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 聖女ルーチェリアはどんな瘴気にも臆さない。どんな所にも出向いてくれる。

 カルンシス公爵邸からそんな噂が周囲に広がり、国王の耳にまた他国に聴こえるようになるのにそう時間はかからなかった。

 公爵家の誇る深窓の令嬢であり、病弱で公にはその姿を現した事がない謎の多い聖女とくれば、それは噂が噂を呼び、尾鰭背鰭胸鰭が付きまくり、聖女ルーチェリアはこの世の者かと疑う様な絶世の美女、その声は雨雲を呼び日照りを終わらせ、手の一振りで大地の草花を咲き誇らせる。世界の至宝のような瞳に睨まれればどんな瘴気も邪気も瞬く間にこの世から消えて無くなる。歴史上これ以上ない程の力の持ち主…




「だあれ?それ?」

「貴方様にございます!」

 聖騎士アールストの目の前には、煤汚れに真っ黒に染まりながら、木綿の手拭いで顔を拭っている、薄汚れた少女が一人……
キョトンととしたあどけない表情は年相応のもの。
 見た目や肌艶は流石に整っている貴族ご令嬢だ。が、貴族としての気品があるかと問われれば…………

「へぇぇぇ…そんな事言われた事ないんだけど……?」

 カルンシス公爵家にいる時、聖女として目覚めるまでは、ほぼいないものの様に扱われていたのだから。令嬢として屋敷に置いてもらうことはできても、家中の者から主人として丁寧に対応してきてもらったわけでもない。それは今も同じ様なものである。

 聖女として傅かれているのは、神殿から侍女達が派遣されてからの事だし、身の回りの事はこの侍女達か、自分でしている。病から急に癒えて今のルーチェリアになった事に不信感を募らせている者もいるくらいだ。

「お聞きした事がなくても、既に各国の国王陛下の耳にも入っている事でございます。ですから、貴方様の周りはこれから王家が繋がりを持とうと少々うるさくなると思いますよ?」

「王家!?王様に会わなくちゃいけないんですか?」

「時と場合によっては。けれども、貴方様が国王に臆する事など無いのです。」


 そう言うわけにはいかないのでは無いだろうか…?


「いえ、ルーチェリア様がお会いしたく無いならば会わずとも結構。もし、どうしてもと言うのならば向こうから出向いてくるのが礼儀でしょう。」

 至極最もと言う様な顔で真面目に言ってるアールストだ。

「それなのに…カルンシス公爵はなにをお考えになっているのだか…」

「え……公爵様?」

「ルーチェリア様。いくらお父上だとしても様、はいりません。身分で言えば貴方様の方が上になります。」

「そんな事…言われても……」 

  
 ほとほと困ってしまう。この世界に少しは慣れたと言えども、この身体の持ち主ルーチェリアの親を見下して物事を語るなんてやり難いったら……


「いいえ…こちらの対応には少々目に余るものがございますよね…ルーチェリア様が類稀なお力を持っているというのに、護衛の一人も付けようとなさらないとは……」







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