[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

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71 王の決意 2

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 龍は本来一人で生きるもの。世界中に意識を向けられ理を掴めるから親の庇護は要らない。
 が、今レギルとリレランと子龍がいる場所は、元スルジー男爵領を王家が買い取り王家の私有地とした所で、周囲にレギル一家以外の人間がいないから自由に暮らせているのだ。リレランが龍である事は、王家の人間とそれに関わってきた者達しかまだ知らない事で、他の人間の目に留まって騒ぎにならない様にとカシュクール国王が決断したものだった。そして今この場所にリレランは薄く結界らしき物を張り巡らしている。間違って人間が領地に入ってこない様にするためのもので、入ろうとすれば恐ろしい畏怖に襲われる、位の軽いものだそうだ。しかしこれが子龍に少し影響を及ぼしていて、リレラン自身が張っている結界が子龍の目をも塞いでしまっているのだそうだ。だからノエルは蝶の谷でリレランがそうしていた様に外部から情報を取れず、卵から孵った後に両親からの教育を受けて一から育てあげられている。

「どうも、甘え癖がつくみたいだな?」

 このままでは持てる力のコントロールにも時間がかかってしまいそう…そもそも甘えっ子の龍なんて聞いた事がない。全生物の頂点に立っているのに威厳も何も無いのでは、龍として生きるよりも前に他の動物にでも狩られてしまう……リレランはそんな心配をしている。この地は精気に満ちて物凄く好きで落ち着くけれど、子供がダメになる事は防がなくては……

「レギル…この子この卵蝶の谷に預けよう…!」

 レギルに関わる人間が生を全うするまでは人間の土地で生きて行こうと決めていた。レギルに与えられた仕事もあるし、まだまだこの地で暮らすつもりではあるがいずれは離れなければならなくなる。龍の卵この子もずっと人間の世界では生きてはいけないだろう。龍には龍の理りがある。リレランが学んだ様にある程度自分で吸収しなくては…

「ノエルは?」

 リレランの腕の中で撫で撫でされる事にうっとりと目を細めているノエル。もうすっかりこちらも甘えっ子で龍としての威厳はない…………レギルも腕の中で大事そうに卵を抱え直した。

「う~ん…この子は置いてきたらじっとはしていないだろうからな…」

「ここから通わせるか?」

 レギルはカシュクール国王から頂いている仕事がある。全領土を巡って、精霊使いになれそうな者を教育し、城へと送るのだ。両親が健在であるうちはカシュクール国の為にこの仕事を続けていくつもりだ。なので、ノエルの監視のために一緒に蝶の谷へと籠もってしまう事はできないが、通いならば送り迎えするだけでいいのだから楽である。通わせる手間はあるが、龍として子供達が自立できなくなることの方がレギルにも問題だと思った。人間の教育はレギルでも施せるが、龍の場合は全くのお手上げだからだ。

「そうだね?僕が飛んでもいいし、レギルが送ってもいいし。うん、行けるね?」

「あぁ…人間の礼儀は私が教える。だからお前は龍の理を学んで早く卵から出ておいで?父様も母様も待っているからね?」

「もう!レギル!甘い!そんなに甘やかさなくたって生きていけるんだよ?むしろ強くなきゃ生きられないのが龍なの!」

 二児の父となり、すっかり子煩悩な姿に変わってしまっているレギルにリレランは釘を刺す。

「レギルは、自分の仕事をしてて良いよ。まだ精霊使いの力も安定してないんだろ?」

 過去に出した候補者何名かは既にいくつかの小さな精霊と契約を結ぶまでにはなっているようなのだが、基本的な教育はクリアしたもののなんとも経験が足りないと言う問題が浮かび上がってきてしまっている。国内に熟練した精霊使いが増えてくれる事は大いに喜ばしい事なのだ。この国に次なる天災が起こった時にはきっとリレランの助けなくても乗り越えていけるだろう。その為に精霊使いの熟練度を上げる事が必須で…レギルは今その手助けもしている。

「そうだな……」

 少しだけ、レギルにも精霊を操る術が分かってきている。リレランの力に繋げられているからか、精霊を統べる龍の理りがうっすらと見えてもくる。いずれ、自分も人間とは言い難く…この地では生きていられなくなるだろう…そんな事を実感しながら、幼い卵のためにレギルは精霊門を開くのだった……

 懐かしい、迷い森の蝶の谷……かつてリレランの卵があった所にレギルは腕に抱いていた卵を下ろす。きっとリレランをここに置きにきた母龍もこんな気持ちだったのかも知れないなんて少し思いながら。

「良く学び、卵から出てからお家に戻っておいで?」

 龍達が、それも古の龍までもが心地良いと感じるあの家に…それまでしばしお別れだ…
幼い卵を一撫でして周りの精霊達に卵をお願いしてからレギルはその場を離れた…


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