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「来られたわね。」
柔らかな椅子に身を預け、ゆったりと座っている王妃は入室してきたラシーリアが挨拶する前に声をかけてくれた。
「お呼びでしょうか?」
内容は昨日の事についてであろう事はわかっている。
「そう、畏まらないでちょうだいな…さ、まずはお座りなさい。長くなるでしょうから………」
王妃に勧められるままにラシーリアは着座する。緊張で固まった身体を侍女が入れてくれた暖かい茶がほぐして行く…
「……まずは、私から貴方に謝罪を致しましょう。ラシーリア第二王太子妃、不甲斐ない私を許してくれますか?」
ビックリした…国の頂点に立とうかとする王妃に謝罪をされるとは……
「な、何の事についてで御座いましょう?冤罪の事ならば王妃殿下は無関係では!?」
「ふふふ、そうね。そう思うわよね?
でも、私が謝るのは今回の事ではないの。お分かりになる?」
常に凛と立つ王妃の瞳が、少しだけ不安気に揺れている。不安の中に後悔の色……
「何に、ついてなのでしょう…殿下…?」
「今の事を言っているのではないのです。ラシーリア…」
全てを知っている様な王妃の瞳…
「前は貴方を助けられなかった……」
静かに語る王妃の口からは未だに信じられない様な事が紡がれて行く………
「私も、あの後直ぐに死んでいてよ?」
「死んで……って………」
大きく目を見開いてラシーリアは驚きを隠せない。
「あの時の私は………きっと自分の事しか見えていなかったのです…」
「何を……何を仰って!?」
すっと、ラシーリアを見つめる王妃の真剣な視線が絡む。
「きっと、貴方もでしょう?前を覚えているのは…」
思わず叫びそうになり、ラシーリアは咄嗟に両手で口元を押さえた。
聞いてちょうだいね?私の懺悔を……
あの日、ラシーリアとシェルツ両王太子妃が王太子宮で襲われ、命を絶たれたと報告を受けた。供を連れ急いで向かってみれば王太子宮には火が放たれ、二人はホールの中央で重なる様にして血を流し絶命していた。
こうなる以前から、国内には不穏な噂がばら撒かれ、現王政に反発する者達も現れては国王の代理である王太子エルレントの頭を悩ませていたのだ。
こうならない様に、王太子に関しては厳しく躾けたつもりであった。たった一人で国を背負う重圧に耐えられる様にと、幼い頃から他の兄弟達に劣る事を許さず、己を律し、周囲を一瞬で押さえつけることのできるカリスマを身につけよ、と何度叱責してきたか分からない。気がつけば親子関係など崩れ果て、エルレントはただ己の義務を果たすべく、動くからくり人形の様になってしまった。
それに気がついた時には時すでに遅し…前王の轍を踏まない様にと二人の妃を娶ったものの、その妃に対して愛情を注ぐ事も、心を砕く事もしない冷たい夫と成り果ててしまっていた。
落ち付かなく揺れる情勢に王家の問題。まず解決すべきは政治に関するものと、夫婦間の改善にも力を入れる様に進言もしなかったのが悔やまれてならない。
情勢は貴族側にも国民側にも反発を買うエルレント政権の打破…これに尽きた。相手は手段を選ばず、王太子妃の裏切り行為を捏造し、他国の侵略を許し、王太子妃を殺害するまでになったのだ。
この様な局面に置いても、臣下から上がってくる報告はエルレントの非常さを浮き彫りにするものだった。
証拠不十分でありながら、断罪を許した息子を作り上げてしまった罪悪感で、王妃はその場を動けなかった。
そして………
「私も、その場で切られ、絶命したのです。」
「なに、を……」
「私を切った相手と言うのが、貴方を処刑場から連れ出してくれた、騎士スワンですよ。」
「!?」
処刑される様な罪人に対しても、最後まで礼儀を尽くしてくれた、紳士的な騎士がスワンと呼ばれていたのをラシーリアも覚えている。
「あの子も陛下のお子の一人なのです。」
「………陛下の、お子?」
「ええ、そうです。あの方がどれだけ女性好きか、ご存じでしょう?」
ここで、はい、と言っていいものか…明らかに陛下を卑下する様な発言は得策ではない…
「遠慮は要らなくてよ?あの方には眠っていただいているから。」
長年の病を引きずって伏せりがちであったのは知っているのだが、近年身体の痛みに耐えかねて、少し強い薬で眠ってもらっていると言うのだ。
「貴方もご存知の通り、陛下はお子が沢山おられるの。それも、多分あの方自身も把握していないのでしょうね。」
そう…前生もそうだった。不義のお子を見つけては王妃が引き取り、一人一人に教育を施していた。
「それを前は間違えたの……」
王妃は心から反省していると言う。自分の子供の育て方も、王の子供達の育て方も…全て………
柔らかな椅子に身を預け、ゆったりと座っている王妃は入室してきたラシーリアが挨拶する前に声をかけてくれた。
「お呼びでしょうか?」
内容は昨日の事についてであろう事はわかっている。
「そう、畏まらないでちょうだいな…さ、まずはお座りなさい。長くなるでしょうから………」
王妃に勧められるままにラシーリアは着座する。緊張で固まった身体を侍女が入れてくれた暖かい茶がほぐして行く…
「……まずは、私から貴方に謝罪を致しましょう。ラシーリア第二王太子妃、不甲斐ない私を許してくれますか?」
ビックリした…国の頂点に立とうかとする王妃に謝罪をされるとは……
「な、何の事についてで御座いましょう?冤罪の事ならば王妃殿下は無関係では!?」
「ふふふ、そうね。そう思うわよね?
でも、私が謝るのは今回の事ではないの。お分かりになる?」
常に凛と立つ王妃の瞳が、少しだけ不安気に揺れている。不安の中に後悔の色……
「何に、ついてなのでしょう…殿下…?」
「今の事を言っているのではないのです。ラシーリア…」
全てを知っている様な王妃の瞳…
「前は貴方を助けられなかった……」
静かに語る王妃の口からは未だに信じられない様な事が紡がれて行く………
「私も、あの後直ぐに死んでいてよ?」
「死んで……って………」
大きく目を見開いてラシーリアは驚きを隠せない。
「あの時の私は………きっと自分の事しか見えていなかったのです…」
「何を……何を仰って!?」
すっと、ラシーリアを見つめる王妃の真剣な視線が絡む。
「きっと、貴方もでしょう?前を覚えているのは…」
思わず叫びそうになり、ラシーリアは咄嗟に両手で口元を押さえた。
聞いてちょうだいね?私の懺悔を……
あの日、ラシーリアとシェルツ両王太子妃が王太子宮で襲われ、命を絶たれたと報告を受けた。供を連れ急いで向かってみれば王太子宮には火が放たれ、二人はホールの中央で重なる様にして血を流し絶命していた。
こうなる以前から、国内には不穏な噂がばら撒かれ、現王政に反発する者達も現れては国王の代理である王太子エルレントの頭を悩ませていたのだ。
こうならない様に、王太子に関しては厳しく躾けたつもりであった。たった一人で国を背負う重圧に耐えられる様にと、幼い頃から他の兄弟達に劣る事を許さず、己を律し、周囲を一瞬で押さえつけることのできるカリスマを身につけよ、と何度叱責してきたか分からない。気がつけば親子関係など崩れ果て、エルレントはただ己の義務を果たすべく、動くからくり人形の様になってしまった。
それに気がついた時には時すでに遅し…前王の轍を踏まない様にと二人の妃を娶ったものの、その妃に対して愛情を注ぐ事も、心を砕く事もしない冷たい夫と成り果ててしまっていた。
落ち付かなく揺れる情勢に王家の問題。まず解決すべきは政治に関するものと、夫婦間の改善にも力を入れる様に進言もしなかったのが悔やまれてならない。
情勢は貴族側にも国民側にも反発を買うエルレント政権の打破…これに尽きた。相手は手段を選ばず、王太子妃の裏切り行為を捏造し、他国の侵略を許し、王太子妃を殺害するまでになったのだ。
この様な局面に置いても、臣下から上がってくる報告はエルレントの非常さを浮き彫りにするものだった。
証拠不十分でありながら、断罪を許した息子を作り上げてしまった罪悪感で、王妃はその場を動けなかった。
そして………
「私も、その場で切られ、絶命したのです。」
「なに、を……」
「私を切った相手と言うのが、貴方を処刑場から連れ出してくれた、騎士スワンですよ。」
「!?」
処刑される様な罪人に対しても、最後まで礼儀を尽くしてくれた、紳士的な騎士がスワンと呼ばれていたのをラシーリアも覚えている。
「あの子も陛下のお子の一人なのです。」
「………陛下の、お子?」
「ええ、そうです。あの方がどれだけ女性好きか、ご存じでしょう?」
ここで、はい、と言っていいものか…明らかに陛下を卑下する様な発言は得策ではない…
「遠慮は要らなくてよ?あの方には眠っていただいているから。」
長年の病を引きずって伏せりがちであったのは知っているのだが、近年身体の痛みに耐えかねて、少し強い薬で眠ってもらっていると言うのだ。
「貴方もご存知の通り、陛下はお子が沢山おられるの。それも、多分あの方自身も把握していないのでしょうね。」
そう…前生もそうだった。不義のお子を見つけては王妃が引き取り、一人一人に教育を施していた。
「それを前は間違えたの……」
王妃は心から反省していると言う。自分の子供の育て方も、王の子供達の育て方も…全て………
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