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 トルンフィス国王が見つめているのは壁面に凝った意匠が彫り込まれている一目見て宝が入ってるだろうと思わせるような箱だった。

 ただ…真っ黒な蜘蛛の糸のような瘴気が触手の様にうねりながら箱の隙間という隙間から染み出していて、宝箱だと言われても近寄りたくは無い物なのだが………

 国王はそれに慣れているのかウネウネと染み出す瘴気を恐れもせずに側にいる。王家の恥…先程国王が話していたが中に入っているのは確かな様だ。

「そちらに…?」

「そう、ここに此度聖女殿に浄化してもらいたい物が入っておる。」


 ……開けなければ、ダメな感じですよね?


 ルーチェリアの浄化の方法はその瘴気に直に触れることだ。ならば開けてドロドロでウネウネと漂う瘴気に手を入れなければならないのだろう。


 箱にはかつての聖女に施して貰ったと言う封印の気があるとか何とか…そう言うのもこれだけ漏れ出しているのだから封印の力なんて嘘だっていわれても納得がいく。
位には凄まじい感じ……


「では、早速参りましょうか!」


 ここでずっと箱を見ていてもただ悪戯に時間が過ぎるだけなので…

 勇気よし…!
 度胸よし…!


「アールストさん、もし私に何かあったら私の部屋にある手紙の束は燃やしてくださいって伝えてください。もし私が何もなく誰かに……」

「ルーチェリア様?」


 遺言よし………!
 
 
 ルーチェリアは国王の隣にある箱を目掛けて歩いていく。

「国王陛下、開けられますか?」

「うむ…!」

 ルーチェリアの気迫を受けて国王にも緊張が走る。手に持っていた王笏を上手く使い宝の箱の蓋を勢いよく開け放った!


 あ、王様、手で開けないんだ?
 いいけどね~


 バッと開け放たれた瞬間に、ムワッと埃の様な雲の様な霧のようなものが一気に箱から流れ出てくる。それがまとまって触手のようにもなりウネウネと周りにいる者達に近付いてくるから気持ちが悪い…………

  
 急がなきゃ!こっちは準備万端なのよ!


 早足になりながらルーチェリアのは胸の留ボタンに手をかける。歩きながら器用にボタンを全て外して一気に聖女の服を脱ぎ捨てた。

「……!?……ルーチェリアさまーーーー!!!!」

 それを見たアールストの驚愕たるや…ウネウネの触手から周囲の人々を守ろうと愛刀を抜き去ってバッサバッサと実態なき瘴気相手に切り掛かり格好良いったらない姿を晒しつつルーチェリアの暴挙に目が飛び出るほどに驚いたに違いないのだ。
 

 









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