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「そう、親友……ね…?」
「ええ、そうですの。」
幼い頃からの私の親友…今生はぜひ幸せになって欲しい…。
「ラシー…愛する君の顔を見ていると、本当に君がシェルツを好きなのが分かるよ…」
静かに語る王太子エルレントの声に少しだけ違和感を感じる…ニコニコしている時の声と、違う気がします……?
「けど、だからこそ、私は決めなくてはならないのだろうね…」
「…殿下?何を言ってますの?」
「大丈夫、ラシーは何も気にしなくて良いよ。ね?お休み……」
「え、ええ……」
それだけ言うと、エルレントはワインを1本受け取り部屋から出て行った。
「何をしに、来られたのかしらね?」
不思議そうに首を傾げるしか無いラシーリアに側付きの侍女達も何故だか難しい表情をしている。
「第二王太子妃殿下…今宵はもう遅うございます。王太子殿下は大事ないと仰られていましたのですから、今日はもうお休みくださいませ…」
優しい侍女達は甲斐甲斐しくラシーリアをベッドへと誘い、何となくまだ納得できていないラシーリアを寝かしつけてしまった。
明日からまた御公務がありますから…と言う言葉には流石にラシーリアも折れるしかなかった。
寝しなに王妃とワインを開けてしまったにしては翌日に影響なく起きられたラシーリアは颯爽と王城へと出向く。孤児院訪問の仕事だけでなく、それに関係する会議や書類を確認する為に。久々にしっかりと休んでしまったのだから、きっと仕事は溜まっているだろうと思われた。
「……………?」
何か、がおかしい…?
「…ねぇ?」
「はい、何でございましょうか?」
「何か城内がざわついていないかしら?」
いつもの朝、いつもの公務、違ったのは今日の朝、しつこいほど来るエルレントからのカードが来なかったくらいだろうか。
「おはようございます。第二王太子妃殿下。」
「おはようございます、殿下…」
「ええ、おはよう、皆様。良い朝ですわね?」
いつもの本城の侍女に侍従達…けれども何故かよそよそしく感じてしまう。
「何か、ありまして?」
自分に当てられている執務室に入ると、たまらずラシーリア付きの者に声をかけた。
「あの………私からは………」
酷く畏まってしまった侍女は、ただただ頭を垂れて容赦を願う。
「………貴方の、口からは言えない事が……起こっているのね?」
「………お許しくださいませ…殿下……」
許せ、と言われてもラシーリアも困ってしまう。何が起こって居るのかわからない限り、どうにも対処などできないだろう。
あの時も、突如として糾弾が始まった… 場所はここではない、大臣達も集う大会議室だ。
いつもの如くに、業務に追われていれば、宰相率いる近衞騎士に囲まれ、いわれなき罪状を読み上げられ、反論はもちろん許されず、シェリーの悲鳴を背中で聞きながら騎士に拘束されて王太子宮へと連行された。そのまま何日軟禁されたのだろう…王太子妃宮に尋問に来る騎士を押し留めようと、何度もシェリーの悲鳴に近い叫びを聞きながら、まだ自分は大丈夫なのだとそれを心の拠り所にして、頭がおかしくなりそうな恐怖と戦っていた。
王家宝物庫から聖石の盗難及び、他国への売買。これは、王家の威信を失墜させる様な重大な裏切り行為であり、国家転覆を目論んだ重犯罪行為である。
他国への聖石の譲渡、国王陛下の御首とその地位の代わりに亡命を企て、国内に大いなる波紋を巻き起こし、各地で暴動を引き起こした首謀者である。
この様な内容をつらつらと読み上げられては呆気に取られた私の反応を是として、何の言い分も許されずに責任追及のみ押し進められたのだ。
何がいけなかった?何があってあんな事に?
何度も考えても埒が開かない事はとうに考えるのを辞めていたではないか…なのに、今、あの日の事がまざまざと蘇ってきてしまう。
「殿下!?第二王太子妃殿下?お顔の色が優れませぬ…!今日はお帰りになった方が……」
「………昨日も、休んでしまったわ……」
夢見が悪かった……それでもう、許してもらいたいものである。
「しかし、今日は王太子殿下はおられないのです。そんな時に……」
「殿下は、居られないの?」
ラシーリアは今日初めてそれを聞いた。
「はい。急な要件であったと聞いておりますが、本日中には城には戻れないと言う事でございました。」
「そう…どこに行かれて?」
「………………」
「どうしたの?」
王太子の行き先を、グッと堪える様にして口にも出さない侍女を訝しんでラシーリアは再度問う。
「第一王太子妃様のご実家に、ございます………」
重い口を開いて何を言うかと思えば、ラシーリアが考えていた事よりもずっと平凡な理由であった。
シェリーの実家であればよく知っている。緑豊かな水源も豊富。観光地にも適している東部に位置するローリング侯爵領だ。
「まぁ、良いところではないの?急な案件がお有りだったのかしら?それともご静養?」
娘の嫁ぎ先、王太子の訪問となれば大いに歓待されるに違いなく、この機会にぜひにも王太子エルレントの心をガッチリと掴んでほしいところである。
「ええ、そうですの。」
幼い頃からの私の親友…今生はぜひ幸せになって欲しい…。
「ラシー…愛する君の顔を見ていると、本当に君がシェルツを好きなのが分かるよ…」
静かに語る王太子エルレントの声に少しだけ違和感を感じる…ニコニコしている時の声と、違う気がします……?
「けど、だからこそ、私は決めなくてはならないのだろうね…」
「…殿下?何を言ってますの?」
「大丈夫、ラシーは何も気にしなくて良いよ。ね?お休み……」
「え、ええ……」
それだけ言うと、エルレントはワインを1本受け取り部屋から出て行った。
「何をしに、来られたのかしらね?」
不思議そうに首を傾げるしか無いラシーリアに側付きの侍女達も何故だか難しい表情をしている。
「第二王太子妃殿下…今宵はもう遅うございます。王太子殿下は大事ないと仰られていましたのですから、今日はもうお休みくださいませ…」
優しい侍女達は甲斐甲斐しくラシーリアをベッドへと誘い、何となくまだ納得できていないラシーリアを寝かしつけてしまった。
明日からまた御公務がありますから…と言う言葉には流石にラシーリアも折れるしかなかった。
寝しなに王妃とワインを開けてしまったにしては翌日に影響なく起きられたラシーリアは颯爽と王城へと出向く。孤児院訪問の仕事だけでなく、それに関係する会議や書類を確認する為に。久々にしっかりと休んでしまったのだから、きっと仕事は溜まっているだろうと思われた。
「……………?」
何か、がおかしい…?
「…ねぇ?」
「はい、何でございましょうか?」
「何か城内がざわついていないかしら?」
いつもの朝、いつもの公務、違ったのは今日の朝、しつこいほど来るエルレントからのカードが来なかったくらいだろうか。
「おはようございます。第二王太子妃殿下。」
「おはようございます、殿下…」
「ええ、おはよう、皆様。良い朝ですわね?」
いつもの本城の侍女に侍従達…けれども何故かよそよそしく感じてしまう。
「何か、ありまして?」
自分に当てられている執務室に入ると、たまらずラシーリア付きの者に声をかけた。
「あの………私からは………」
酷く畏まってしまった侍女は、ただただ頭を垂れて容赦を願う。
「………貴方の、口からは言えない事が……起こっているのね?」
「………お許しくださいませ…殿下……」
許せ、と言われてもラシーリアも困ってしまう。何が起こって居るのかわからない限り、どうにも対処などできないだろう。
あの時も、突如として糾弾が始まった… 場所はここではない、大臣達も集う大会議室だ。
いつもの如くに、業務に追われていれば、宰相率いる近衞騎士に囲まれ、いわれなき罪状を読み上げられ、反論はもちろん許されず、シェリーの悲鳴を背中で聞きながら騎士に拘束されて王太子宮へと連行された。そのまま何日軟禁されたのだろう…王太子妃宮に尋問に来る騎士を押し留めようと、何度もシェリーの悲鳴に近い叫びを聞きながら、まだ自分は大丈夫なのだとそれを心の拠り所にして、頭がおかしくなりそうな恐怖と戦っていた。
王家宝物庫から聖石の盗難及び、他国への売買。これは、王家の威信を失墜させる様な重大な裏切り行為であり、国家転覆を目論んだ重犯罪行為である。
他国への聖石の譲渡、国王陛下の御首とその地位の代わりに亡命を企て、国内に大いなる波紋を巻き起こし、各地で暴動を引き起こした首謀者である。
この様な内容をつらつらと読み上げられては呆気に取られた私の反応を是として、何の言い分も許されずに責任追及のみ押し進められたのだ。
何がいけなかった?何があってあんな事に?
何度も考えても埒が開かない事はとうに考えるのを辞めていたではないか…なのに、今、あの日の事がまざまざと蘇ってきてしまう。
「殿下!?第二王太子妃殿下?お顔の色が優れませぬ…!今日はお帰りになった方が……」
「………昨日も、休んでしまったわ……」
夢見が悪かった……それでもう、許してもらいたいものである。
「しかし、今日は王太子殿下はおられないのです。そんな時に……」
「殿下は、居られないの?」
ラシーリアは今日初めてそれを聞いた。
「はい。急な要件であったと聞いておりますが、本日中には城には戻れないと言う事でございました。」
「そう…どこに行かれて?」
「………………」
「どうしたの?」
王太子の行き先を、グッと堪える様にして口にも出さない侍女を訝しんでラシーリアは再度問う。
「第一王太子妃様のご実家に、ございます………」
重い口を開いて何を言うかと思えば、ラシーリアが考えていた事よりもずっと平凡な理由であった。
シェリーの実家であればよく知っている。緑豊かな水源も豊富。観光地にも適している東部に位置するローリング侯爵領だ。
「まぁ、良いところではないの?急な案件がお有りだったのかしら?それともご静養?」
娘の嫁ぎ先、王太子の訪問となれば大いに歓待されるに違いなく、この機会にぜひにも王太子エルレントの心をガッチリと掴んでほしいところである。
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