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69 リレランの巣作り 3

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 リレランの卵………?

「……聞くが…ランは雄…?」

 何度かこの手に抱いたのだから、人としての性別はわかっているつもりであったが、龍となると違うのか?

 すっかりと仕事の手が止まったレギル王子はじっとリレランを見つめている。

「ん?僕?雄だよ?」

 では、他の雌を探し出して卵を生ませるつもり……?種族が違えばそれも致し方ないのだろうが、それでもレギル王子の胸は締め付けられそうになる。

「ちょっと、レギル?何か物凄い勘違いをしてないか?」 

 すっと顔色が変わったまま動かないレギル王子に向かって、勢いよくベッドから降りたリレランが身軽にピョンとレギル王子の膝の上に乗って来る。

「勘違い…?」

 リレランが卵を求めている事だろうか?

「そう。僕が言っていた卵って、僕が産むんだよ?」

「……!?……ランは雄なんだろう?」

「そう。」

「なのに、なぜ卵を…?」

 普通は雌なのではないか?

「まあ、普通の動物はね?でも、僕、龍だよ?」

 そもそもが龍の生態をよく知りもしないレギル王子なのだから、龍だから雄が卵を生むなんて事も知りはしない。

「両方の持ってるんだよ?」

 そんなレギル王子の疑問にリレランはサラリと答える。そもそもが、龍の成体数が圧倒的に少ないんだ。最早数えるだけしか残ってはおらず、また今の現状では残っているもの同士でも交尾はほぼ不可能に近いかもしれない。いつからなのかそれはリレランにも分からないだろうが、雌雄で交尾しなくても卵が産める様になった。リレランの産みの親はどの龍なのか、まだ生きているのかさえもリレランは知らない。そもそも雌雄での交尾の結果か、一匹の内で育まれたのか…そんな事リレランにとっては些細な事だ。

「僕が、ここで卵を産み育てたらって精霊達は言っているんだ。」
 
「ランの卵……」
 
「そう…僕とレギルの卵…」

「私の…!?」

「そうだよ!僕の交尾の相手レギルじゃないか!」

「私の……子供ができるのか…?」

「うん、産まれたらだけどね?」

 堅かったレギル王子の表情がどんどん柔らかく、嬉しそうになる……最早、そんな幸せはないものと思っていたのに……コツンと合わせたリレランの額にレギル王子は甘える様に自分の額を擦り付けた。

「……ラン……いつか、産んでくれるか?」

「もちろん!僕だって自分の子供の顔はみたい。」

 さらに柔らかくなったレギル王子にリレランは口付けていく……

「いつか…この地の人間が許してくれたら…あの丘に巣を作ろう?花が咲き溢れる中に卵を産んであげたい……」

 優しくリレランを抱きしめているはずのレギル王子の手が少し震えていた……








「陛下、如何でございましたか?」
  
 カシュクール国王の手にはレギルの書簡。スルジー領に対する調査書だ。

「うむ。非常に興味深い…スルジー領はあの干魃に死者なく耐えたそうだ。」

「……誠でございますか?」

 ほんの小さな領土のスルジー領だ。被害云々は畑地の草花だけだったと言われていても、領民は他の地に逃げたか何かしたのだろうと勝手に判断されていたようだ。 

「申し分なくよい土地で、何よりラン様が酷く気に入ったと…地に住う精霊の反応も申し分ないほどに人に好意的だと言う…」

「…精霊が、でございますか……」

 もしや、その土地の人々は精霊が見えるのか、話すことができるのか……

「そうだな…精霊に関してはほぼ無知だそうだが、ルアナ嬢には大いに期待できるとある。」

 精霊との契約は代々王家直系の男児のみ…国王となる者に限られて来た。なのに、ここに来てその土地の精霊に愛されている人間がいると知る事となった。精霊との契約は一方通行であっては人間には分がない。力がない人間には成立さえできないだろう。だからこその王家の権威だったのだが…王家以外の者達が精霊と契約を結ぶ……夢の様な眉唾な話でももし、実現したならば……

「……この国は…大いに発展するだろう…」

「…精霊の加護によりでしょうか?」

「そうだな…」

 精霊の力を借りれば、以前の様な大干魃も避けられるか、防げたかもしれない…少なくとも、大勢の人の命は落とさなくて済んだ筈だ。

「陛下…スルジー男爵令嬢に入城の書簡を送っても…?」

「…良し、オレイン公の目は確かな様だ。それですすめる様に、各所に通達を…!」

「は……」

「それと、レギルに視察を早急に済ませて、城へ戻る様に伝えよ。そしてここに、王妃と、オレイン公を呼ぶ様に…」

 王の決断から、次期皇太子妃が決定し、一気に城の中が活気付く…何しろカシュクール国は大干魃を超えてからというもの皇太子入れ替えに伴うレギル王子の廃嫡騒ぎで、天災と疫病に耐えた事への喜びを噛み締める暇さえなくここまで来た。皇太子妃決定と共に、国全体で祝い喜びを分かち合っても良いだろう。

「もう一つ…決断をしなくてはいけないな……」

 呼んだ者を待つ間、王は決意の色をその瞳に湛えていた…

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