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 トルンフィス王国。世界地図で見れば、やっと国だと認めてもらえるほどの大きさしかない国だった。その国の公爵家令嬢がこの度神託に預かった聖女だと言う。

 トルンフィス王国のカルンシス公爵家。大国の公爵家ならば名前を知らないと言う者はいないのかもしれないが、カルンシス公爵家についてはほとんど情報が無い。妙齢の令嬢の姿絵さえも無いほどに人前には出ていない様子なのだ。

「旦那様、幻の姫君。其方が我らが知る限りの情報の全てです。」

「幻?馬鹿な。相手は小国なりとも公爵家だぞ?夜会に茶会、令嬢がお出ましになる機会などいくらでもあろう?」

「へえ、そうなんですが、このご令嬢産まれながらにお身体が悪いそうで…その影響か、家の者達も口を破らないそうで…」

 聖女を安全に迅速に保護する為には聖騎士の手足となり情報を収集するこの様な者達がいる。

「お身体が悪い?それで聖女の務めは果たせると?」

「それなんですが、ちゃんと王国の魔術師が判定を行なっているそうです。問題は無いらしいと。」

「なるほど、お身体の具合もそのご尊顔も行ってみなければ分からないということか。」

「その様で…」

「わかった。リスート、何か分かったらまた報告を。」

「はっ」


 これからアールストが守ろうとしているのは、身体が弱く顔もわからぬ謎に包まれた公爵令嬢。その実、司祭が認める神託の聖女だ。

「どの様な方であろうと、守り切ってみせるさ。」

 ガルンドーラ聖騎士団の一員にはその自信がある。彼らはそれはそれは厳しい訓練に試験を通り抜けて今のこの地位にいるのだから。



「旦那様、3日後に聖女様がお出になるそうです。」

 深夜に戻って来たリスートはどうやらトルンフィス王国からの書状を託されて来た様だ。

「どこにだ?」

 書状には瘴気の出現に対し、聖女に出動要請をしたとある。瘴気の出現場所はトルンフィス王国きっての山であるマンル山中腹という。

「そうか、では直接向かおう。ここからならばその方が早いだろう。」

「へぇ、ではその様にトルンフィス側に。」

「あぁ、我らは聖女殿のためにある。聖女殿が向かう場所が我らの目的地だ。」

「はは!旦那様ならそう言うと思っておりましたよ。」

「ここからならば聖女殿を待たせずに合流できる。さ、今夜は休んで、明日は早いぞ!」


 今回の聖女殿は謎だらけで神秘的なベールに包まれた、いかにも神の使いの様な方だ。今まで以上に気を引き締めてかからねば。




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