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「良かったわ……」
シェルツが巻き込まれなくて…
「ええ、良かった……」
もう、自分を庇って苦しむ姿を見る事がなくて…
「あんな思い…もう十分なのよ………」
夢にも、もう見たくない。いや、このまま夢に見続ける位ならば早めにこの人生が終わってしまった方がいいとさえ思っていた。
「殿下………」
気遣わしげに騎士がラシーリアを呼ぶ。
「何が、良かったのです?」
今にも刑の執行を告げる声が響き渡りそうな殺伐とした処刑場に、凛とした張りのある声が響き渡った。
「な!?……」
「なぜ、ここに……」
「王妃、殿下……」
一気に静まり返っていた場がざわついた…
「王家の者の処断でしょう?王家の者が見届けずして何とするつもりでしたか?宰相…」
「こ、これは…!この様な、所まで御御足を運んでくださり…」
「そう言うのならば、この様な所に来なくても良い方法を選んで頂きたかったわ。それで?何がよかったのです?我が娘、第二王太子妃ラシーリア?」
「む、すめ!?」
「我が子王太子の妻なのですから当然でしょう?さ、ラシーリア、お答えなさい。」
「……王妃殿下…」
ラシーリアは後ろ手に手を縛られたまま、呆然と絞首台に立ち尽くす。そんなラシーリアから王妃は視線を外さず、逃げること許さずとの気迫さえ感じる空気を纏って、一歩一歩と絞首台に近づいて来た。
「…シェリーが、巻き込まれなくて、良かったと………」
ラリーリアにも何が起こっているのかわからない。こんな所にまさか王妃自身が足を向けるなどとは思いもしなかったことだ。だから惚けた様に、今自分が思っていた事を素直に吐き出した。
「ふ……なるほど…やはり、そうでしたか……」
スッと目を閉じた王妃は逡巡後、その視線を迷いなく、ラシーリアの後ろに控えている騎士に向ける。
「スワン、ご苦労様。娘を降ろして差し上げて?」
「は、失礼いたします。」
スワンと呼ばれた騎士は縛られたままのラシーリアを横抱きにすると、そのまま絞首台から降りてくる。
「な、にを!勝手は許さぬぞ!!」
これには宰相が怒り心頭である。王太子妃暗殺という大義名分があるのに、何を勝手な事を、と。
「宰相、そもそも、そこからなのです。ラシーリアの思惑外で全てが進んでしまった様ですね。」
「何を、申しますか!王妃殿下!貴方様は第一王太子妃シェルツの命を軽んじるおつもりか!!ええい!そこの騎士め!早く、第二王太子妃を吊さぬか!!」
「何という…!!」
宰相の言葉には流石の王妃も眉を上げて怒りを表した。
「吊るせとは、どういう意味だ?」
ゾクッとラシーリアの身体が震える。
この声、知っている……あの時、あの時の王太子妃宮で最後に浴びせかけられた、王太子エルレントの地を這う様な冷たい声だ………思わずギュッと両手を握り締めてしまった。
「で、殿下!!??」
「ま、エルレント様!!」
宰相も、第一王太子妃シェルツも王太子エルレントと近衞騎士一団が登場した事で一気に顔色を無くして行く。
「答えよ、宰相…何を吊るせと?」
こちらに向かいながら、王太子エルレントは自らの剣を抜き去った。
「お、お待ちくださいませ!!お待ちください!これには、暗殺未遂が掛かっておるのですぞ!」
「だから、ラシーを吊るすのか?」
ラシーリアの名前を強調して、怒りからかエルレントの額には青筋が立っていた。
「お、御身の、御身のためでは無いですか!?お命、狙われでもしましたら何とします!?」
「私の命を?誰が?ラシーがか?それとも、お前か!?」
ヒュッ………鋭く風を切ったエルレントの剣の切先は、ピタリ、と宰相の喉元にあてられる。
「で、殿下!!何を、なさいます!!」
「捕らえよ!!」
この一言で、この処刑場にいた一部を除く全ての者が拘束された。
「エ、エルレント様!!何故私まで!!」
第一王太子妃シェルツは両腕を騎士に拘束され、振り解こうと必死にもがいている。
「早くやれ、と其方も言っていたな?何をやれと言っていたのだ?」
シェルツに向けられたあの視線…冷たく死を宣言したあの時の声……
「う…………」
その殺気に気圧されたのかシェルツは何も言えなくなって口を閉ざす…
「殿下、お怒りをおさめ下さい…ラシーリア様が怖がっておられます。」
ずっとラシーリアを抱いていた騎士がそう進言するまで、王太子エルレントの怒りは静まる事は無かった。
「ああ、悪かったラシー…もう少しだから、少しだけ我慢しておいで?スワン、頼むぞ?」
「勿論にございます。」
ラシーリアにかけられたエルレントの声は柔らかい。先程の殺気が嘘の様に…そして、ラシーリアを処刑場に連れてきた騎士は今ラシーリアの護衛となった。
「スワン、と言いましたか?」
「はい、妃殿下…」
「殿下は…エルレント様は何故ここに?」
シェルツの実家の領にまで出ていたはずで、あと数日は帰城しないと思っていたのに…今、陣頭指揮をとって、宰相を拘束しこの場をわざわざ治めにきた。
なぜ………?捨て去る事だって簡単だったでしょうに…
「それは、後ほど…王太子殿下にお聞きくださいませ。」
その場に全ての者を残し、スワンは処刑場を後にした。既に第二王太子妃宮の使用人達は解放されているだろうから、ラシーリアを第二王太子妃宮へとお連れするために。
シェルツが巻き込まれなくて…
「ええ、良かった……」
もう、自分を庇って苦しむ姿を見る事がなくて…
「あんな思い…もう十分なのよ………」
夢にも、もう見たくない。いや、このまま夢に見続ける位ならば早めにこの人生が終わってしまった方がいいとさえ思っていた。
「殿下………」
気遣わしげに騎士がラシーリアを呼ぶ。
「何が、良かったのです?」
今にも刑の執行を告げる声が響き渡りそうな殺伐とした処刑場に、凛とした張りのある声が響き渡った。
「な!?……」
「なぜ、ここに……」
「王妃、殿下……」
一気に静まり返っていた場がざわついた…
「王家の者の処断でしょう?王家の者が見届けずして何とするつもりでしたか?宰相…」
「こ、これは…!この様な、所まで御御足を運んでくださり…」
「そう言うのならば、この様な所に来なくても良い方法を選んで頂きたかったわ。それで?何がよかったのです?我が娘、第二王太子妃ラシーリア?」
「む、すめ!?」
「我が子王太子の妻なのですから当然でしょう?さ、ラシーリア、お答えなさい。」
「……王妃殿下…」
ラシーリアは後ろ手に手を縛られたまま、呆然と絞首台に立ち尽くす。そんなラシーリアから王妃は視線を外さず、逃げること許さずとの気迫さえ感じる空気を纏って、一歩一歩と絞首台に近づいて来た。
「…シェリーが、巻き込まれなくて、良かったと………」
ラリーリアにも何が起こっているのかわからない。こんな所にまさか王妃自身が足を向けるなどとは思いもしなかったことだ。だから惚けた様に、今自分が思っていた事を素直に吐き出した。
「ふ……なるほど…やはり、そうでしたか……」
スッと目を閉じた王妃は逡巡後、その視線を迷いなく、ラシーリアの後ろに控えている騎士に向ける。
「スワン、ご苦労様。娘を降ろして差し上げて?」
「は、失礼いたします。」
スワンと呼ばれた騎士は縛られたままのラシーリアを横抱きにすると、そのまま絞首台から降りてくる。
「な、にを!勝手は許さぬぞ!!」
これには宰相が怒り心頭である。王太子妃暗殺という大義名分があるのに、何を勝手な事を、と。
「宰相、そもそも、そこからなのです。ラシーリアの思惑外で全てが進んでしまった様ですね。」
「何を、申しますか!王妃殿下!貴方様は第一王太子妃シェルツの命を軽んじるおつもりか!!ええい!そこの騎士め!早く、第二王太子妃を吊さぬか!!」
「何という…!!」
宰相の言葉には流石の王妃も眉を上げて怒りを表した。
「吊るせとは、どういう意味だ?」
ゾクッとラシーリアの身体が震える。
この声、知っている……あの時、あの時の王太子妃宮で最後に浴びせかけられた、王太子エルレントの地を這う様な冷たい声だ………思わずギュッと両手を握り締めてしまった。
「で、殿下!!??」
「ま、エルレント様!!」
宰相も、第一王太子妃シェルツも王太子エルレントと近衞騎士一団が登場した事で一気に顔色を無くして行く。
「答えよ、宰相…何を吊るせと?」
こちらに向かいながら、王太子エルレントは自らの剣を抜き去った。
「お、お待ちくださいませ!!お待ちください!これには、暗殺未遂が掛かっておるのですぞ!」
「だから、ラシーを吊るすのか?」
ラシーリアの名前を強調して、怒りからかエルレントの額には青筋が立っていた。
「お、御身の、御身のためでは無いですか!?お命、狙われでもしましたら何とします!?」
「私の命を?誰が?ラシーがか?それとも、お前か!?」
ヒュッ………鋭く風を切ったエルレントの剣の切先は、ピタリ、と宰相の喉元にあてられる。
「で、殿下!!何を、なさいます!!」
「捕らえよ!!」
この一言で、この処刑場にいた一部を除く全ての者が拘束された。
「エ、エルレント様!!何故私まで!!」
第一王太子妃シェルツは両腕を騎士に拘束され、振り解こうと必死にもがいている。
「早くやれ、と其方も言っていたな?何をやれと言っていたのだ?」
シェルツに向けられたあの視線…冷たく死を宣言したあの時の声……
「う…………」
その殺気に気圧されたのかシェルツは何も言えなくなって口を閉ざす…
「殿下、お怒りをおさめ下さい…ラシーリア様が怖がっておられます。」
ずっとラシーリアを抱いていた騎士がそう進言するまで、王太子エルレントの怒りは静まる事は無かった。
「ああ、悪かったラシー…もう少しだから、少しだけ我慢しておいで?スワン、頼むぞ?」
「勿論にございます。」
ラシーリアにかけられたエルレントの声は柔らかい。先程の殺気が嘘の様に…そして、ラシーリアを処刑場に連れてきた騎士は今ラシーリアの護衛となった。
「スワン、と言いましたか?」
「はい、妃殿下…」
「殿下は…エルレント様は何故ここに?」
シェルツの実家の領にまで出ていたはずで、あと数日は帰城しないと思っていたのに…今、陣頭指揮をとって、宰相を拘束しこの場をわざわざ治めにきた。
なぜ………?捨て去る事だって簡単だったでしょうに…
「それは、後ほど…王太子殿下にお聞きくださいませ。」
その場に全ての者を残し、スワンは処刑場を後にした。既に第二王太子妃宮の使用人達は解放されているだろうから、ラシーリアを第二王太子妃宮へとお連れするために。
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