34 / 72
34 再び
しおりを挟む
"風を呼び、我が目を開け"
致し方なし!レギル王子は精霊魔法を使う。上空から一陣の風が吹き降りて来て天幕前の広場一帯の砂埃を一度に吹き飛ばした。
「きゃああああ!」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
その風に吹き飛ばされまいと建物や支柱に掴まる人々に、倒れ踞る人々、泣いている子供に、離れてしまった子どもを探す母親の悲鳴の様な声……その人々の中にボツ、ボツと黒や茶色、黄色の影が動き回るのが見える。
あれか………いざとなれば、馬も彼らの餌食となる。標的にされる前に逃さなければならない。レギル王子は腰の剣を抜き近場の猛獣に狙いを定めた。
「猛獣使いはどこだ!?」
「無理ですぜ!旦那!この混乱の中で誰がどこにいるかなんてわかんねぇよ!!」
「ちっ!仕方がない!一頭一頭仕留める!出来る事なら、猛獣を宥めてくれ!」
駄目ならば全て殺すしかなくなる…これだけの騒ぎだ国境警備隊も町の自警団ももう気がついている事だろう…被害が出ないうちに全てを終わらさなければ…
「森に、逃げるな!!建物の中に入り、鍵を閉めよ!!」
レギル王子は人々をかき分けながら、森ではなく建物の中へ籠れと声をかけつつ進みゆく。
出来れば、殺したくはない…!
注意深く猛獣から目を離さずに近づけば、彼らは右往左往しているが人間を襲ってはいない…そればかりか、これだけの人々に恐れをなして自ら逃げる所を探している様にも見える。けれどもいつ、その凶暴な本能で人々を襲うかもしれない。人々の興奮に当てられて野生の本能剥き出しに襲いかかってきても不思議ではない状態だ。
猛獣と目が合う…
ここまでだ…!レギル王子は馬を降り、思い切りその尻を打つ!
ヒヒィィィン!と一鳴きし、猛獣とは反対の方へと馬は走っていく。視界の端でそれを確認してから剣の柄を握り直し、猛獣へと向かって歩みだす。
一太刀で勝負を決めなければ、こちらが取られる……呼吸を整えているレギル王子からはきっと殺気が漏れ出していたに違いない。
"待って、殺さないで…"
ビクッとレギル王子の肩が大きく揺れた…
この場で精霊語で語りかけて来る者がいるとは思わず……
"精霊?何処に?殺すなとは、どうしてだ?"
"彼らは、帰る所が分からなくなってるだけなんだよ。人を傷つけない様に命じてあるから…"
命じて、る…?この、声は…?
なんで、気がつかなかった?この声に覚えがあるじゃないか!!
"リレラン!!ラン!!どこにいるんだ?"
まさか、と思った。町中に龍が?そんな事が起こったら大混乱がおきる。
"ラン!どこにいるんだ!返事をしてくれ"
「きゃぁぁぁぁ!」
天幕から逃げて来たであろうと思われる女性がすぐ近くにいる猛獣に驚き、叫びを上げた。
「ガァアアアアアア!」
猛獣もそれに答え、威嚇の声を上げる!
「いやぁぁあ!」
「うわあぁぁぁぁぁあ!」
自制を無くした人々が一瞬にして統率も無く動きを速めたものだからレギル王子は思うように進めない…!
「建物の中に入れ!!建物だ!森へ行くな!!」
レギル王子は人々をかき分けてやっと猛獣の前に立った。
"ラン!どこにいる?猛獣がここから動かないならば、打たなければならなくなる!"
猛獣から視線を外さず、人々を誘導し、尚且つリレランを呼ぶレギル王子。直ぐにでもリレランの姿を確認したくて堪らないのに、姿がない……レギル王子は子供が親を呼ぶ様にリレランを呼び続けた。
"ラン!!どこだ!ラン!!"
森へ行こうとする猛獣も森には人々が多くて躊躇しており、ウロウロとしながら猛獣達は所在投げに集まり出した…
"ラン!!リレラン…頼む!!"
お前に、会いたい…!!
ピィィィィィィィーーーーーーー
警備隊の警笛だ!これだけの騒ぎになったのだから猛獣達は殺処分されてもおかしくはない…
「人間達を森から出して?猛獣達を森へ帰すから…」
とん………と軽く肩を叩かれた…フワリと軽くレギル王子の横を通り過ぎていくフードを被った1人の少年らしき体格の人物が目に映る。
「待て!1人では!」
何ができると言うんだ!!手練れの大人でもこれだけの猛獣を相手には何人も人をかき集めてこなければならないだろうに!
「死にに行く様なものだぞ!!」
レギル王子は叫びながら猛獣に向かっていく少年を追う…
「大丈夫…僕が話してくるから、人間達の方は、人間の王子がして?」
「何を…?する気だ……?」
いや、まさか……フードを被っているのはどう見ても人間の少年の域を出ていなさそうな細身の子供だ。顔の表情等は全てフードの中で確認が取れない…
けれど……そんな………
その人物はレギル王子が王子である事を知っている…!?今回は非公式のために周辺国には通達されていないはず……
「止まれ!!それぞれそこを動くな!!」
「は?」
警笛を鳴らしながら近付いてくる騎士達は物凄く無謀な事を言った… まだ逃げ惑い混乱している人々がいると言うのに動くなとは!
「早く、人間の事は人間がするのが良いだろう?僕は、あの子達に家に帰る様に誘導するから。人間が森にいると、彼らが入れないんだよ…だから人間を森から出して?できるだろう?人間の王子?」
手を、伸ばせばそこに…レギル王子の求めていたリレランが……?まさか、君が…?
「……ラン……!?」
実際に伸ばした手は、スルリと交わされてしまって……
「人間の王子、僕が頼んだ事、できる?」
人間の言葉を話してそこにいるリレランに物凄い奇跡を見ている様な気さえするレギル王子は、リレランに対価を払いにここまで来たんだ。
それを考えたならば、否、など言えるはずがなかった……
致し方なし!レギル王子は精霊魔法を使う。上空から一陣の風が吹き降りて来て天幕前の広場一帯の砂埃を一度に吹き飛ばした。
「きゃああああ!」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
その風に吹き飛ばされまいと建物や支柱に掴まる人々に、倒れ踞る人々、泣いている子供に、離れてしまった子どもを探す母親の悲鳴の様な声……その人々の中にボツ、ボツと黒や茶色、黄色の影が動き回るのが見える。
あれか………いざとなれば、馬も彼らの餌食となる。標的にされる前に逃さなければならない。レギル王子は腰の剣を抜き近場の猛獣に狙いを定めた。
「猛獣使いはどこだ!?」
「無理ですぜ!旦那!この混乱の中で誰がどこにいるかなんてわかんねぇよ!!」
「ちっ!仕方がない!一頭一頭仕留める!出来る事なら、猛獣を宥めてくれ!」
駄目ならば全て殺すしかなくなる…これだけの騒ぎだ国境警備隊も町の自警団ももう気がついている事だろう…被害が出ないうちに全てを終わらさなければ…
「森に、逃げるな!!建物の中に入り、鍵を閉めよ!!」
レギル王子は人々をかき分けながら、森ではなく建物の中へ籠れと声をかけつつ進みゆく。
出来れば、殺したくはない…!
注意深く猛獣から目を離さずに近づけば、彼らは右往左往しているが人間を襲ってはいない…そればかりか、これだけの人々に恐れをなして自ら逃げる所を探している様にも見える。けれどもいつ、その凶暴な本能で人々を襲うかもしれない。人々の興奮に当てられて野生の本能剥き出しに襲いかかってきても不思議ではない状態だ。
猛獣と目が合う…
ここまでだ…!レギル王子は馬を降り、思い切りその尻を打つ!
ヒヒィィィン!と一鳴きし、猛獣とは反対の方へと馬は走っていく。視界の端でそれを確認してから剣の柄を握り直し、猛獣へと向かって歩みだす。
一太刀で勝負を決めなければ、こちらが取られる……呼吸を整えているレギル王子からはきっと殺気が漏れ出していたに違いない。
"待って、殺さないで…"
ビクッとレギル王子の肩が大きく揺れた…
この場で精霊語で語りかけて来る者がいるとは思わず……
"精霊?何処に?殺すなとは、どうしてだ?"
"彼らは、帰る所が分からなくなってるだけなんだよ。人を傷つけない様に命じてあるから…"
命じて、る…?この、声は…?
なんで、気がつかなかった?この声に覚えがあるじゃないか!!
"リレラン!!ラン!!どこにいるんだ?"
まさか、と思った。町中に龍が?そんな事が起こったら大混乱がおきる。
"ラン!どこにいるんだ!返事をしてくれ"
「きゃぁぁぁぁ!」
天幕から逃げて来たであろうと思われる女性がすぐ近くにいる猛獣に驚き、叫びを上げた。
「ガァアアアアアア!」
猛獣もそれに答え、威嚇の声を上げる!
「いやぁぁあ!」
「うわあぁぁぁぁぁあ!」
自制を無くした人々が一瞬にして統率も無く動きを速めたものだからレギル王子は思うように進めない…!
「建物の中に入れ!!建物だ!森へ行くな!!」
レギル王子は人々をかき分けてやっと猛獣の前に立った。
"ラン!どこにいる?猛獣がここから動かないならば、打たなければならなくなる!"
猛獣から視線を外さず、人々を誘導し、尚且つリレランを呼ぶレギル王子。直ぐにでもリレランの姿を確認したくて堪らないのに、姿がない……レギル王子は子供が親を呼ぶ様にリレランを呼び続けた。
"ラン!!どこだ!ラン!!"
森へ行こうとする猛獣も森には人々が多くて躊躇しており、ウロウロとしながら猛獣達は所在投げに集まり出した…
"ラン!!リレラン…頼む!!"
お前に、会いたい…!!
ピィィィィィィィーーーーーーー
警備隊の警笛だ!これだけの騒ぎになったのだから猛獣達は殺処分されてもおかしくはない…
「人間達を森から出して?猛獣達を森へ帰すから…」
とん………と軽く肩を叩かれた…フワリと軽くレギル王子の横を通り過ぎていくフードを被った1人の少年らしき体格の人物が目に映る。
「待て!1人では!」
何ができると言うんだ!!手練れの大人でもこれだけの猛獣を相手には何人も人をかき集めてこなければならないだろうに!
「死にに行く様なものだぞ!!」
レギル王子は叫びながら猛獣に向かっていく少年を追う…
「大丈夫…僕が話してくるから、人間達の方は、人間の王子がして?」
「何を…?する気だ……?」
いや、まさか……フードを被っているのはどう見ても人間の少年の域を出ていなさそうな細身の子供だ。顔の表情等は全てフードの中で確認が取れない…
けれど……そんな………
その人物はレギル王子が王子である事を知っている…!?今回は非公式のために周辺国には通達されていないはず……
「止まれ!!それぞれそこを動くな!!」
「は?」
警笛を鳴らしながら近付いてくる騎士達は物凄く無謀な事を言った… まだ逃げ惑い混乱している人々がいると言うのに動くなとは!
「早く、人間の事は人間がするのが良いだろう?僕は、あの子達に家に帰る様に誘導するから。人間が森にいると、彼らが入れないんだよ…だから人間を森から出して?できるだろう?人間の王子?」
手を、伸ばせばそこに…レギル王子の求めていたリレランが……?まさか、君が…?
「……ラン……!?」
実際に伸ばした手は、スルリと交わされてしまって……
「人間の王子、僕が頼んだ事、できる?」
人間の言葉を話してそこにいるリレランに物凄い奇跡を見ている様な気さえするレギル王子は、リレランに対価を払いにここまで来たんだ。
それを考えたならば、否、など言えるはずがなかった……
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
兄のやり方には思うところがある!
野犬 猫兄
BL
完結しました。お読みくださりありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
第10回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、そしてお読みくださった皆様、どうもありがとうございました!m(__)m
■■■
特訓と称して理不尽な行いをする兄に翻弄されながらも兄と向き合い仲良くなっていく話。
無関心ロボからの執着溺愛兄×無自覚人たらしな弟
コメディーです。
【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心
たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
BL
【美形の王×異種族の青年の、主従・寿命差・執着愛】ハーディス王国の王ナギリは、両性を持ち、魔性の銀の瞳と中性的な美貌で人々を魅了し、大勢の側室を囲っている王であった。
幼い頃、家臣から謀反を起こされ命の危機にさらされた時、救ってくれた「千年族」。その名も”青銅の蝋燭立て”という名の黒髪の男に十年ぶりに再会する。
人間の十分の一の速さでゆっくりと心臓が鼓動するため、十倍長生きをする千年族。感情表現はほとんどなく、動きや言葉が緩慢で、不思議な雰囲気を纏っている。
彼から剣を学び、傍にいるうちに、幼いナギリは次第に彼に惹かれていき、城が再建し自分が王になった時に傍にいてくれと頼む。
しかし、それを断り青銅の蝋燭立ては去って行ってしまった。
命の恩人である彼と久々に過ごし、生まれて初めて心からの恋をするが―――。
一世一代の告白にも、王の想いには応えられないと、去っていってしまう青銅の蝋燭立て。
拒絶された悲しさに打ちひしがれるが、愛しの彼の本心を知った時、王の取る行動とは……。
王国を守り、子孫を残さねばならない王としての使命と、種族の違う彼への恋心に揺れる、両性具有の魔性の王×ミステリアスな異種族の青年のせつない恋愛ファンタジー。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる