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14.演習試験1
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晴れ渡る心地よい風が吹き抜けて行く空の下では、逞しい男達が砂埃を立てながら剣を合わせ、拳を振り上げ稲妻や炎を飛ばして相手を蹴散らして行く。爽やかな心地と正反対の風景が眼前に広がっていた。
数ヶ月に一度対魔法騎士団団長の何れかの者がこのソルートの家の周囲に結界を張り直しにくる。そのついでとばかりに見習い騎士達の成長ぶりを確認しに来るのが慣例となっていた。
「どうです?俺は遜色ない様には見えますけどね?」
土煙の合間合間に見習い達の姿が見え隠れしている。訓練場すぐ横には高い見張り台の塔の様な物が立っていてこの中から訓練場を見渡せる様になっていた。
「その様だな…」
塔の中から外を見下ろすのは、対魔法騎士団第1騎士団長ジーン・ショーバン。長身で蜂蜜色の髪を後ろに撫でつけながら琥珀色の瞳をすがめて見習い騎士達を追っている。
「確認してみましょうか?」
スッと出されたジーンの手の上に音も無く水の塊が出現しユラユラと揺蕩う。
「待て。」
ジーンを止め、同じく訓練場を見下ろしているのは頭からすっぽりとフードを被った小柄な人物だ。
「私がやる。」
「え?」
ジーンの驚いた顔を見もせずに、フードを被った人物はスッと目の前に手を差し出した。手のひらの上に丸い光の球体が現れる。次の瞬間スッと球体が消滅した様に見えたが数秒置かずに訓練場上空に花火の様な光がパッと散り、見習い騎士一人一人に対し狙いを定めたかの様に向かっていった。
いつもと変わらない対戦演習。礼儀作法や座学に比べれば身体を動かしていた方が頭はすっきりと晴れ渡っている様に感じる。何度となくこなしてくれば慣れて来たと言えなくもなく、少しずつ同じ見習い騎士達の攻撃パターンを把握するような余裕も生まれて来た様にさえ思っていた。真正面からくる者、往々にして力任せの者、魔法のフェイントに長けている者、魔力重視の者、得物に暗器を得意としていて何を出してくるのかまだ掴みきれていない者、他人の攻撃に便乗して確実に一人ずつ倒して行こうとする者、時にはこれらが入り混じって一人から繰り出されたりもする。周囲の動きを感知し、魔力を研ぎ澄まし、先ずは身の安全を確保の上で確実に他者の隙をついて行く。入り乱れた乱戦の中の攻防戦ではそんな駆け引きが自分の体力が続く限り永遠と行われて行くのだ。
ビシッ…!!
いつもと同じ訓練場のいつもと同じ殺伐とした演習中に、いきなり空気を切り裂く様な気配を上空に感じた。
「!?」
魔力探知に聡い者は一瞬動きが止まったかも知れない。それ程思いがけない魔力量が上空に出現したと思った瞬間、それは光の矢の様に上空から降り注いできた。
「…!!」
「うぉ!!」
「なっ!!」
言葉を発するよりも、得体のしれない攻撃に対して防御に転ずる。ここにいる者達だけの力量ならば少なからずともお互いに測り合えるかもしれない。けれどもこんな未知なる攻撃に遭ったとあっては、総当たりの乱戦中も申し合わせた様に皆一斉に一時休戦となりそれぞれ右往左往しながら光の矢から身を守る。
シュシュシュシュ……
光の矢は軽い音を響かせて降ってくるがそれが体に当たれば少なからず怪我を負う威力があるものだ。防御に転じながらもそれぞれ何処からの攻撃か見定めようと体制を整える。アーキンも同様だった。矢を避けるよりも魔力でもって相殺する。アーキンとしてはその防御法が性に合うようだが疲労困憊で魔力消耗している騎士ならば残りの魔力は少ない。矢の軌道を読んで素早く避ける。消費エネルギーを最小にして避け続けているのだ。
攻撃対象者を探しつつアーキンは2人目の見習い騎士を庇っていた。さんざん体力を削られている者達の中にはそろそろ限界が近づいている。気が抜けて矢に当たってしまっては軽傷では済まないからだ。
「良い動きしてますよ?」
その様子を笑みを浮かべながらジーンは鑑賞していた。
「ノルー最後まで残った者を昇格させる。」
「了解致しました。」
ノルーは頭を下げた後直ぐにその場を離れた。
「今年は多そうですね?」
「そうだな…例年の通り振り分けて。」
「あぁ、助かるな。うちの何人が番を持てるかな?」
「候補が出てるのか?」
「まぁぼちぼちとですけどね?」
「そうか…」
眼下の訓練場での光の矢は現れた時と同じ様にもう全て消え失せている。もうもうと立ち込める砂埃の中に数名の見習い騎士の姿が見えて来た。それぞれ今だに構えの姿勢を崩さず周囲に気を配っている様子だ。
「これで少しは在籍する騎士の不満が減るというもんです。」
やれやれと言いたげに第一騎士団団長であるジーンは一息つく。対魔法騎士団に入団する騎士はほぼαの騎士だ。Ωの保護施設があるこのゼス国の騎士団にいる事はαにとって非常に幸運な事だろう。数が少ないΩに会える機会が他国にいるよりもずっと上がるのだから。なのでゼス国のαの騎士達は自ら選んだΩの番を持てる者が多いのだ。が、Ωの番がいれば当然発情期に連れそう習わしがあって、番を持てるチャンスはあれど騎士職という職務上おいそれと休暇が取れないのも事実という現状故に、優秀で替えとなり得るαの騎士が増えるということは番の発情に合わせて休暇を申請しやすくなりαの騎士には願ってもない事なのだ。
番を得ればその番の為に生きるのがαの務めと騎士道と合わせて教え込まれるここゼス国の騎士達に取っても騎士が増えてくれる事で不満はグッと減って行く。
数ヶ月に一度対魔法騎士団団長の何れかの者がこのソルートの家の周囲に結界を張り直しにくる。そのついでとばかりに見習い騎士達の成長ぶりを確認しに来るのが慣例となっていた。
「どうです?俺は遜色ない様には見えますけどね?」
土煙の合間合間に見習い達の姿が見え隠れしている。訓練場すぐ横には高い見張り台の塔の様な物が立っていてこの中から訓練場を見渡せる様になっていた。
「その様だな…」
塔の中から外を見下ろすのは、対魔法騎士団第1騎士団長ジーン・ショーバン。長身で蜂蜜色の髪を後ろに撫でつけながら琥珀色の瞳をすがめて見習い騎士達を追っている。
「確認してみましょうか?」
スッと出されたジーンの手の上に音も無く水の塊が出現しユラユラと揺蕩う。
「待て。」
ジーンを止め、同じく訓練場を見下ろしているのは頭からすっぽりとフードを被った小柄な人物だ。
「私がやる。」
「え?」
ジーンの驚いた顔を見もせずに、フードを被った人物はスッと目の前に手を差し出した。手のひらの上に丸い光の球体が現れる。次の瞬間スッと球体が消滅した様に見えたが数秒置かずに訓練場上空に花火の様な光がパッと散り、見習い騎士一人一人に対し狙いを定めたかの様に向かっていった。
いつもと変わらない対戦演習。礼儀作法や座学に比べれば身体を動かしていた方が頭はすっきりと晴れ渡っている様に感じる。何度となくこなしてくれば慣れて来たと言えなくもなく、少しずつ同じ見習い騎士達の攻撃パターンを把握するような余裕も生まれて来た様にさえ思っていた。真正面からくる者、往々にして力任せの者、魔法のフェイントに長けている者、魔力重視の者、得物に暗器を得意としていて何を出してくるのかまだ掴みきれていない者、他人の攻撃に便乗して確実に一人ずつ倒して行こうとする者、時にはこれらが入り混じって一人から繰り出されたりもする。周囲の動きを感知し、魔力を研ぎ澄まし、先ずは身の安全を確保の上で確実に他者の隙をついて行く。入り乱れた乱戦の中の攻防戦ではそんな駆け引きが自分の体力が続く限り永遠と行われて行くのだ。
ビシッ…!!
いつもと同じ訓練場のいつもと同じ殺伐とした演習中に、いきなり空気を切り裂く様な気配を上空に感じた。
「!?」
魔力探知に聡い者は一瞬動きが止まったかも知れない。それ程思いがけない魔力量が上空に出現したと思った瞬間、それは光の矢の様に上空から降り注いできた。
「…!!」
「うぉ!!」
「なっ!!」
言葉を発するよりも、得体のしれない攻撃に対して防御に転ずる。ここにいる者達だけの力量ならば少なからずともお互いに測り合えるかもしれない。けれどもこんな未知なる攻撃に遭ったとあっては、総当たりの乱戦中も申し合わせた様に皆一斉に一時休戦となりそれぞれ右往左往しながら光の矢から身を守る。
シュシュシュシュ……
光の矢は軽い音を響かせて降ってくるがそれが体に当たれば少なからず怪我を負う威力があるものだ。防御に転じながらもそれぞれ何処からの攻撃か見定めようと体制を整える。アーキンも同様だった。矢を避けるよりも魔力でもって相殺する。アーキンとしてはその防御法が性に合うようだが疲労困憊で魔力消耗している騎士ならば残りの魔力は少ない。矢の軌道を読んで素早く避ける。消費エネルギーを最小にして避け続けているのだ。
攻撃対象者を探しつつアーキンは2人目の見習い騎士を庇っていた。さんざん体力を削られている者達の中にはそろそろ限界が近づいている。気が抜けて矢に当たってしまっては軽傷では済まないからだ。
「良い動きしてますよ?」
その様子を笑みを浮かべながらジーンは鑑賞していた。
「ノルー最後まで残った者を昇格させる。」
「了解致しました。」
ノルーは頭を下げた後直ぐにその場を離れた。
「今年は多そうですね?」
「そうだな…例年の通り振り分けて。」
「あぁ、助かるな。うちの何人が番を持てるかな?」
「候補が出てるのか?」
「まぁぼちぼちとですけどね?」
「そうか…」
眼下の訓練場での光の矢は現れた時と同じ様にもう全て消え失せている。もうもうと立ち込める砂埃の中に数名の見習い騎士の姿が見えて来た。それぞれ今だに構えの姿勢を崩さず周囲に気を配っている様子だ。
「これで少しは在籍する騎士の不満が減るというもんです。」
やれやれと言いたげに第一騎士団団長であるジーンは一息つく。対魔法騎士団に入団する騎士はほぼαの騎士だ。Ωの保護施設があるこのゼス国の騎士団にいる事はαにとって非常に幸運な事だろう。数が少ないΩに会える機会が他国にいるよりもずっと上がるのだから。なのでゼス国のαの騎士達は自ら選んだΩの番を持てる者が多いのだ。が、Ωの番がいれば当然発情期に連れそう習わしがあって、番を持てるチャンスはあれど騎士職という職務上おいそれと休暇が取れないのも事実という現状故に、優秀で替えとなり得るαの騎士が増えるということは番の発情に合わせて休暇を申請しやすくなりαの騎士には願ってもない事なのだ。
番を得ればその番の為に生きるのがαの務めと騎士道と合わせて教え込まれるここゼス国の騎士達に取っても騎士が増えてくれる事で不満はグッと減って行く。
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