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 手が千切れるほど伸ばしたとしてももう届かない。アールストの瞳には瘴気の暴風も、ルーチェリアをポッカリと開いた足元の穴に突き落とし、高笑いしているカナールの姿ももう見えない。
 最後に振り返って微笑んだ、ルーチェリアの笑みと宙に舞い広がる鮮やかな金の髪、そして漆黒の闇に吸い込まれて行くルーチェリアの姿しか見えていなかった。




 暗い…暗い…奈落の底…目を開けていても開けなくても周囲に何があるのか分からない。ただ、寒く、重苦しい、ルーチェリアがよく知っている瘴気の渦…


 もっと、苦しいのかと思った……


 粘りつく様な瘴気の感触はあれど呼吸はできる。穴に落とされたはずなのだがいくら待っても床に着く気配すらない…


 何も無い……ずっと一人…?


 ゾクリと背筋に寒気が走る。このままルーチェリアが息絶えるまでたった一人でこの場所にいるんだろうか?外からの救出はもはや望めないだろうから。

 ギュッと胸の前で手を合わせる。寒さを感じるこの場で唯一暖かかったものを求めて…


 あ………


 ホカホカと暖かかったもの…ここに落ちる前にルーチェリアが感じていたもの…


 アールストのだ……

 
 暖かかった手や身体、自分を思ってくれているその思い。思い出すだけで胸が熱くなる。手紙を…最初は捨ててもらうかルーチェリアに渡して貰えばそれで良かった。けれど、今はアールストに知っていてもらいたい。自分が誰で、自分がどんな風に生きて来たか、ルーチェリアに何を伝えたかったか…消えて行く自分を知っていてもらいたかった。


 だから、助けなきゃね……その為に入ったんだもの…


 最後に見たアールストの顔の苦しそうな事と言ったら、思い出すだけで胸が締め付けられそうになる。


 全て……消えます様に……!!


 貴方の苦しみも、全ての人が苦しまなくても良い様に…!

 ありったけの思いを込めて祈る………














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