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「ふむ。苦しゅうない。こちらへ…」

 国王が指し示すのは石の祭壇の前だ。

「お待ちください。トルンフィス国王陛下。」

 スッとルーチェリアが前に進み出そうとするとそれよりも前にアールストが出てきて遮ってくる。

「君は?」

「私の衣を見て分かりませんか?」

「あぁ、聖騎士殿だな?」

「その通りです。私は聖女ルーチェリア様を守る為にここにおります。その意味がお分かりで?」

「………我らの要請には応えられぬというのか?」

「内容にもよりますね?」

「出来ぬと…?」

 ピキッ……

 
 空耳だと思いたい…アールストさんからなんか音が聞こえた……


「陛下は聖女をなんだとお思いになっているのです?本来ならば聖女ルーチェリア様には一国の国王如きに呼びつけられてノコノコとやってくる義理などこの方にはありますまい!」

 トルンフィス王国が聖女に対して誠意を尽くさなかったのだから…!そして今日のこの仕打ち…聖女は王の間にて荘厳に迎え入れられるかもと思っていたのに、挨拶もなく本城を素通りして墓場だと?

 アールストの怒りは沸点を超えてしまいそうだ。

「…致し方ない事だ。その娘は先日まで社交も出来ぬ身体であったとか…聖女としての働きぶりと、今日見た限りどこも悪そうには見えぬのは幸いなことよ。」

「聖女ルーチェリア様を慮って礼を省略したと?」

「許せ…何分、急を要しているのだ…」

 小国であろうと威厳ある立場の国王陛下は随分と疲れている様にも見えた。

 ブチッ………

 2回目の空耳を聞いた様な気がする…?   
そうっとアールストを除き見れば、目が完全に補殺者の様に殺気立ってて……!


 聖騎士!!聖騎士ですよ!アールストさん!!それじゃ、暗殺者に~~~


 自分が狙われてるわけじゃないのに掌に嫌な汗がじっとりと染み出して来た………


「あ、の!陛下!私の仕事は?何をすればいいんでしょうか?えっとお手紙では王家の逸品の浄化とか伺っているのですけど!」

 こうなったら礼儀作法も何も無い。今までは権力者の前で萎縮していたルーチェリアは今度は暗殺者となりそうなアールストの前で必死にこの場を取り繕う羽目になった。

「そうなのだ…王家の恥とも言うべきか…」

 そう言って祭壇の上に置いてある長方形の箱に視線を移す。

 
 そうですよね?それですよね?だってさっきからずっと瘴気の靄がゾワゾワと漏れ出てますもん…

 




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