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61 人々の心
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朝日の昇らぬ内から身支度を始めるレギル王子一行。騎士達ならば夜勤もある為に問題もなかった。無理をさせてしまったのは領主館の使用人達だろうか?それでも不満の声も上げずに皇太子廃嫡が決定しているレギル王子によく仕えてくれたと思う。良くよく礼を言い、ゆっくりと農村を回りつつ次なる領地へとレギル王子一行は出立した。
うっすらと朝焼けする畑地の中にもう既に人影が見える。今は何の種蒔だろうか?整えられた畝の上に農夫は丁寧に種を落として行く。農夫を追う様に種にそっと優しく土をかけながら女が続く。若者は水桶を持って種が撒かれた土の上から、水をこれまた丁寧に撒いて行く。農村であればどこでても見かけることのできる何気ない風景。都会にいる者ならば物珍しさも手伝って朝焼けに映し出された一枚の絵の様にも見えるのかもしれないが、敢えて見てみろ、と言われなければならない様な変わったものは何処にもないのだ。
「……?」
しばらくそんな風景を何処の畑地でも見受ける事がで来た。が、リレランは何を?
「レギル、精霊と交流をする時にはどうすれば良いと思う?」
既に顔見知り?の精霊は何体かいるレギル王子に向かってリレランは質問した。
「…精霊の存在を感じ取り心を寄せる事…か?」
存在自体否定してる者に目に見えない物を見る事はまず出来ないだろう。
「そう…だから、見てごらんよ?」
リレランは指差す。その方向には小さな子供を連れた農夫一家だ。何やら畑地で作業中で、父親が畑地を耕している。その後に小さな子供が地をならしているのだが、そんなに小さい子供では鍬も鋤も持てないのに、その幼子は両親の真似をしてか、いい子いい子をする様に大地を撫で、あやす様にポンポンと叩いていた。
「あれが、何か?」
子供特有の土遊びだと言われてしまえばそうとしか見えず………
「あの子はね"元気に育ちます様に、沢山実ります様に、守ってあげてください。いつもありがとう"っていう祈りを込めているんだ。」
精霊が祝福を与えて育てた物を人間は受け取る。そして、人間からの感謝や親しみは自然に、精霊の元に帰って行く…この精気の循環を龍は糧にする。
「土龍はそれが酷くお気に入りで、マリーのお願いに過剰反応したんだな………」
「…古龍の一つである土龍は我がカシュクールを気に入ってくれているのか?」
「そうみたいだね?僕だってこの国は居心地良いんだよ。ここにいてもいいって思うくらいにさ…」
あの様な素朴な農夫達の心にも大地や自然に感謝する心を物心つく前から持っている。精霊とのコンタクトの始まりは、まずそこにいる者を認めて心を注ぐ事だ。
「なるほど……条件は満たされているわけか……」
「そうなるね?」
朝焼がはっきりとした日差しに変わる。馬車の中に射す日の光を浴びたリレランの瞳や肌や髪の色は変わらないのに、どうしてかレギル王子にはいつもよりも輝きが増している様にしか見えない。
「ラン……」
そっと、腕の中にレギル王子はリレランを引き寄せた。
「ん?」
「わたしが思っている事は…自己満足ではないだろうか?」
「何が?精霊と交流できる者を育てる事?」
「そう……」
人間だけが良かれと思っていても絆されて行く者にとっては傍迷惑な行為であったら……
「…レギルって実は小心者…?」
命をかけて僕を追いかけて来たのに?
水晶の様なリレランの瞳が見開かれる。驚きに目を丸くしている。
「シェルツェインは一度でも、君の呼び掛けに面倒だと言った事ある?」
「それは、私が精霊の愛子であったから、だとも思っていたのだが……」
カシュクールの国王夫妻である両親とはこんな話をした事がなかった。だから、精霊の愛子としての自分と一人間である両親の間で精霊との関係が違うものかどうかも分からない。シェルツェインの現契約者である父の事をシェルツェインがどう思っているのかさえも……
「精霊はあまり我慢しないかな……」
う~~ん…と言いながら、リレランはレギル王子にスルリと絡みついてくる。
「ラン……」
「嫌だと思ったら僕と同じ様にここに留まる理由なんてないだろ?人間と絆される事を嫌っている訳じゃないんだ。それより……」
多分、昔の様に……
「僕達、龍が感じる人間からの精気はね、精霊にもちゃんと届いているんだ。レギルがシェルツェインを大切に思っているのはシェルツェインにも届いている。これを、嬉しく思わない者はいないだろ?」
外を見つめていた水晶の瞳は今はしっかりとレギル王子の視線を捉えていて…レギル王子もその瞳から目を逸らせないでいる。線の細い暖かいリレランの腰にレギル王子はしっかりと腕を回して抱き寄せる。
「精霊も、待っていてくれていると?そう思っても……?」
「僕には、そうとしか見えていないけどね…」
リレランの美しい顔が、花が綻ぶ様にふぁっと笑顔になる。花に蝶が寄せられる様にレギル王子もリレランに吸い寄せられて…
ゆっくりと、深く唇が重なっていった……
うっすらと朝焼けする畑地の中にもう既に人影が見える。今は何の種蒔だろうか?整えられた畝の上に農夫は丁寧に種を落として行く。農夫を追う様に種にそっと優しく土をかけながら女が続く。若者は水桶を持って種が撒かれた土の上から、水をこれまた丁寧に撒いて行く。農村であればどこでても見かけることのできる何気ない風景。都会にいる者ならば物珍しさも手伝って朝焼けに映し出された一枚の絵の様にも見えるのかもしれないが、敢えて見てみろ、と言われなければならない様な変わったものは何処にもないのだ。
「……?」
しばらくそんな風景を何処の畑地でも見受ける事がで来た。が、リレランは何を?
「レギル、精霊と交流をする時にはどうすれば良いと思う?」
既に顔見知り?の精霊は何体かいるレギル王子に向かってリレランは質問した。
「…精霊の存在を感じ取り心を寄せる事…か?」
存在自体否定してる者に目に見えない物を見る事はまず出来ないだろう。
「そう…だから、見てごらんよ?」
リレランは指差す。その方向には小さな子供を連れた農夫一家だ。何やら畑地で作業中で、父親が畑地を耕している。その後に小さな子供が地をならしているのだが、そんなに小さい子供では鍬も鋤も持てないのに、その幼子は両親の真似をしてか、いい子いい子をする様に大地を撫で、あやす様にポンポンと叩いていた。
「あれが、何か?」
子供特有の土遊びだと言われてしまえばそうとしか見えず………
「あの子はね"元気に育ちます様に、沢山実ります様に、守ってあげてください。いつもありがとう"っていう祈りを込めているんだ。」
精霊が祝福を与えて育てた物を人間は受け取る。そして、人間からの感謝や親しみは自然に、精霊の元に帰って行く…この精気の循環を龍は糧にする。
「土龍はそれが酷くお気に入りで、マリーのお願いに過剰反応したんだな………」
「…古龍の一つである土龍は我がカシュクールを気に入ってくれているのか?」
「そうみたいだね?僕だってこの国は居心地良いんだよ。ここにいてもいいって思うくらいにさ…」
あの様な素朴な農夫達の心にも大地や自然に感謝する心を物心つく前から持っている。精霊とのコンタクトの始まりは、まずそこにいる者を認めて心を注ぐ事だ。
「なるほど……条件は満たされているわけか……」
「そうなるね?」
朝焼がはっきりとした日差しに変わる。馬車の中に射す日の光を浴びたリレランの瞳や肌や髪の色は変わらないのに、どうしてかレギル王子にはいつもよりも輝きが増している様にしか見えない。
「ラン……」
そっと、腕の中にレギル王子はリレランを引き寄せた。
「ん?」
「わたしが思っている事は…自己満足ではないだろうか?」
「何が?精霊と交流できる者を育てる事?」
「そう……」
人間だけが良かれと思っていても絆されて行く者にとっては傍迷惑な行為であったら……
「…レギルって実は小心者…?」
命をかけて僕を追いかけて来たのに?
水晶の様なリレランの瞳が見開かれる。驚きに目を丸くしている。
「シェルツェインは一度でも、君の呼び掛けに面倒だと言った事ある?」
「それは、私が精霊の愛子であったから、だとも思っていたのだが……」
カシュクールの国王夫妻である両親とはこんな話をした事がなかった。だから、精霊の愛子としての自分と一人間である両親の間で精霊との関係が違うものかどうかも分からない。シェルツェインの現契約者である父の事をシェルツェインがどう思っているのかさえも……
「精霊はあまり我慢しないかな……」
う~~ん…と言いながら、リレランはレギル王子にスルリと絡みついてくる。
「ラン……」
「嫌だと思ったら僕と同じ様にここに留まる理由なんてないだろ?人間と絆される事を嫌っている訳じゃないんだ。それより……」
多分、昔の様に……
「僕達、龍が感じる人間からの精気はね、精霊にもちゃんと届いているんだ。レギルがシェルツェインを大切に思っているのはシェルツェインにも届いている。これを、嬉しく思わない者はいないだろ?」
外を見つめていた水晶の瞳は今はしっかりとレギル王子の視線を捉えていて…レギル王子もその瞳から目を逸らせないでいる。線の細い暖かいリレランの腰にレギル王子はしっかりと腕を回して抱き寄せる。
「精霊も、待っていてくれていると?そう思っても……?」
「僕には、そうとしか見えていないけどね…」
リレランの美しい顔が、花が綻ぶ様にふぁっと笑顔になる。花に蝶が寄せられる様にレギル王子もリレランに吸い寄せられて…
ゆっくりと、深く唇が重なっていった……
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