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「これは…一体………?」
「あ!目の付け所が良いね!これは君が結婚式の時に頭に被っていたベールを留めていたピンだ。」
「では、これは……?」
「使い古したハンカチだね?廃棄処分にしようとしていただろう?」
「…これ…は…?」
「ふふふ…初めて一緒の晩餐で使った時のナフキンさ…君のテーブルマナーは完璧だったね。」
「な……………」
なんていう、マイナーな物を、宝物庫なんかに?入れるとしたらもっと、もっとこう、華やかな物が…
何故、ベールじゃ無くてピン?何故、新しい刺繍のハンカチではなくて使い古し?何故、使用済みのナフキンをそのまま……?
「あ!ラシー!ちゃんとベールは取ってあるよ?寝室の方の額に入れてある。見たいかい?一番重要な思い出の品だからね?」
怪訝な顔をしていたラシーリアの表情を見て勘違いしたらしいエルレントは、この箱の中に思い出の結婚式のベールやら何かが入っていなかった事に、ラシーリアが不満を持ってしまったと勘違いした様だった。
「い……え、いえ、殿下…これの、他に…見せて貰っても良いものってありませんの?」
変態!と叫びそうになった所をグッと堪えて、クラクラしながらもラシーリアは更に別の物を所望した。エルレントとのカードのやり取りで、ラシーリアがたった一つ、進言し、おねだりした物である。
「ふふふ、ラシー。おねだり上手だね?とっておきはまだ見せてあげられないけれど…う~ん…どうしようかな?」
「王太子殿下?」
あの、時間が余りありませんの…ですから…
「私の宝物はまだこの箱三箱分はある!君との思い出は絶対に逃したく無い物だからね。私のお気に入りなんだよ!」
何が、他に何が入っているのか…聞くのも見るのも恐ろしくてこれ以上突っ込まないが、きっと、あれでしょうね…殿下は大きな綺麗な犬の様な方だから、きっと自分の大事な気に入りのオモチャを穴に埋めるみたいな、きっとそんな習性がおありなんだわ…そう、思っておきましょう……
「はい!そしてこれだろう?式典の時にもこんなに近くで見る事は叶わない物だ。さ、良く見てごらん。」
エルレントはラシーリアの手を取ると、両手の上に輝く聖石をゆっくりと乗せてくれた。
「これが………」
これが盗まれたから、これがあったから…………シェリーも私も、死ななくても良かったのに……
両掌でやっと握っていられる様な鈍い光を放つ石。思ったよりも重量があって、エルレントが一緒に支えてくれていなければ直ぐに落としてしまいそうなほどに重い石。
「もう仕舞おうか?レディには面白く無かったよね?」
知らず知らず険しくなってしまっていたラシーリアの表情を見てエルレントなりに気を遣ってくれた。
「ラシー、聖石はここにしまっておくから、いつでも見においで?王家の宝物庫の鍵も今は私が管理しているし、好きな時に何でも見せてあげるよ。」
出した時と同じように、聖石はベルベットの布地が貼られた木箱にそっとしまわれた。そしてエルレントの収集ボックスも聖石と同じような扱いで、エルレントの個人宝物庫にしまわれていった。
「どうだったかな?私のお姫様…!今度は二人だけで寝室の方の宝物も見せたいのだけど…?」
モジモジとしていた王太子は少し威厳を取り戻したようで、王子様然とした誘い文句でラシーリアに擦り寄ってくる。
「ありがとうございました。王太子殿下。非常に良い勉強になりましたわ。お願いのついでにもう一つ…これは私達だけの秘密の見学会と致しましょう?だって…王太子殿下の宝物庫に私の私物が入っているなんて、私…恥ずかしくて……」
「ああ…分かったよ。愛しい君…」
もう少しだわ……
その時が来るのはいつも唐突であったりする。少し、ドアの外がざわつき始めたと思ったら、ドアの外で待機していた侍女を突き飛ばす勢いで、エルレントの部屋のドアが開け放たれる。
「エルレント様!こちらに居られるのですか?」
ドアを蹴破る勢いで入ってきたのは、案の定豪華なフリフリのドレスに身を包んだ今日も美しいシェルツであった。
「シェリー、こんばんは。良い夜ですこと。ご機嫌いかが?」
親友同士の第一王太子妃と第二王太子妃ならではの気安さがあり、親しさを込めてラシーリアは挨拶をする。
「まあ!私を差し置いて、第二夫人ともあろう方が、誰の許可を得てここにいますの?」
なんて優しいのかしらシェリー…今のは
用が済んだのなら直ぐここから出て行って良いのよ。王太子殿下の事は概ね私が引き受けるし、今日もこれから相手をしておくから…
という事ですね?
「シェルツ妃私が招待したんだよ?見せ……嫌、少し話がしたくてね?」
殿下。今見せたいものって言いそうになりましたわよね?隙がないシェリーの事ですもの。そんな事を言えば私の恥ずかしいあれこれ全て見てしまうまで、きっと殿下から離れなくなってしまうわ!
キッと睨んでいた視線に気がついたのか、エルレントは少し寂しそうな顔をしてシェルツを迎え、ラシーリアにご苦労だったと労いの言葉をかけた。
「それにしても王太子宮の本日の装いの素晴らしい事!この案を出した者に褒美を授けたいですわ。」
エルレントにエスコートされる形となったシェルツは上機嫌である。これから王太子宮にて晩餐の予定であったのだ。
「あら、でもやはり駄目ね…今日の晩餐は二人分しか用意していないと侍従が言っていたわ…なんという事かしら…第二夫人の存在を忘れるなんてちっともなっていなかったわ!」
シェリーがこっちを見たわ。勝ち誇った様にして流し目をくれる時がチャンスなのだわ!
「まあ、王太子殿下とシェリーの晩餐の邪魔をするなんて恐れ多いですわ。今晩はここで私はお暇させていただきます。」
エルレントとシェリーの前で綺麗な礼をとって、ラシーリアはクルリとその場を後にした。
シェリーありがとう!と心の中で感謝するのを忘れなかったわ!
「あ!目の付け所が良いね!これは君が結婚式の時に頭に被っていたベールを留めていたピンだ。」
「では、これは……?」
「使い古したハンカチだね?廃棄処分にしようとしていただろう?」
「…これ…は…?」
「ふふふ…初めて一緒の晩餐で使った時のナフキンさ…君のテーブルマナーは完璧だったね。」
「な……………」
なんていう、マイナーな物を、宝物庫なんかに?入れるとしたらもっと、もっとこう、華やかな物が…
何故、ベールじゃ無くてピン?何故、新しい刺繍のハンカチではなくて使い古し?何故、使用済みのナフキンをそのまま……?
「あ!ラシー!ちゃんとベールは取ってあるよ?寝室の方の額に入れてある。見たいかい?一番重要な思い出の品だからね?」
怪訝な顔をしていたラシーリアの表情を見て勘違いしたらしいエルレントは、この箱の中に思い出の結婚式のベールやら何かが入っていなかった事に、ラシーリアが不満を持ってしまったと勘違いした様だった。
「い……え、いえ、殿下…これの、他に…見せて貰っても良いものってありませんの?」
変態!と叫びそうになった所をグッと堪えて、クラクラしながらもラシーリアは更に別の物を所望した。エルレントとのカードのやり取りで、ラシーリアがたった一つ、進言し、おねだりした物である。
「ふふふ、ラシー。おねだり上手だね?とっておきはまだ見せてあげられないけれど…う~ん…どうしようかな?」
「王太子殿下?」
あの、時間が余りありませんの…ですから…
「私の宝物はまだこの箱三箱分はある!君との思い出は絶対に逃したく無い物だからね。私のお気に入りなんだよ!」
何が、他に何が入っているのか…聞くのも見るのも恐ろしくてこれ以上突っ込まないが、きっと、あれでしょうね…殿下は大きな綺麗な犬の様な方だから、きっと自分の大事な気に入りのオモチャを穴に埋めるみたいな、きっとそんな習性がおありなんだわ…そう、思っておきましょう……
「はい!そしてこれだろう?式典の時にもこんなに近くで見る事は叶わない物だ。さ、良く見てごらん。」
エルレントはラシーリアの手を取ると、両手の上に輝く聖石をゆっくりと乗せてくれた。
「これが………」
これが盗まれたから、これがあったから…………シェリーも私も、死ななくても良かったのに……
両掌でやっと握っていられる様な鈍い光を放つ石。思ったよりも重量があって、エルレントが一緒に支えてくれていなければ直ぐに落としてしまいそうなほどに重い石。
「もう仕舞おうか?レディには面白く無かったよね?」
知らず知らず険しくなってしまっていたラシーリアの表情を見てエルレントなりに気を遣ってくれた。
「ラシー、聖石はここにしまっておくから、いつでも見においで?王家の宝物庫の鍵も今は私が管理しているし、好きな時に何でも見せてあげるよ。」
出した時と同じように、聖石はベルベットの布地が貼られた木箱にそっとしまわれた。そしてエルレントの収集ボックスも聖石と同じような扱いで、エルレントの個人宝物庫にしまわれていった。
「どうだったかな?私のお姫様…!今度は二人だけで寝室の方の宝物も見せたいのだけど…?」
モジモジとしていた王太子は少し威厳を取り戻したようで、王子様然とした誘い文句でラシーリアに擦り寄ってくる。
「ありがとうございました。王太子殿下。非常に良い勉強になりましたわ。お願いのついでにもう一つ…これは私達だけの秘密の見学会と致しましょう?だって…王太子殿下の宝物庫に私の私物が入っているなんて、私…恥ずかしくて……」
「ああ…分かったよ。愛しい君…」
もう少しだわ……
その時が来るのはいつも唐突であったりする。少し、ドアの外がざわつき始めたと思ったら、ドアの外で待機していた侍女を突き飛ばす勢いで、エルレントの部屋のドアが開け放たれる。
「エルレント様!こちらに居られるのですか?」
ドアを蹴破る勢いで入ってきたのは、案の定豪華なフリフリのドレスに身を包んだ今日も美しいシェルツであった。
「シェリー、こんばんは。良い夜ですこと。ご機嫌いかが?」
親友同士の第一王太子妃と第二王太子妃ならではの気安さがあり、親しさを込めてラシーリアは挨拶をする。
「まあ!私を差し置いて、第二夫人ともあろう方が、誰の許可を得てここにいますの?」
なんて優しいのかしらシェリー…今のは
用が済んだのなら直ぐここから出て行って良いのよ。王太子殿下の事は概ね私が引き受けるし、今日もこれから相手をしておくから…
という事ですね?
「シェルツ妃私が招待したんだよ?見せ……嫌、少し話がしたくてね?」
殿下。今見せたいものって言いそうになりましたわよね?隙がないシェリーの事ですもの。そんな事を言えば私の恥ずかしいあれこれ全て見てしまうまで、きっと殿下から離れなくなってしまうわ!
キッと睨んでいた視線に気がついたのか、エルレントは少し寂しそうな顔をしてシェルツを迎え、ラシーリアにご苦労だったと労いの言葉をかけた。
「それにしても王太子宮の本日の装いの素晴らしい事!この案を出した者に褒美を授けたいですわ。」
エルレントにエスコートされる形となったシェルツは上機嫌である。これから王太子宮にて晩餐の予定であったのだ。
「あら、でもやはり駄目ね…今日の晩餐は二人分しか用意していないと侍従が言っていたわ…なんという事かしら…第二夫人の存在を忘れるなんてちっともなっていなかったわ!」
シェリーがこっちを見たわ。勝ち誇った様にして流し目をくれる時がチャンスなのだわ!
「まあ、王太子殿下とシェリーの晩餐の邪魔をするなんて恐れ多いですわ。今晩はここで私はお暇させていただきます。」
エルレントとシェリーの前で綺麗な礼をとって、ラシーリアはクルリとその場を後にした。
シェリーありがとう!と心の中で感謝するのを忘れなかったわ!
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