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 トルンフィス王城は公爵家を少し豪華にした様な印象だった。広さは公爵邸よりも確かに大きいが調度品等に特別な質の変化はない様に思えた。この世界の中で一番小さい国であるから王家の威厳を保つ事も難しいものなのかもしれない。


 きっとばーちゃんがここに居たらこれじゃいかんとめくじら立てそう……

 何というか、質素?必要な物以外置いていない、そんなイメージだ。歴史を感じさせる様な美術品やら骨董品はルーチェリアが入った所には置いていないだけかもしれないけれど一度もお目にかからなかったから、格式に拘るばーちゃんのお眼鏡に敵わないなんて思ったのかもしれない。


 そんな王城の王との謁見は立派な玉座の間ではなかった。

 ルーチェリア、アールスト、侍女達が案内された場所は一度入った本城から中庭に出てさらに奥に入って行くと地下に降りる為の小さな建物がある。階段を降りるとそこは王家の墓地だった。


 あ~~…アールストさんの表情が無くなってるな……

 
 悪魔でも全世界が羨む聖女…王族をも傅かせる力ある聖女…最も尊ぶ地位にいる聖女…王城を通過した時点から徐々に無くなって行くアールストの表情から声に出して言わなくても何を考えているのか大体想像がつく様になってしまった。

 顔色さえ青白くなっていきそうなアールストは表情こそ崩していないものの、かなりお怒りだという事は手に取るように分かってしまう。


 良かった、聖女の服着て来て…


 いつもだったら断固拒否の白い絹の聖女の服。今日は国王陛下への謁見で公爵家にある着古したドレスよりもきっとこちらの方が見栄えが良い。だからこっちを選んだのがこれ幸い…アールストが表情を無くしながら案内人役を射殺しそうになる度にわざとアールストの前で聖女の服を指で摘んでニコリと微笑む。


 はい、これ見てくださいね~私はぜんっぜん気にしてませんから…はい、アールストさん、剣の柄から手を離しましょうか?


 本気で切り掛かるかもと思ってヒヤヒヤしながら歩くものだから折角の王城を十分に楽しむ間も無く、暗いジメジメとした地下の霊廟に辿り着いてしまった。地下の霊廟に続く通路は薄暗かったがその先にある扉を開けて中に入ると広い霊廟を見渡せるほど明るく保たれていて、お墓という印象が薄れて行く。

「良く来られた。聖女ルーチェリアよ。」

 霊廟の奥には石造りの祭壇の様な台座がある。その上には細長い箱、そしてその台座を囲む様に王冠を被った国王らしき人物と国の重役達だろうと思われる貴族と護衛の騎士が数名立ち並んでいる。

「お初にお目にかかります…」

 
 教えられた通りに出来たかな?国王陛下に挨拶するなんて経験今までになかったから…手が……震えているのバレません様に…!













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