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 それなのに、こんな名前を持つ民族を知らないのだ…

 いや、民族はどうでもいい。聖女が聖女たらしめんとし、その力に満ちている事が重要であって……すると莫大な力を持っているルーチェリアは聖女たる事に遜色ない人物だ。ならば聖騎士として仕えるのに何の問題もない。が、これをわざわざ書き残し、人目につかない様に焼却せよと、又は読んでほしいと相反する要望をアールストに託したルーチェリアの真の目的は何であろうか…

 手紙の最初につらつらと書かれている内容はアールストにとっては到底理解できるものではなかった。そこに鳳路緋香子なる人物の自己紹介から始まって何故手紙を残す様になったのか、これからルーチェリアがどうなって行くのか一つも逃さない様に書き連ねたいとする確固たるルーチェリアの意志が伺えた。


 ルーチェリアの偽物……


 アールストの頭の中にあらぬ疑義が湧き上がる。しかし、外見は家族も認める本人の物…では、中身だけ入れ替わることなど聞いた事もない魔法ではないか?いや、例え中身がルーチェリアと全く違う者だとしても聖女の力さえあれば……ここでアールストの中でこれは自らの正義に反するのではないかと言う思いが湧き上がる。聖騎士はに仕える者だ。聖女がルーチェリアだったから仕えるのでは無い。ルーチェリアが聖女であったから自分はここにいてルーチェリアに仕え護っているのだ。
 であれば元のルーチェリアがどんな人物であったかなどアールストには関係ないことになる。またルーチェリアの中身が誰であろうともまたどんな願いを持っていようとも関係のないことになる。聖女が聖女であればそれでいいのだから。

 侍女から指摘を受けた後、自分の中で聖女に対する疑惑を持った事に対して非常な罪深さを感じアールストは大いに反省をした。

 反省をした結果、次の日の夜も明けぬ朝からカルンシス公爵邸の中庭で1人訓練に打ち込む聖騎士の姿を見る事ができる様になったという……






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