトン。では、俺は帰るとする。何かあればノルーを寄越せ。」
「了解しました。お気をつけて。」
ジーンを館の玄関まで見送ってカルトンは戸締りと明日の支度に取り掛かる。きっとリリーは朝一番に入浴するだろう。そして衣類と全ての寝具を変えて何事もなかったかの様な自室で過ごすのだ。もう何年も続けてきたリリーの慣習…
Ωには呪いの様な時期がある。文字通りの呪われたものではない。ただリリーに言わせればそれは呪いの他ならないものなのだそうだ。子を成しやすくするために一月毎に来る発情期…Ωであれば男女構わず子を成せる。発情期にはフェロモンでαを誘惑し交配しやすくするものだ。だがこの発情期はΩ本人の意思に関係なくαを誘う。本人の意思は反映されない為に子供が出来やすい以外では弊害しか出てこない。現在はそれを抑える薬もあるが各自効き目に差が出るし個人が手に入れるにはやや高価な物だ。だからΩは早くからαの番を見つけようと必死になるのだった。
リリーもΩ。漏れなくこの体質を引き継いでもいる。が、月に一度の発情期にはαとの接触により体液を分け与えて貰えばすぐに落ち着くものだ。しかしリリーにはまだ番が居ない。また番を持とうとしなかった。そしてリリー本人が産まれながらに持つ膨大な魔力故にどうやらΩ用の抑制剤が効かない体質であることがわかっていた。
仕方ない…何度もそう呟くのを聞いたのは側仕えの侍従達だ。リリーが幼い頃から側に仕えていた者からしてみればリリーはこのことに関して割り切ってしまっているらしい。
番は要らない、番を持たない、番なんて必要ない…Ω特有の発情期が来てもαの体液を分けて貰えばそれで済む。その膨大な魔力量と特異な体質によって幼い頃から将来を見据えなければならなかったリリー。ただのΩとしての生涯など既に望めないとしっかり割り切ってしまっている。リリーにとっては要らないからと自分では捨てることもΩとして生きる事も許されないただの呪いの様なものだった。
誰だとも判別できない程の暗い室内ではそんな者達がたてる衣擦れと寝台の軋む音が微かに響く…
「…ぁっ……ん……」
「力を抜け?まだそんなに濡れてない…少し舐めるぞ?」
「いうな…っ…て……あっ…」
白い細身の肢体を開き大柄な男が中心に顔を埋めていく。
チュッチュウッと吸い付く様な水音がシンと静まる室内に大きく響いていく。
「我慢するなって…」
「してな、い…」
「体液入れなきゃ治らないだろ?もう少しほら、もう少し頑張れ。」
キュッと閉じそうになる脚の大腿を抑え込まれて全て晒される。自分で選択した結果であり初めてでもないくせにこんな時はまだ羞恥が襲ってくるものだ。
「ん…っ…」
身体の内側まで探られて感じてしまう身体とそれを拒否しようとする心…流れてくる涙は羞恥なのか自己嫌悪なのか自分でも分からなくなるくらいに快楽に流されてしまえばいい……
「お疲れ様でございます。」
真っ暗な室内とは正反対に帰り支度をするべき通された客室は優しい魔法灯の明るさに照らされている。
「…あぁ…」
いつもはきちんと整えられている蜂蜜色の髪は乱れ、それを整えつつ気怠げにジーン・ショーバンは側に控えた侍従に応えた。側に控えているカルトンは両手にトレーを携えてジーンの身支度が済むのを待っているのだ。
「抑制剤はご入用ですか?」
「いらんよ、カルトン。知っての通り俺には番が居るからね。他のΩのフェロモンには煽られないし、リリーからのはしっかり遮断もしている。」
「はい。十分に解っております。では中和剤としてこちらをどうぞ。」
カルトンが差し出したのは甘みとその甘い芳香が強い酒だ。抑制剤ではなく身体に纏わりついたΩの香りを断つ中和剤。
「うちのレイは焼きもちなぞ焼かんぞ?」
「ふふ。温厚な方ですものね?それでも、理解があっても心が伴わない事もありますから。リリーの為と思ってお取りください、ショーバン卿。」
「心配症だな、カルトン?早めに老けるぞ?」
「他ならぬリリーのためですから。今、どうしていますか?」
この様な時リリーは酷く人目を嫌う。側仕えであったとしても入室を禁ずる時もあるのだ。
「寝入ったよ。さんざん付き合ったからな。暫くは起きないだろ。次は一月後、予定通りグレイルでいいだろう。」
身支度を終えたジーンはカルトンが用意してくれた酒を一気に煽った。
「はい。お勤めご苦労様です。」
「ふ…勤め、か。まぁαにしたら役得ってもんだろうな。」
「そう言っていただければ……」
「そうなんだよ、カルトン。では、俺は帰るとする。何かあればノルーを寄越せ。」
「了解しました。お気をつけて。」
ジーンを館の玄関まで見送ってカルトンは戸締りと明日の支度に取り掛かる。きっとリリーは朝一番に入浴するだろう。そして衣類と全ての寝具を変えて何事もなかったかの様な自室で過ごすのだ。もう何年も続けてきたリリーの慣習…
Ωには呪いの様な時期がある。文字通りの呪われたものではない。ただリリーに言わせればそれは呪いの他ならないものなのだそうだ。子を成しやすくするために一月毎に来る発情期…Ωであれば男女構わず子を成せる。発情期にはフェロモンでαを誘惑し交配しやすくするものだ。だがこの発情期はΩ本人の意思に関係なくαを誘う。本人の意思は反映されない為に子供が出来やすい以外では弊害しか出てこない。現在はそれを抑える薬もあるが各自効き目に差が出るし個人が手に入れるにはやや高価な物だ。だからΩは早くからαの番を見つけようと必死になるのだった。
リリーもΩ。漏れなくこの体質を引き継いでもいる。が、月に一度の発情期にはαとの接触により体液を分け与えて貰えばすぐに落ち着くものだ。しかしリリーにはまだ番が居ない。また番を持とうとしなかった。そしてリリー本人が産まれながらに持つ膨大な魔力故にどうやらΩ用の抑制剤が効かない体質であることがわかっていた。
仕方ない…何度もそう呟くのを聞いたのは側仕えの侍従達だ。リリーが幼い頃から側に仕えていた者からしてみればリリーはこのことに関して割り切ってしまっているらしい。
番は要らない、番を持たない、番なんて必要ない…Ω特有の発情期が来てもαの体液を分けて貰えばそれで済む。その膨大な魔力量と特異な体質によって幼い頃から将来を見据えなければならなかったリリー。ただのΩとしての生涯など既に望めないとしっかり割り切ってしまっている。リリーにとっては要らないからと自分では捨てることもΩとして生きる事も許されないただの呪いの様なものだった。
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