61 / 72
61 人々の心
しおりを挟む
朝日の昇らぬ内から身支度を始めるレギル王子一行。騎士達ならば夜勤もある為に問題もなかった。無理をさせてしまったのは領主館の使用人達だろうか?それでも不満の声も上げずに皇太子廃嫡が決定しているレギル王子によく仕えてくれたと思う。良くよく礼を言い、ゆっくりと農村を回りつつ次なる領地へとレギル王子一行は出立した。
うっすらと朝焼けする畑地の中にもう既に人影が見える。今は何の種蒔だろうか?整えられた畝の上に農夫は丁寧に種を落として行く。農夫を追う様に種にそっと優しく土をかけながら女が続く。若者は水桶を持って種が撒かれた土の上から、水をこれまた丁寧に撒いて行く。農村であればどこでても見かけることのできる何気ない風景。都会にいる者ならば物珍しさも手伝って朝焼けに映し出された一枚の絵の様にも見えるのかもしれないが、敢えて見てみろ、と言われなければならない様な変わったものは何処にもないのだ。
「……?」
しばらくそんな風景を何処の畑地でも見受ける事がで来た。が、リレランは何を?
「レギル、精霊と交流をする時にはどうすれば良いと思う?」
既に顔見知り?の精霊は何体かいるレギル王子に向かってリレランは質問した。
「…精霊の存在を感じ取り心を寄せる事…か?」
存在自体否定してる者に目に見えない物を見る事はまず出来ないだろう。
「そう…だから、見てごらんよ?」
リレランは指差す。その方向には小さな子供を連れた農夫一家だ。何やら畑地で作業中で、父親が畑地を耕している。その後に小さな子供が地をならしているのだが、そんなに小さい子供では鍬も鋤も持てないのに、その幼子は両親の真似をしてか、いい子いい子をする様に大地を撫で、あやす様にポンポンと叩いていた。
「あれが、何か?」
子供特有の土遊びだと言われてしまえばそうとしか見えず………
「あの子はね"元気に育ちます様に、沢山実ります様に、守ってあげてください。いつもありがとう"っていう祈りを込めているんだ。」
精霊が祝福を与えて育てた物を人間は受け取る。そして、人間からの感謝や親しみは自然に、精霊の元に帰って行く…この精気の循環を龍は糧にする。
「土龍はそれが酷くお気に入りで、マリーのお願いに過剰反応したんだな………」
「…古龍の一つである土龍は我がカシュクールを気に入ってくれているのか?」
「そうみたいだね?僕だってこの国は居心地良いんだよ。ここにいてもいいって思うくらいにさ…」
あの様な素朴な農夫達の心にも大地や自然に感謝する心を物心つく前から持っている。精霊とのコンタクトの始まりは、まずそこにいる者を認めて心を注ぐ事だ。
「なるほど……条件は満たされているわけか……」
「そうなるね?」
朝焼がはっきりとした日差しに変わる。馬車の中に射す日の光を浴びたリレランの瞳や肌や髪の色は変わらないのに、どうしてかレギル王子にはいつもよりも輝きが増している様にしか見えない。
「ラン……」
そっと、腕の中にレギル王子はリレランを引き寄せた。
「ん?」
「わたしが思っている事は…自己満足ではないだろうか?」
「何が?精霊と交流できる者を育てる事?」
「そう……」
人間だけが良かれと思っていても絆されて行く者にとっては傍迷惑な行為であったら……
「…レギルって実は小心者…?」
命をかけて僕を追いかけて来たのに?
水晶の様なリレランの瞳が見開かれる。驚きに目を丸くしている。
「シェルツェインは一度でも、君の呼び掛けに面倒だと言った事ある?」
「それは、私が精霊の愛子であったから、だとも思っていたのだが……」
カシュクールの国王夫妻である両親とはこんな話をした事がなかった。だから、精霊の愛子としての自分と一人間である両親の間で精霊との関係が違うものかどうかも分からない。シェルツェインの現契約者である父の事をシェルツェインがどう思っているのかさえも……
「精霊はあまり我慢しないかな……」
う~~ん…と言いながら、リレランはレギル王子にスルリと絡みついてくる。
「ラン……」
「嫌だと思ったら僕と同じ様にここに留まる理由なんてないだろ?人間と絆される事を嫌っている訳じゃないんだ。それより……」
多分、昔の様に……
「僕達、龍が感じる人間からの精気はね、精霊にもちゃんと届いているんだ。レギルがシェルツェインを大切に思っているのはシェルツェインにも届いている。これを、嬉しく思わない者はいないだろ?」
外を見つめていた水晶の瞳は今はしっかりとレギル王子の視線を捉えていて…レギル王子もその瞳から目を逸らせないでいる。線の細い暖かいリレランの腰にレギル王子はしっかりと腕を回して抱き寄せる。
「精霊も、待っていてくれていると?そう思っても……?」
「僕には、そうとしか見えていないけどね…」
リレランの美しい顔が、花が綻ぶ様にふぁっと笑顔になる。花に蝶が寄せられる様にレギル王子もリレランに吸い寄せられて…
ゆっくりと、深く唇が重なっていった……
うっすらと朝焼けする畑地の中にもう既に人影が見える。今は何の種蒔だろうか?整えられた畝の上に農夫は丁寧に種を落として行く。農夫を追う様に種にそっと優しく土をかけながら女が続く。若者は水桶を持って種が撒かれた土の上から、水をこれまた丁寧に撒いて行く。農村であればどこでても見かけることのできる何気ない風景。都会にいる者ならば物珍しさも手伝って朝焼けに映し出された一枚の絵の様にも見えるのかもしれないが、敢えて見てみろ、と言われなければならない様な変わったものは何処にもないのだ。
「……?」
しばらくそんな風景を何処の畑地でも見受ける事がで来た。が、リレランは何を?
「レギル、精霊と交流をする時にはどうすれば良いと思う?」
既に顔見知り?の精霊は何体かいるレギル王子に向かってリレランは質問した。
「…精霊の存在を感じ取り心を寄せる事…か?」
存在自体否定してる者に目に見えない物を見る事はまず出来ないだろう。
「そう…だから、見てごらんよ?」
リレランは指差す。その方向には小さな子供を連れた農夫一家だ。何やら畑地で作業中で、父親が畑地を耕している。その後に小さな子供が地をならしているのだが、そんなに小さい子供では鍬も鋤も持てないのに、その幼子は両親の真似をしてか、いい子いい子をする様に大地を撫で、あやす様にポンポンと叩いていた。
「あれが、何か?」
子供特有の土遊びだと言われてしまえばそうとしか見えず………
「あの子はね"元気に育ちます様に、沢山実ります様に、守ってあげてください。いつもありがとう"っていう祈りを込めているんだ。」
精霊が祝福を与えて育てた物を人間は受け取る。そして、人間からの感謝や親しみは自然に、精霊の元に帰って行く…この精気の循環を龍は糧にする。
「土龍はそれが酷くお気に入りで、マリーのお願いに過剰反応したんだな………」
「…古龍の一つである土龍は我がカシュクールを気に入ってくれているのか?」
「そうみたいだね?僕だってこの国は居心地良いんだよ。ここにいてもいいって思うくらいにさ…」
あの様な素朴な農夫達の心にも大地や自然に感謝する心を物心つく前から持っている。精霊とのコンタクトの始まりは、まずそこにいる者を認めて心を注ぐ事だ。
「なるほど……条件は満たされているわけか……」
「そうなるね?」
朝焼がはっきりとした日差しに変わる。馬車の中に射す日の光を浴びたリレランの瞳や肌や髪の色は変わらないのに、どうしてかレギル王子にはいつもよりも輝きが増している様にしか見えない。
「ラン……」
そっと、腕の中にレギル王子はリレランを引き寄せた。
「ん?」
「わたしが思っている事は…自己満足ではないだろうか?」
「何が?精霊と交流できる者を育てる事?」
「そう……」
人間だけが良かれと思っていても絆されて行く者にとっては傍迷惑な行為であったら……
「…レギルって実は小心者…?」
命をかけて僕を追いかけて来たのに?
水晶の様なリレランの瞳が見開かれる。驚きに目を丸くしている。
「シェルツェインは一度でも、君の呼び掛けに面倒だと言った事ある?」
「それは、私が精霊の愛子であったから、だとも思っていたのだが……」
カシュクールの国王夫妻である両親とはこんな話をした事がなかった。だから、精霊の愛子としての自分と一人間である両親の間で精霊との関係が違うものかどうかも分からない。シェルツェインの現契約者である父の事をシェルツェインがどう思っているのかさえも……
「精霊はあまり我慢しないかな……」
う~~ん…と言いながら、リレランはレギル王子にスルリと絡みついてくる。
「ラン……」
「嫌だと思ったら僕と同じ様にここに留まる理由なんてないだろ?人間と絆される事を嫌っている訳じゃないんだ。それより……」
多分、昔の様に……
「僕達、龍が感じる人間からの精気はね、精霊にもちゃんと届いているんだ。レギルがシェルツェインを大切に思っているのはシェルツェインにも届いている。これを、嬉しく思わない者はいないだろ?」
外を見つめていた水晶の瞳は今はしっかりとレギル王子の視線を捉えていて…レギル王子もその瞳から目を逸らせないでいる。線の細い暖かいリレランの腰にレギル王子はしっかりと腕を回して抱き寄せる。
「精霊も、待っていてくれていると?そう思っても……?」
「僕には、そうとしか見えていないけどね…」
リレランの美しい顔が、花が綻ぶ様にふぁっと笑顔になる。花に蝶が寄せられる様にレギル王子もリレランに吸い寄せられて…
ゆっくりと、深く唇が重なっていった……
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる