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 そこは光が満ち溢れる様な不思議な空間であった。金の光が揺蕩っているので地下の空洞がどれほど大きいのか目視できないほどであった。

「…ここは……?」

「……なんという……」

 金の光はゆっくりと優しく動いて周囲を包み、まるで現世にいるとは思えないほどの幻想さで満ちていた。

 二人とも言葉という言葉が見つからず、しばしここに来た目的を見失ってしまう程放心していたのである。

 ゆっくりと歩めば金の光も、まるで一定の質量があるかの様に流れていく。地下の空洞は思いがけぬくらい広い様で見渡しても壁らしき遮蔽物が見つかりもしない。

「どうしたものか?」

 ここには聖女ルーチェリアがいる。嫌、いると信じたい。だからこの地下空洞を全て探索するつもりではいるものの、目星をつけることができずにいる。

「アールスト!彼方を!」

 レストール神官長が目敏く何かを見つけたのだ。目を凝らすと、金の光の波の間に一層光り輝く場所が微かに見え隠れしている。

「あれは、何でしょうか?」

 そうであって欲しいと、心からの期待と叫びを胸に秘め、アールストの歩調は速まる。進みゆく中に祭壇の様な所がより一層輝いて見えた。

「あ………」

 アールストは手を伸ばす…

「ルーチェリア…ルーチェリア様…ルーチェリア様!!」

 祭壇の様な台座に横たえられたルーチェリアの身体中から光がフツフツと湧き出ているのだ。身体全身が光り輝いて光そのものの様にも見える。
 
 けれども何故だろう…こんなに胸が締め付けられるのは…夢の様な、まごうことなき神秘に直面しているのに、アールストの胸はザワザワと湧き立つのだ。

「…これは、何という…」

 レストール神官長はもはやそれ以上の言葉は出てこなかった。

「帰りましょう…ルーチェリア様。貴方様の世界に…みんな待っていることでしょう?」

 アールストの目から透明な涙が伝う。どうしてだか分からないが、この世界の者ではないだろうルーチェリアの魂はきっとここで帰郷してしまうのだろうと思ったのだ。もしかしたらもう会えなくなると…
 そしてこの持続的にルーチェリアから湧き上がる金の光も、もしやルーチェリアの魂を代償にしている物だとしたら、今直ぐにでも止めなければルーチェリアは本当に消えていなくなってしまうと思われたのだ。

 だからアールストは直ぐにルーチェリアを抱きしめた。

 少しでも、ここに、この腕の中に止まっていて欲しいとありったけの願いを込めて………










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