[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

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53 タリムの訪問 2

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「ラン!その方はわたしのお客人だろう?」

 自分よりもかなり先に行っていただろうリレランに追いつく形でレギル王子が部屋へ入ってきた。

 この声、間違えはない…!

 タリムは部屋へ入ってきたレギル王子に向かって深く礼を取った後にスッと顔をあげる。そこには虹色の瞳を持ったアーランの町であったあの時の青年だ。あの時の様に緊迫した声と表情では無く今の彼は穏やかなものだった。

「其方が私に謁見の者か?」

「は!覚えておられるでしょうか?」 

「レギル、あの時の良い人間だよ?」

 良い人間と、目の前の麗しい少年から言われてしまってなんと答えて良いものやら。騎士を目指す上で、自分を律し他者の見本となるべく研磨してきたつもりはあるが、決して自分は良い人間と言われる様な者じゃ無いのに……タジタジとしてしまいそうになる所だが、グッと腹に力を入れて目的を遂行する為にタリムはレギル王子に目線を移す。  

「……アーランで、か?」

 確証がない様なレギル王子の声。あの混乱の中だ。騎士も入り乱れて、誰が誰だかわからない様な混乱ぶりだった。騎士は皆一様に同じ制服とマント姿。集中しなければならない所は人では無くて猛獣の方で……はっきり言ってレギル王子はタリムの顔を覚えていたわけではない。タリムが着ていた制服に覚えがあったのと、リレランが今までに良い人間と言ったのはあの騎士一人についてだけだったからだ。

「そうです。その節は民の為に奔走してくださり誠にありがとうございました。」

「わざわざそのために?」

「いえ、それだけではありません。」

 騎士タリムが一通の書状を出して来た。
厳重に封がしてあり、ソラリス王の捺印済み。

「我が王からの書状にございます。」

「確認しても?」

「はい。」

 書状は確かにソラリス国王署名入りのもので、あの後アーランで起こった事件の顛末について書かれており、レギル王子の尽力に感謝すると共に、レギル王子を売買しようとした人物の特定と捕縛の完了。謝罪を如何すれば良いか、と書かれていた。

「我が王からはレギル王子へ直接お渡しする様にと仰せつかってまいりました故、カシュクール国国王陛下には失礼を働きました。」

「ふ~ん…あの人達解放されたか……」

 レギル王子の横からヒョイと覗き込んであの少年が王の手紙を読んでいる……!?その様子を見て目を見開かんばかりに驚いているのがタリムだ…

 国王の…この国の王ではないにしても一国の王の手紙をそう軽々しく…!?

「あぁ、タリム殿………その、何と言いますか、彼はですね…カシュクール王も一目置いている方でして……」

 騎士タリムの様子に気が付いた宰相フラトがリレランについて説明を始める。

「カシュクール王陛下が一目を置かれる…?」

「えぇ、は公には出来ないのですが…我が国にとっても大切なお方です。」

 それはもちろん、レギル王子にとってもである。

「成る程…精霊が守護する国と名高きカシュクールならでは…その方も精霊縁の方なのでしょう……非礼をお許しください…」

 騎士タリムは非礼にあたる事をしていないのだが、不躾にもジロジロと見詰めていた事に対しての謝罪らしい…

「いいよ、気にしてない…それよりレギル、王が謝罪したいって…人攫いを八つ裂きにでもしてもらうの?」 

「……ラン…私はそんな事は望んではいないが……ここで私が出たら遅かれ早かれ全員そうなるだろうな……」

 レギル王子がさらわれた事を公にしで王の謝罪を受け入れるならば、ソラリス国の責任が浮き彫りにされる。そうなれば関わった者はほぼ全て命はない事になるだろう。罪を隠し後に叩かれるより、自ら罪を認め犯罪者達を切り捨てた方がソラリス国にとっては都合がいいはずだ。

「タリムと言ったか?」

「はい。」

「私はソラリス国に行かなかった……そしてアーランにも……これが私の答えだとソラリス国王にお伝え願おう。」

 レギル王子はそのまま書状を綺麗に畳むと騎士タリムにそっと返し、話は終わりだとばかりにリレランと共に部屋から出て行った。

「では……タリム殿。レギル王子の意思はお分かりになりましたね?」

 呆然と返された書状を持ちながら、騎士タリムは宰相フラトをただ見つめていた…

「我が国に対する謝罪は必要ないという事です。後はソラリス国王の御采配で事後処理をなされます様にお伝え下さいませ。」

 怒り狂ったカシュクール国の重鎮に投獄される事も覚悟でここまで来たのだが、お咎めがないばかりか、全てをこちらへ任せられるとは……この機に乗じてカシュクール国に都合の良い条約を取り付ける事も出来たであろうにそれをも求めないとは……半ば驚きを通り越して、呆れ返ってしまった騎士タリムであった。
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