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 このままじゃ、ダメ……このままじゃ…
そんな事は分かっている!でも…ルーチェリアが……

 ギュッと自分の腕を掴む。


 きっと緋香子はもういない…戻るとしたらルーチェリアだけ…でも、このままじゃ、ルーチェリアが戻るどころか…何もかもがめちゃくちゃになっちゃう…!


 頭の中に傷ついた身体を引きずって歩く聖女達の姿が浮かぶ…身体の浄化が終わったらまた使命を果たせると泣いて喜んでいた彼女達の笑顔が浮かぶ…


 幼い子も…何も知らずに……犠牲に…


 きっと楽しい事も、嬉しい事も、聖女の仕事が何であるのかもわからなかった子供もいたかもしれない。


 止めなきゃ……


 急流の様な瘴気の流れ、これが果たして止められるものなのかも、もう分からない。


 けど、やらなくちゃ…


 次に犠牲になって行くのは身も心も捧げているこの神殿にいる人々。そして世界中にいる何も知らない人々だ。

「行かせませんよ…!」

 既にルーチェリアの行動を予見していた如くにアールストはルーチェリアを止める。王家の遺物を浄化しただけでルーチェリアは昏倒したのだ。ならばこの瘴気の量を見ただけで最早無事では済まない事がわかってしまう。


 死なせたくはない……


 聖騎士の役割。それは聖女をあらゆる災いから守り導く事。聖女が瘴気に侵される様なことがあれば騎士は身をもって瘴気から聖女を守る様に動くのだ。だから聖女と同じく瘴気によって命を落とす騎士は多い。それなのにその事実が表舞台に出る事は滅多にないのだ。
 しかし、アールストはそれで良いと思っている。聖騎士となる時に既にこの命は聖女に捧げたのだ。自分が守る聖女の盾となる事は騎士の最大の栄誉だから。聖女の代わりに命を落とす事。聖騎士ならばこれ以上の死に場所はないだろう。


 だが、聖女以上に…


 聖女ならばその使命を全うするべき事に命をかけるだろう。それに付き従う騎士ならばその聖女と運命を共にするのは道理のはず。
 けれども、目の前に現れた瘴気の濁流にこれを浄化できる力を持つルーチェリアを一歩たりとも近付けたくはなかった。聖騎士である騎士道を破ってでさえも、ルーチェリアの命を守りたい…












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