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8.白の邸宅3
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「悪い悪い。まだアーキンを勧誘してから数日しか経っていなくてね。」
「え、それでは騎士教育は…?」
「まだ手付かずだ。本当に勧誘だけだな。」
「そんな…状態の者をここに連れてきたのですか?」
カルトンの視線が最早軽蔑の眼差しとなってヨルマーに降り注いでいる。
「それも分かってるのだ。そんな目で見てくれるな。」
すっかり困り顔のヨルマーと今にも般若の相となりつつあるカルトンに挟まれてアーキンの居心地は最悪だ。
「あの…帰った方が良さそうですか?」
帰るところなどこの国にはまだないが、これ以上ここにいてはいけない雰囲気だ。
「あ~違う違う…君は居ていいんですよ。絶対にね。確認ですがアーキン。うちの騎士隊に、リリー率いる対魔法騎士団に入るでしょう?」
ヨルマーはわざとリリーの所を強調した。
「………」
リリーとはあの場所に居たあの香りを出していたΩの人物だろう。性別も年齢も顔も分からない、ただあの時のあのフェロモンのみ…それでも…
「入ったら…」
「妹さんの情報を独自に集めることもできるだろうね?なんて言ったってここはΩを保護し守る為の騎士団だ。事件に巻き込まれたΩの情報も必然的に入って来るし、どこかで何かが繋がって見つかることも有り得るだろうね。」
「………」
「それにここには近隣のΩが集められて来る。αの面々からしたら自分の番を見つけるまたと無いチャンスでもある。」
「ええ、そうでしょうね。現に第一から第3騎士団の団長殿はここからΩの番を見つけていますし。」
「あんた、番がいるのか?」
「それは居てもおかしく無いだろうね?Ωと会う機会が通常よりもかなり増えるんだよ?ここ以外で生活している時よりも見つかりやすいと私は思っているけどね?」
番……
「そう、番ですよアーキン。αなら心の底から欲しいでしょう?」
「…そう言うものですか?私はβですからね。α方の渇望はいまいち分からないですね。」
「カルトンそれは仕方ない。」
やれやれと言いたげなカルトンにヨルマーは苦笑で答える。しかしこればかりは当事者にしか分からない心と身体の欲求で、アーキンにだって心の底から欲しいと感じたのはつい最近の事。
「………入ります…」
「そうか…!」
アーキンは小さく答える。それを聞いたヨルマーは心底ほっとした様な笑みを漏らす。
「ノベン卿。貴方もそんな顔されるんですね……」
「おや、皆さんお早いお戻りでしたか?」
出されたお茶にやっと手をつけたところで室内に入ってきたのは男の声。そこにはカルトンよりも若く見える中肉中背の黒髪黒瞳の男だ。
「戻りましたか?リリーは何処です?」
「いや、我らも先ほど着いたばかりだ。リリーは?」
カルトンもヨルマーもリリーの動向を確実に知りたい様だ。
「ちょっとまだ城です。アーキン殿が来たからね、手続きに手間がいるんですよ。あ、アーキン殿からしたら初めましてだったね?私はリリーの側近として侍従をしているノルー・ダーウィンです。ここにいるカルトンともう一人、今は諸用で出てますがこの3名でリリーの侍従を拝命してるんです。」
黒髪のノルーは少し笑うと冷たそうな表情が柔らかくそして少し幼くも見える。私も先日の戦闘に参加していたんですよ、と自分の方はアーキンとは初対面ではないことを説明しつつ握手する。
「アーキン・テグリスだ。」
「ええ、君魔力操作上手かったですね。流石に訓練もなくあそこまでとは、見上げたものですよ?」
「訓練って…?」
騎士として生きようとしたこともあるアーキンだ。妹のことが無かったならば隣国サリーシュ国を出ずに地元の手頃な騎士団に入団していただろう。それくらいの剣技は磨いて来たはずだし、産まれながらに持った魔力をコントロールする為に教えられた事は徹底的に身につけて来たつもりでもある。が、別段他者と比べて自分が優秀だと思ったことはなかったのだが……
「あぁ、これから入る騎士団での訓練ですよ?アーキン殿?入るのでしょう?騎士団!リリーはそのつもりで動いてますからね。覆そうったって難しそうですね。」
「はぁ、まぁ…」
今先程、騎士団入団の件は了承した。しかし実情は何も分からない。
「ノルー、どうしてリリーを残して来たのです?」
カルトンが怪訝な視線でノルーに問う。侍従として常にリリーに付き従うのが慣いのはずだからだ。
「ええ、まだ時間がかかりそうでしたからね。私が先にこちらに知らせる様に申しつかりました。リリーは後ほど休み明けのショーバン卿とお戻りになります。」
「ショーバン卿が一緒ならばいいでしょう。」
「ええ。私はこちら、アーキン殿を宿舎に案内するつもりでいるのです。」
リリーはまだなのか……カルトンとノルー二人の侍従の話を聞きながらアーキンはリリーの事に意識を向けた。あの戦闘時、嗅いだ香りはあの、ただの一回……
会えたならどんな顔をしているか、男なのか女なのかそれも分かると少し期待もしていたのだが。
「……………殿……キン殿?アーキン殿!」
何度か名前を呼ばれて、はっとして思い耽っていたアーキンは顔を上げた。
「…何だろうか?」
「疲れましたか?戦闘後から休みなく移動して来ましたものねぇ……」
すぐそばでノルーの心配そうな表情がアーキンを覗き込んで来ていた。
これがリリーならば………
「え、それでは騎士教育は…?」
「まだ手付かずだ。本当に勧誘だけだな。」
「そんな…状態の者をここに連れてきたのですか?」
カルトンの視線が最早軽蔑の眼差しとなってヨルマーに降り注いでいる。
「それも分かってるのだ。そんな目で見てくれるな。」
すっかり困り顔のヨルマーと今にも般若の相となりつつあるカルトンに挟まれてアーキンの居心地は最悪だ。
「あの…帰った方が良さそうですか?」
帰るところなどこの国にはまだないが、これ以上ここにいてはいけない雰囲気だ。
「あ~違う違う…君は居ていいんですよ。絶対にね。確認ですがアーキン。うちの騎士隊に、リリー率いる対魔法騎士団に入るでしょう?」
ヨルマーはわざとリリーの所を強調した。
「………」
リリーとはあの場所に居たあの香りを出していたΩの人物だろう。性別も年齢も顔も分からない、ただあの時のあのフェロモンのみ…それでも…
「入ったら…」
「妹さんの情報を独自に集めることもできるだろうね?なんて言ったってここはΩを保護し守る為の騎士団だ。事件に巻き込まれたΩの情報も必然的に入って来るし、どこかで何かが繋がって見つかることも有り得るだろうね。」
「………」
「それにここには近隣のΩが集められて来る。αの面々からしたら自分の番を見つけるまたと無いチャンスでもある。」
「ええ、そうでしょうね。現に第一から第3騎士団の団長殿はここからΩの番を見つけていますし。」
「あんた、番がいるのか?」
「それは居てもおかしく無いだろうね?Ωと会う機会が通常よりもかなり増えるんだよ?ここ以外で生活している時よりも見つかりやすいと私は思っているけどね?」
番……
「そう、番ですよアーキン。αなら心の底から欲しいでしょう?」
「…そう言うものですか?私はβですからね。α方の渇望はいまいち分からないですね。」
「カルトンそれは仕方ない。」
やれやれと言いたげなカルトンにヨルマーは苦笑で答える。しかしこればかりは当事者にしか分からない心と身体の欲求で、アーキンにだって心の底から欲しいと感じたのはつい最近の事。
「………入ります…」
「そうか…!」
アーキンは小さく答える。それを聞いたヨルマーは心底ほっとした様な笑みを漏らす。
「ノベン卿。貴方もそんな顔されるんですね……」
「おや、皆さんお早いお戻りでしたか?」
出されたお茶にやっと手をつけたところで室内に入ってきたのは男の声。そこにはカルトンよりも若く見える中肉中背の黒髪黒瞳の男だ。
「戻りましたか?リリーは何処です?」
「いや、我らも先ほど着いたばかりだ。リリーは?」
カルトンもヨルマーもリリーの動向を確実に知りたい様だ。
「ちょっとまだ城です。アーキン殿が来たからね、手続きに手間がいるんですよ。あ、アーキン殿からしたら初めましてだったね?私はリリーの側近として侍従をしているノルー・ダーウィンです。ここにいるカルトンともう一人、今は諸用で出てますがこの3名でリリーの侍従を拝命してるんです。」
黒髪のノルーは少し笑うと冷たそうな表情が柔らかくそして少し幼くも見える。私も先日の戦闘に参加していたんですよ、と自分の方はアーキンとは初対面ではないことを説明しつつ握手する。
「アーキン・テグリスだ。」
「ええ、君魔力操作上手かったですね。流石に訓練もなくあそこまでとは、見上げたものですよ?」
「訓練って…?」
騎士として生きようとしたこともあるアーキンだ。妹のことが無かったならば隣国サリーシュ国を出ずに地元の手頃な騎士団に入団していただろう。それくらいの剣技は磨いて来たはずだし、産まれながらに持った魔力をコントロールする為に教えられた事は徹底的に身につけて来たつもりでもある。が、別段他者と比べて自分が優秀だと思ったことはなかったのだが……
「あぁ、これから入る騎士団での訓練ですよ?アーキン殿?入るのでしょう?騎士団!リリーはそのつもりで動いてますからね。覆そうったって難しそうですね。」
「はぁ、まぁ…」
今先程、騎士団入団の件は了承した。しかし実情は何も分からない。
「ノルー、どうしてリリーを残して来たのです?」
カルトンが怪訝な視線でノルーに問う。侍従として常にリリーに付き従うのが慣いのはずだからだ。
「ええ、まだ時間がかかりそうでしたからね。私が先にこちらに知らせる様に申しつかりました。リリーは後ほど休み明けのショーバン卿とお戻りになります。」
「ショーバン卿が一緒ならばいいでしょう。」
「ええ。私はこちら、アーキン殿を宿舎に案内するつもりでいるのです。」
リリーはまだなのか……カルトンとノルー二人の侍従の話を聞きながらアーキンはリリーの事に意識を向けた。あの戦闘時、嗅いだ香りはあの、ただの一回……
会えたならどんな顔をしているか、男なのか女なのかそれも分かると少し期待もしていたのだが。
「……………殿……キン殿?アーキン殿!」
何度か名前を呼ばれて、はっとして思い耽っていたアーキンは顔を上げた。
「…何だろうか?」
「疲れましたか?戦闘後から休みなく移動して来ましたものねぇ……」
すぐそばでノルーの心配そうな表情がアーキンを覗き込んで来ていた。
これがリリーならば………
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