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5 ガザインバーク

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 18年前まで隣国にはガザインバークという国があった。 

 この国の王都中央の大都市で研究熱心な者達が起こしたことは、一つの国の滅亡に繋がる。彼らが起こした事は一つの都市を丸呑みにし、そこに住う人々まで犠牲として引き摺り込んでいった。

 ガザインバークの大臣、各国の要人も含め犠牲となり、周辺国は大混乱に陥る。

 一番混乱をきたしたのはガザインバーク城内だろう。研究者達の暴走は王家の知るところではなかったからだ。

 大都市が沈んだ所に当の研究者達も居り当然全員が犠牲となり、事態の収束に遅れが出る。そしてこの大混乱を機にガザインバークに乗り出し攻め入ろうとする国が出てきた。

 機敏にその動向を掴んだ当時のエンドラン王は周辺国に一斉に条約を持ちかけた。

 ガザインバーク王も勿論立ち上がり、自らの命を持って件の都市の鎮圧化を試みた。

 王の命を持って都市部研究者達の遺物は鎮まりを見せる。ある者達に言わせれば、このまま長期に渡って大地が力を吸収するに任せるしかないことがわかると、ガザインバークを周辺国で分割し管理する事に落ち着いたのである。

 そして王族の未婚の姫2人の行先が問題となった。
 
 ガザインバーク王族には王が命を賭したこともあり、研究者達の遺物の行く末を見届ける責任が出来た。
 
 第一皇女である姉は、周辺国を纏め上げ賢王と謳われたエンドラン国の皇太子の妃となったが、すでに亡国となった第二皇女の行手が決まらずよもやガザインバーク先王と同じ道を辿るかと言う時に、エンドラン国テドルフ公爵家が手をあげたのである。


 既にエンドラン王家には第一皇女が輿入れした後であり、必死に妹の救命を賢王に求めていた。

 当時賢王に可愛がられ王室の覚えも良かったテドルフ公爵夫人アリーヤも罪ない姫君の犠牲とは惨すぎると自ら夫に訴えかけた上で側室に迎えるとの決断を下したのだ。

 夫人が求め、側室を迎えるという形を取ったが、テドルフ公爵なりに側室となったナリラにも心を注いで夫婦となった。


 しかし、一つの懸念が残る。今は亡きガザインバークの血筋を悪戯に残すことにだ。周囲国がこの婚姻に納得したとて、ガザインバーク国内全ての貴族が、この方法に賛同したわけでは無いのだ。

 王家に入ったのもは自国の王族となりその国を継ぐ。しかしその国の継承権が無い者や他家で産まれた子供達がガザインバークの王として担ぎ上げられないとも言い切れぬ。

 国王はガザインバークの姫の子は一人、エンドラン国を継承する者しか認めず、テドルフ公爵に至っては側室との間には子を設けないつもりであったそうな。

 これにまた反対したのが公爵夫人アリーヤ。側室の務めは子を産むこと、半ば幽閉状態のまま務めも果たさせずに孤独に生きろと言うのか、と。自分にも守るものができたならせめてもの生きる糧に成るだろう、と。
 アリーヤは生きて欲しかったのだ。ただ生きて其処に居るのではなく、ナリラに生きる喜びを得て欲しかったのだ。

 
 テドルフ公爵はアリーヤと第2公爵夫人ナリラの意思に答え子を設けた、これがスロウル・ガザインバークである。






******



「アクサード……アクサッ…」
 
 キスの合間に語るには長すぎる位のものを背負っているスロウルであるが、触れてきたアクサードのキスがいかんせん長すぎる…

 正面から抱き竦められてガッチリと後頭部を抑えられてる本気のキス…

「ん…」
 
深くなってくるキスに、吐息が漏れ出した所で、アクサードの額を押し返す。

 フッと息をついて、アクサードの瞳を見つめて見れば、赤茶の瞳もすでにスロウルの瞳を捉えていた。



「アクサード、此処から出られなくなる前に辞めません?」
 
 流石に父の目があり耳がある家ではこれ以上は望まない。


「やっぱり朝から居留守を使えばよかった…」
  
 フーッと深く吐き出す吐息が熱い…


「明日から学園に篭るのだろう?暫く会えなくなるからな。殿下がくれたチャンスだろうし。」

 殿下がくれたチャンスとは?大いに気になる所ではある…

 殿下も大概だが、スロウルよりも3歳年上であるはずなのに頼りになる騎士殿はこんな時には見た目よりもずっと幼く見える。
 
 フフ、自然に笑みが出るのは許して欲しい。そんな貴方を見ることが、今の自分の楽しみなんだ。

「私は侍従枠ですから、公用でも私用でも出入り自由ですよ。」

 だから好きな時に学園の外で会う事は出来る。そっと頬に手を添えて優しく撫でれば、それでも納得のいかない顔をする。


「お前の存在が尊重されている所で離されているならまだ会えなくても耐えられる。公爵家の嫡男が使用人とはな…」

 ギュッとアクサードの眉が寄る。スロウルよりもスロウルを大切に思ってくれる存在。
 


 貴方がいるから十分なんだ…
 だからそんな顔をしなくて大丈夫。



 チュッと頬にキスをしてスロウルはにっこりと微笑む。


「私の方から会いに行きますから。今日は戻らなければ、荷の確認もしなくてはなりませんし。」



 
 会いに行く、と嬉しそうにスロウルに言われてしまってはアクサードは折れるしか無い。この綺麗な顔が自分に向かって全開で信頼と愛情を差し出してくれているのだから。これ以上を求めたらバチが当たりそうだ。

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