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「こりゃ………ひでぇ………」

 思わず皆そう口に出してしまうほど、川は黒く濁り、死んだ魚がそこかしこに浮いて腐臭を放っている。よく見るとガスなのか臭気なのか川面からはモヤの様なものさえ燻っている様に見えて、誰もが顔を背けたくなる様な様相だ。

「魚は…駄目だろうな…」

 こんなに汚染されていては川の生物はもはや望めないだろう。そして被害がそこで止まってくれているならば御の字と言うものだ。川の水を吸い出した木々や動物達が死ぬ様になってからでは被害がさらに広がっていく。

「早く、上流に行かなければ!」

 聖騎士ならでは、こんな場面を多くみて来たアールストにも危機的状況であることがよくわかる。

 休憩もそこそこに一同は湧水を目指す。

「ここか……」

 ここ一帯で一番瘴気が濃く空気さえも黒ずんで見える。湧水があるだろう箇所からはボコボコと得体の知れない泡と汚水が溢れて流れ出し、水質どころか周囲の土地まで侵食し始めているではないか。
 ここまでくると、湧水の所に近寄るのでさえ危険がつきまとう。このモヤも、湧水自体もどんな性質を持っているのかわからないからだ。

「じゃあ、ちょっと離れてて下さいね?」

 女性の声が上がった。

  
 聖女殿か?


 が、その姿を拝もうにも神官服を着た聖女はどこにも見えない。神官服を着ているものは神殿から遣わされている侍女達だけで、後は騎士と従者荷物を下ろし始めている下男下女だけ……


「あ!おい!!」

 聖女に挨拶せねばと意気込んでいた聖騎士アールストかららしからぬ声が上がる。キョロキョロと辺りを見回していたアールストの視界に、なんと下女がズンズンと瘴気のモヤの中に入っていくのが目に見えたから。

「待て!中は危険なのだぞ!?」

 何というか、違和感しか感じない。瘴気は決して無害ではないことは周知の事実のはずなのに、誰一人として止めに入る者がいないのだから。

「分かってます。だから、離れててくださいね?」

「は?」

 瘴気の事を一般人よりも明らかに理解している聖騎士に向かって下女は離れててくれと言う。


 何で…!?


 アールストは騎士だ。理由があって瘴気に向かったであろう下女だとて何かあった場合には守りの対象なのだ。

 だから馬を降りて、自分も瘴気のモヤの中に飛び込んでいこうとしてもおかしくはなかった。















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