[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

文字の大きさ
上 下
46 / 72

46 レギル王子の婚約者

しおりを挟む
"レギル、人間の王に挨拶しなくていいの?"

 帰って来たとは言え、そのまま風の塔に登って来たレギル王子は勿論王に謁見してはいない。これには少しレギル王子が驚いた。リレランは人間の治権にも興味なさそうだし、レギル本人とだって親睦を深めようとはして来なかったのに…カシュクールに帰ろうと言ってみたり、王に会おうとするなんて…

"ラン…何に君は気を使っているんだ?君らしくない気もするんだが…"

 それでもレギル王子は嬉しさを隠さずにリレランに近付く。

「行こう…レギル。」

 あ、という間にリレランは人型になっているし、服も着ている……

「ラン、服まで?」

「人間の王の前に出るにはこれで良い?」

 リレランは瘴気の森では裸で十分という態度であったのに今はちゃんと人前に出ても遜色ない服装を身に纏っている。人になっているリレランは本当に綺麗だ…今は結う物が無かったのか流されるままになっている真珠色の髪をレギル王子がそっと撫でる様にして整えて行く。

「あぁ、これで良いだろう。瞳はそのままでいいのか?」

 今も水晶の様にどこまでも透き通るリレランの瞳…何となく、城の者達にであっても見せたくはない…

「これでいい。行こうレギル。」

「え?行くとは?父の所に?帰国も、謁見の申し出もしてはいないぞ?」

「大丈夫。シェルツェインが伝えているよ。」

「なるほど。了解した。父上に紹介したらどれだけ驚かれるか…」

 レギル王子の瞳は期待に輝いていた。

「さぁ、シェルツェインが上手く話しているんじゃないのかな?」







「これは、何という珍客か…今日という日は我が国の歴史に残るであろう…」

 レギル王子とリレランが謁見の間に入っていけば、既にそこにはカシュクール国王、王妃、叔父にあたるオレイン公に宰相、カリスを始めとする大臣数名が控えている。蝶の谷に共に出向いた魔術士マラールに騎士ヨシットまでが揃っていた。

 レギル王子とリレランが王の前に進み出る。すると王は王座を降りてリレランの前で丁寧に礼を取った。王妃、オレイン公、謁見の間に集まった人々は王のそれに倣い、皆丁寧に頭を下げたのだった。

 シェルツェインが包み隠さず王に伝えた事がよく分かる………

「私はカシュクール国国王ギルダイン・カシュクールと申します。」

「カシュクールの王。僕には人間の作法は分からない。」

 リレランは王の名乗りを手を挙げて制した。レギル王子の時もそうであったが、人間の名前には興味が無いらしい。

「十分に存じております。…レギル、良く帰った……」

「父上………御健勝で何よりです。」

 レギルに向けられた王の瞳は一瞬優しさに緩む。

「一つ人間の王に言いたい事がある。」

 リレランの外見は少年と言っても過言では無い程まだ成人の男性より線が細い。そして美しすぎる美貌に人目を惹かずにはいられない瞳の色と髪の色……一国の王の前だというのに緊張しないばかりかリレランにはどこか面倒臭そうな雰囲気さえある。人間の姿で有るのに存在が人間離れしている。そんなリレランを見ていると人の中に居るリレランが龍で有る事を実感させられるレギル王子だった。

「はい、何なりと……」

「ここにいるレギルが僕に対価を払いたいと煩いんだ。人間の王、僕の望みはレギルが人としての一生を全うする事だ。これに伴侶はいないのか?」

「は?レギルに伴侶ですか?」

「そうだ。心を預けるものでも居ればここに残りたくもなるだろ?」

「…………」

 レギル王子はジッとリレランを見つつもまだ黙している。

 確かに、天変地異が過ぎれば、国の地固めのために世継ぎ問題が浮上する。疫病などの影響で妃選びも難航していたのも事実。あのままレギル王子が国へ残っていれば今頃側近達は妃候補者を城へ召し上げる事位していたかもしれない。実は既に何名かの候補者は国内、国外に問わずリストアップされてもいた。

 リレランの突然の申し出にもレギル王子は動じなかった。この為にここに来ようとしたのかとスッキリと納得さえしていた。

「そうですね、確かに妃の問題はありますので、候補者は何名かおりますが……」

「じゃあ人間の王、レギルが好きそうなのを見繕ってあげてよ。」

 少年の姿のリレランに妻となる女を見繕ってあげてと言われるレギル王子が少々哀れに見えて来ても、王は表情一つ変えずにリレランの言葉を聞き入れるしか無いだろう。

「無理でしょうね…」

 今まで黙していたレギル王子が発言する。

「なんで?」

「ラン、それは対する対価ではないだろう?悪魔でも私に取って良い道というべきものだ…違うか?」

 ザワッ………未だに龍リレランの名前を知るものが王城にはいない中、レギル王子は敢えて、リレランの名前を呼ぶ。

「父上に申し上げます!此度のカシュクールが危機から脱したのは紛れも無くランの働きの故です。しかし、我が国はその対価を支払ってはおりません。ランが言う望みとは私の事についてでありラン自身が望んだものではありません!」

「…だから、なんでそれがダメなの?レギル…」

「ラン……君は人知を超えた力で精霊に干渉したのだろう?ならば、その歪みが必ず何処かで出てくる。我らの後の時代の者達にそんな遺産は残していけない。」
 
 凛と響き渡るレギル王子の声に、未だにリレランの前に首を垂れている王妃を始め宮廷魔術士マラールは清々しい笑みを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)

ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。 僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。 隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。 僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。 でも、実はこれには訳がある。 知らないのは、アイルだけ………。 さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

兄のやり方には思うところがある!

野犬 猫兄
BL
完結しました。お読みくださりありがとうございます! 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 第10回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、そしてお読みくださった皆様、どうもありがとうございました!m(__)m ■■■ 特訓と称して理不尽な行いをする兄に翻弄されながらも兄と向き合い仲良くなっていく話。 無関心ロボからの執着溺愛兄×無自覚人たらしな弟 コメディーです。

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

処理中です...