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これよ、これで良いんだわ……!!
聖石の場所の移動に成功した。前回は城の宝物庫だったから、宰相がどうにかしたとか、そんな細工はできないだろう。
「良かった…本当に良かった…」
ホッとしたら力が抜けてしまって第二王太子妃宮に帰ってきて中に入った直後にヘナヘナと泣きながら座り込んでしまった。
「殿下!第二王太子妃殿下!!」
「どうなさいました!殿下!」
「ふふ、ふ……大丈夫、大丈夫よ…」
すっかり気が抜けていたものだから、泣き笑いになってしまったのだけれど…
でも、これで大丈夫。うん、シェリーは死なない、シェリーは大丈夫…王太子と幸せになって、もうあんな事は起こらない…
あんな悲劇、もう二度と起こらないと思ったら、泣き笑いが止まらなくて困ってしまった。優しく心配りの行き届いた侍女達は皆んな心配して出てきてしまって…自室に一人は良くないからと、何人もの侍女が側に控えてくれて泣き止むまで涙を拭いてくれた。他の者達は部屋を少しでも明るくしたり、まだ晩餐を取っていない私の為に、急遽私がこちらに帰ってきた時の為にと作ってくれていた好物を並べて、食べさせてもくれた。
「今日はマナーなんて忘れましょう?」
いかなる時も王太子妃としての品位と矜持を忘れるべからず、と口を酸っぱくしていう立場の者達まで、今日は無礼講ですから!と何度も言って側を離れようとはしなかった。
無礼講と言う立場は私なんじゃないの?と思ったけれども、皆の態度と心遣いが嬉しくて、無礼講でいいわと納得してしまう。
そしてこんな時にエルレントを呼びに走らないのは、本当に良くできた侍女達だと思う。今王太子宮ではシェリーとの晩餐が始まった頃だろう。ここにいる者達はそれを良く知っているのだ。
ねえ、シェリー…今貴方はどうか分からないけれど、私は心の底から貴方に幸せになってもらいたいの…エルレントとは関わりにもなりたくは無かったけれど、貴方はどう?幸せ?私達の行く末を断ち切ってしまった物を、どうにも動かせない所に移したわ。だから、大丈夫…もう、大丈夫よ…
あの時、蘇るのはシェリーの叫び声と温かな身体…痛みを堪える声と、二人の絶望と悲しみ…謝っても謝っても謝りきれない悔しさに、もう跳ね起きることも無いんだと、重荷をおろして…やっと息ができる思いがする。
泣いて泣いて、ちっとも泣き止まない第二王太子妃を慰める為に、誰一人としてその場から離れていく者はいなかったと言う…
次の日の朝、泣きすぎて大いに腫れ上がってしまった瞼のケアを重点的にしてもらっている所へエルレントのいつものカードが届いたのだ。カラフルなお菓子と、今朝は顔を見に行けなくて悪かった旨と、君は心配しなくても良いんだ云々が永遠に書かれている様なカードだった。
「何かあったの?」
腫れてしまった瞼はまだ違和感が物凄く、細目を開けてやっとカードを読んだのだ。
「何でございましょう?」
ラシーリアは城内の情勢に聡く無い。先の生で大抵の物事を知っていたし、エルレントとシェリーの性格の変化を除いては、それらが概ね外れなく流れていくものだから、情報網を張る必要性を感じてもいなかった。
「聞きに行かせましょうか?」
第二王太子妃宮の主人がのんびりと構えているからか、ここの侍女達は必要以外のものに耳聡くは無い様なのだ。
「う~~ん…何かあったのならば王太子殿下はカードに書かれると思うのよね?」
なんと言っても自分の個人財産の宝物庫の開け方まで書いてくる方なので…
「左様ですね。城内で何かあればこちらにも知らせがくるでしょうから。今日はゆっくりと過ごしましょう、殿下。」
何せ昨日の今日である。きっとまだ王太子宮にはシェリーが滞在しているだろうし、そう言う訳だけれども気にしないでね、と書きたかったのかもしれない。ラシーリアにとってはそれは如何でも良いことで、瞼はまだまだ重いが気持ちはスッキリし過ぎるくらい軽いのだから、今日位はダラダラと過ごそうと心に決めた。
エルレントから送られたお菓子を後生大事に取っておくのも嫌なので、昨日のお礼にと侍女達を呼び寄せて皆んなで分けた。ゆっくりと湯に浸かってマッサージを受けて、好きな物を食べて、午睡して……本当にダラダラと過ごしてしまって、気がついたらもう夕暮れでそろそろ晩餐の準備をする頃だ。
「今日は本城からの遣いはあった?」
どうせ来客の予定も無いし、晩餐も部屋で摂ってしまおうと楽なドレスで過ごしていたラシーリアの元に今日は一通の書類も来ていない事に気が付いたのだ。
表舞台に立つ仕事はほぼシェルツが担当しているが、慈善事業や簡単な王族に関わる書類の確認など、手伝えるところも多々あって、ラシーリアにも毎日書類が届いていたものだったのだが。
「今日はございませんよ。ですからどうかごゆっくり……」
「そう?ありがとう…では、晩餐の時にはワインを開けようかしら?」
急ぎの仕事が入るといけないと思うと中々ゆっくりワインも飲めない。大仕事が終わったし、こんな時には少しくらい嗜んでも良いと思ったから…
聖石の場所の移動に成功した。前回は城の宝物庫だったから、宰相がどうにかしたとか、そんな細工はできないだろう。
「良かった…本当に良かった…」
ホッとしたら力が抜けてしまって第二王太子妃宮に帰ってきて中に入った直後にヘナヘナと泣きながら座り込んでしまった。
「殿下!第二王太子妃殿下!!」
「どうなさいました!殿下!」
「ふふ、ふ……大丈夫、大丈夫よ…」
すっかり気が抜けていたものだから、泣き笑いになってしまったのだけれど…
でも、これで大丈夫。うん、シェリーは死なない、シェリーは大丈夫…王太子と幸せになって、もうあんな事は起こらない…
あんな悲劇、もう二度と起こらないと思ったら、泣き笑いが止まらなくて困ってしまった。優しく心配りの行き届いた侍女達は皆んな心配して出てきてしまって…自室に一人は良くないからと、何人もの侍女が側に控えてくれて泣き止むまで涙を拭いてくれた。他の者達は部屋を少しでも明るくしたり、まだ晩餐を取っていない私の為に、急遽私がこちらに帰ってきた時の為にと作ってくれていた好物を並べて、食べさせてもくれた。
「今日はマナーなんて忘れましょう?」
いかなる時も王太子妃としての品位と矜持を忘れるべからず、と口を酸っぱくしていう立場の者達まで、今日は無礼講ですから!と何度も言って側を離れようとはしなかった。
無礼講と言う立場は私なんじゃないの?と思ったけれども、皆の態度と心遣いが嬉しくて、無礼講でいいわと納得してしまう。
そしてこんな時にエルレントを呼びに走らないのは、本当に良くできた侍女達だと思う。今王太子宮ではシェリーとの晩餐が始まった頃だろう。ここにいる者達はそれを良く知っているのだ。
ねえ、シェリー…今貴方はどうか分からないけれど、私は心の底から貴方に幸せになってもらいたいの…エルレントとは関わりにもなりたくは無かったけれど、貴方はどう?幸せ?私達の行く末を断ち切ってしまった物を、どうにも動かせない所に移したわ。だから、大丈夫…もう、大丈夫よ…
あの時、蘇るのはシェリーの叫び声と温かな身体…痛みを堪える声と、二人の絶望と悲しみ…謝っても謝っても謝りきれない悔しさに、もう跳ね起きることも無いんだと、重荷をおろして…やっと息ができる思いがする。
泣いて泣いて、ちっとも泣き止まない第二王太子妃を慰める為に、誰一人としてその場から離れていく者はいなかったと言う…
次の日の朝、泣きすぎて大いに腫れ上がってしまった瞼のケアを重点的にしてもらっている所へエルレントのいつものカードが届いたのだ。カラフルなお菓子と、今朝は顔を見に行けなくて悪かった旨と、君は心配しなくても良いんだ云々が永遠に書かれている様なカードだった。
「何かあったの?」
腫れてしまった瞼はまだ違和感が物凄く、細目を開けてやっとカードを読んだのだ。
「何でございましょう?」
ラシーリアは城内の情勢に聡く無い。先の生で大抵の物事を知っていたし、エルレントとシェリーの性格の変化を除いては、それらが概ね外れなく流れていくものだから、情報網を張る必要性を感じてもいなかった。
「聞きに行かせましょうか?」
第二王太子妃宮の主人がのんびりと構えているからか、ここの侍女達は必要以外のものに耳聡くは無い様なのだ。
「う~~ん…何かあったのならば王太子殿下はカードに書かれると思うのよね?」
なんと言っても自分の個人財産の宝物庫の開け方まで書いてくる方なので…
「左様ですね。城内で何かあればこちらにも知らせがくるでしょうから。今日はゆっくりと過ごしましょう、殿下。」
何せ昨日の今日である。きっとまだ王太子宮にはシェリーが滞在しているだろうし、そう言う訳だけれども気にしないでね、と書きたかったのかもしれない。ラシーリアにとってはそれは如何でも良いことで、瞼はまだまだ重いが気持ちはスッキリし過ぎるくらい軽いのだから、今日位はダラダラと過ごそうと心に決めた。
エルレントから送られたお菓子を後生大事に取っておくのも嫌なので、昨日のお礼にと侍女達を呼び寄せて皆んなで分けた。ゆっくりと湯に浸かってマッサージを受けて、好きな物を食べて、午睡して……本当にダラダラと過ごしてしまって、気がついたらもう夕暮れでそろそろ晩餐の準備をする頃だ。
「今日は本城からの遣いはあった?」
どうせ来客の予定も無いし、晩餐も部屋で摂ってしまおうと楽なドレスで過ごしていたラシーリアの元に今日は一通の書類も来ていない事に気が付いたのだ。
表舞台に立つ仕事はほぼシェルツが担当しているが、慈善事業や簡単な王族に関わる書類の確認など、手伝えるところも多々あって、ラシーリアにも毎日書類が届いていたものだったのだが。
「今日はございませんよ。ですからどうかごゆっくり……」
「そう?ありがとう…では、晩餐の時にはワインを開けようかしら?」
急ぎの仕事が入るといけないと思うと中々ゆっくりワインも飲めない。大仕事が終わったし、こんな時には少しくらい嗜んでも良いと思ったから…
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