5 / 29
5 ガザインバーク
しおりを挟む
18年前まで隣国にはガザインバークという国があった。
この国の王都中央の大都市で研究熱心な者達が起こしたことは、一つの国の滅亡に繋がる。彼らが起こした事は一つの都市を丸呑みにし、そこに住う人々まで犠牲として引き摺り込んでいった。
ガザインバークの大臣、各国の要人も含め犠牲となり、周辺国は大混乱に陥る。
一番混乱をきたしたのはガザインバーク城内だろう。研究者達の暴走は王家の知るところではなかったからだ。
大都市が沈んだ所に当の研究者達も居り当然全員が犠牲となり、事態の収束に遅れが出る。そしてこの大混乱を機にガザインバークに乗り出し攻め入ろうとする国が出てきた。
機敏にその動向を掴んだ当時のエンドラン王は周辺国に一斉に条約を持ちかけた。
ガザインバーク王も勿論立ち上がり、自らの命を持って件の都市の鎮圧化を試みた。
王の命を持って都市部研究者達の遺物は鎮まりを見せる。ある者達に言わせれば、このまま長期に渡って大地が力を吸収するに任せるしかないことがわかると、ガザインバークを周辺国で分割し管理する事に落ち着いたのである。
そして王族の未婚の姫2人の行先が問題となった。
ガザインバーク王族には王が命を賭したこともあり、研究者達の遺物の行く末を見届ける責任が出来た。
第一皇女である姉は、周辺国を纏め上げ賢王と謳われたエンドラン国の皇太子の妃となったが、すでに亡国となった第二皇女の行手が決まらずよもやガザインバーク先王と同じ道を辿るかと言う時に、エンドラン国テドルフ公爵家が手をあげたのである。
既にエンドラン王家には第一皇女が輿入れした後であり、必死に妹の救命を賢王に求めていた。
当時賢王に可愛がられ王室の覚えも良かったテドルフ公爵夫人アリーヤも罪ない姫君の犠牲とは惨すぎると自ら夫に訴えかけた上で側室に迎えるとの決断を下したのだ。
夫人が求め、側室を迎えるという形を取ったが、テドルフ公爵なりに側室となったナリラにも心を注いで夫婦となった。
しかし、一つの懸念が残る。今は亡きガザインバークの血筋を悪戯に残すことにだ。周囲国がこの婚姻に納得したとて、ガザインバーク国内全ての貴族が、この方法に賛同したわけでは無いのだ。
王家に入ったのもは自国の王族となりその国を継ぐ。しかしその国の継承権が無い者や他家で産まれた子供達がガザインバークの王として担ぎ上げられないとも言い切れぬ。
国王はガザインバークの姫の子は一人、エンドラン国を継承する者しか認めず、テドルフ公爵に至っては側室との間には子を設けないつもりであったそうな。
これにまた反対したのが公爵夫人アリーヤ。側室の務めは子を産むこと、半ば幽閉状態のまま務めも果たさせずに孤独に生きろと言うのか、と。自分にも守るものができたならせめてもの生きる糧に成るだろう、と。
アリーヤは生きて欲しかったのだ。ただ生きて其処に居るのではなく、ナリラに生きる喜びを得て欲しかったのだ。
テドルフ公爵はアリーヤと第2公爵夫人ナリラの意思に答え子を設けた、これがスロウル・ガザインバークである。
******
「アクサード……アクサッ…」
キスの合間に語るには長すぎる位のものを背負っているスロウルであるが、触れてきたアクサードのキスがいかんせん長すぎる…
正面から抱き竦められてガッチリと後頭部を抑えられてる本気のキス…
「ん…」
深くなってくるキスに、吐息が漏れ出した所で、アクサードの額を押し返す。
フッと息をついて、アクサードの瞳を見つめて見れば、赤茶の瞳もすでにスロウルの瞳を捉えていた。
「アクサード、此処から出られなくなる前に辞めません?」
流石に父の目があり耳がある家ではこれ以上は望まない。
「やっぱり朝から居留守を使えばよかった…」
フーッと深く吐き出す吐息が熱い…
「明日から学園に篭るのだろう?暫く会えなくなるからな。殿下がくれたチャンスだろうし。」
殿下がくれたチャンスとは?大いに気になる所ではある…
殿下も大概だが、スロウルよりも3歳年上であるはずなのに頼りになる騎士殿はこんな時には見た目よりもずっと幼く見える。
フフ、自然に笑みが出るのは許して欲しい。そんな貴方を見ることが、今の自分の楽しみなんだ。
「私は侍従枠ですから、公用でも私用でも出入り自由ですよ。」
だから好きな時に学園の外で会う事は出来る。そっと頬に手を添えて優しく撫でれば、それでも納得のいかない顔をする。
「お前の存在が尊重されている所で離されているならまだ会えなくても耐えられる。公爵家の嫡男が使用人とはな…」
ギュッとアクサードの眉が寄る。スロウルよりもスロウルを大切に思ってくれる存在。
貴方がいるから十分なんだ…
だからそんな顔をしなくて大丈夫。
チュッと頬にキスをしてスロウルはにっこりと微笑む。
「私の方から会いに行きますから。今日は戻らなければ、荷の確認もしなくてはなりませんし。」
会いに行く、と嬉しそうにスロウルに言われてしまってはアクサードは折れるしか無い。この綺麗な顔が自分に向かって全開で信頼と愛情を差し出してくれているのだから。これ以上を求めたらバチが当たりそうだ。
この国の王都中央の大都市で研究熱心な者達が起こしたことは、一つの国の滅亡に繋がる。彼らが起こした事は一つの都市を丸呑みにし、そこに住う人々まで犠牲として引き摺り込んでいった。
ガザインバークの大臣、各国の要人も含め犠牲となり、周辺国は大混乱に陥る。
一番混乱をきたしたのはガザインバーク城内だろう。研究者達の暴走は王家の知るところではなかったからだ。
大都市が沈んだ所に当の研究者達も居り当然全員が犠牲となり、事態の収束に遅れが出る。そしてこの大混乱を機にガザインバークに乗り出し攻め入ろうとする国が出てきた。
機敏にその動向を掴んだ当時のエンドラン王は周辺国に一斉に条約を持ちかけた。
ガザインバーク王も勿論立ち上がり、自らの命を持って件の都市の鎮圧化を試みた。
王の命を持って都市部研究者達の遺物は鎮まりを見せる。ある者達に言わせれば、このまま長期に渡って大地が力を吸収するに任せるしかないことがわかると、ガザインバークを周辺国で分割し管理する事に落ち着いたのである。
そして王族の未婚の姫2人の行先が問題となった。
ガザインバーク王族には王が命を賭したこともあり、研究者達の遺物の行く末を見届ける責任が出来た。
第一皇女である姉は、周辺国を纏め上げ賢王と謳われたエンドラン国の皇太子の妃となったが、すでに亡国となった第二皇女の行手が決まらずよもやガザインバーク先王と同じ道を辿るかと言う時に、エンドラン国テドルフ公爵家が手をあげたのである。
既にエンドラン王家には第一皇女が輿入れした後であり、必死に妹の救命を賢王に求めていた。
当時賢王に可愛がられ王室の覚えも良かったテドルフ公爵夫人アリーヤも罪ない姫君の犠牲とは惨すぎると自ら夫に訴えかけた上で側室に迎えるとの決断を下したのだ。
夫人が求め、側室を迎えるという形を取ったが、テドルフ公爵なりに側室となったナリラにも心を注いで夫婦となった。
しかし、一つの懸念が残る。今は亡きガザインバークの血筋を悪戯に残すことにだ。周囲国がこの婚姻に納得したとて、ガザインバーク国内全ての貴族が、この方法に賛同したわけでは無いのだ。
王家に入ったのもは自国の王族となりその国を継ぐ。しかしその国の継承権が無い者や他家で産まれた子供達がガザインバークの王として担ぎ上げられないとも言い切れぬ。
国王はガザインバークの姫の子は一人、エンドラン国を継承する者しか認めず、テドルフ公爵に至っては側室との間には子を設けないつもりであったそうな。
これにまた反対したのが公爵夫人アリーヤ。側室の務めは子を産むこと、半ば幽閉状態のまま務めも果たさせずに孤独に生きろと言うのか、と。自分にも守るものができたならせめてもの生きる糧に成るだろう、と。
アリーヤは生きて欲しかったのだ。ただ生きて其処に居るのではなく、ナリラに生きる喜びを得て欲しかったのだ。
テドルフ公爵はアリーヤと第2公爵夫人ナリラの意思に答え子を設けた、これがスロウル・ガザインバークである。
******
「アクサード……アクサッ…」
キスの合間に語るには長すぎる位のものを背負っているスロウルであるが、触れてきたアクサードのキスがいかんせん長すぎる…
正面から抱き竦められてガッチリと後頭部を抑えられてる本気のキス…
「ん…」
深くなってくるキスに、吐息が漏れ出した所で、アクサードの額を押し返す。
フッと息をついて、アクサードの瞳を見つめて見れば、赤茶の瞳もすでにスロウルの瞳を捉えていた。
「アクサード、此処から出られなくなる前に辞めません?」
流石に父の目があり耳がある家ではこれ以上は望まない。
「やっぱり朝から居留守を使えばよかった…」
フーッと深く吐き出す吐息が熱い…
「明日から学園に篭るのだろう?暫く会えなくなるからな。殿下がくれたチャンスだろうし。」
殿下がくれたチャンスとは?大いに気になる所ではある…
殿下も大概だが、スロウルよりも3歳年上であるはずなのに頼りになる騎士殿はこんな時には見た目よりもずっと幼く見える。
フフ、自然に笑みが出るのは許して欲しい。そんな貴方を見ることが、今の自分の楽しみなんだ。
「私は侍従枠ですから、公用でも私用でも出入り自由ですよ。」
だから好きな時に学園の外で会う事は出来る。そっと頬に手を添えて優しく撫でれば、それでも納得のいかない顔をする。
「お前の存在が尊重されている所で離されているならまだ会えなくても耐えられる。公爵家の嫡男が使用人とはな…」
ギュッとアクサードの眉が寄る。スロウルよりもスロウルを大切に思ってくれる存在。
貴方がいるから十分なんだ…
だからそんな顔をしなくて大丈夫。
チュッと頬にキスをしてスロウルはにっこりと微笑む。
「私の方から会いに行きますから。今日は戻らなければ、荷の確認もしなくてはなりませんし。」
会いに行く、と嬉しそうにスロウルに言われてしまってはアクサードは折れるしか無い。この綺麗な顔が自分に向かって全開で信頼と愛情を差し出してくれているのだから。これ以上を求めたらバチが当たりそうだ。
31
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる