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 そうなのだ。ルーチェリアには護衛騎士がいない。いや、いなかった。ほとんどと言って良いほど自室から出る事がなかったルーチェリア。自分の家だと言うのに、勝手に庭を散歩する事さえも憚れているような生活を送っていたのだから。だから、実の所、自由に動き回れる今の状況にかなり浮かれていたりする。

「一度、公爵を問い詰めて差し上げてもいいでしょう。返答次第では、カルンシス公爵家は他国の王家貴族諸侯から相手にされなくなりますがね…」

「そ、それは、こ、困るのでは?」


 主に、ルーチェリアも困るでしょ?またもっと、引きこもりになっちゃう…せっかく、外を見れたのに…


 実際はルーチェリアの中にいる赤の他人が見聞きしているだけなのだが、不思議とルーチェリアも心から喜んでいるというのが胸の内から湧き上がってきてよく分かるのだ。

「何を言われます。その様なことになったら、貴方様の事は全神殿が責任を持って保護いたします。世界各国の王家が貴方様を守りに入りますからね。」

「私を……?」

「左様です。貴方様は至高の聖女であらせられます。どの様な所にいらしても、無碍に扱われて良い存在ではありません!」

 ここで、ズイッと聖女の衣を差し出してくるあたりに聖騎士アールストの忠誠心が見えてくるのだろうか………

「アールスト様!」

「アールストです!」

「もう!見てお分かりになりませんか?私はこんなに汚れているのです!それなのにそんなに真っ白な衣装なんて着れる訳がないでしょう?これ、落ちないんですよ!?」

 そうなのだ。この瘴気が放つドロドロのギトギト、ねっとりとした油汚れの様な真っ黒な汚れ。ここにある一番強力な石鹸を使用しても落ちれはくれない。であるから、捨てても良い様なぼろ衣装か、汚れが染み付いたお仕着せの様な物を仕事の時にはいつも着用する様にしているのに……

「ええ。構いませんよ。聖女様のご衣装はあらゆるサイズでいつ何時でもご試着いただける様に常にご用意しておりますから。」

「アールストさん!それ、絹でしょ?そんなに勿体無いことできませんってば!」

「アールストです!左用です。素材を見定めるなど流石でございますね?勿体なくはございません。この布地もさぞ本望であることでしょう!」

「……ダメだわ…これ……」

 何度話し合ってもアールストは一歩も引かない。何でこんなに外見ばかりこだわるのか理解に苦しむが、身分があるほど時には見栄を張らなくてはいけない事もあるから、それなんだろう…
















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