[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

文字の大きさ
上 下
33 / 72

33 混乱

しおりを挟む
 突如として、幕の裏から悲鳴が上がった。
金切り声を上げて幕をめくり上げてどう見てもサーカス団の一員と思しき者達が次々と出て来る。観客はそれも何かの余興一つと捉えてしばらく何が起こるのかワクワクして見守っていた。

「ベレッサ、セラ早めにここを出た方がいいよ。」

 幕間から出て来るのは、なんとも珍妙な団員で、例えばどう見ても着替え途中だとか、中には何か飲んでいたのかコップまで手にしながら慌てふためいて舞台上でも右往左往していた。そんな彼らを見ながらリレランはスッと立ち上がり、ヒョイッとセラとベレッサの腕を掴むと軽々と2人を立たせてしまう。

「え、なあに?リラ?まだ公演の途中なんでしょう?」

 不思議に見つめて来るセラの視界の端に、ゴゥッと唸りを上げて幕間から現れた猛獣と一目散に逃げ出している団員の姿が写った……

「何か、様子が変ね?」

 ベレッサにとっては初めてでは無いサーカス公演、余興にしてはおかしい…なぜか、誰も出てきた猛獣を相手に制御しようとする人がいなかったから………
 
 それに気がついた人々の悲鳴で、一気に会場が騒然としだす…!






------------------




 レギル王子は内心、物凄く焦っていた。南の町カタンナから休まず疾走してきても、龍の姿どころか噂もない…それに加えてカタンナから離れてしばらくは森の道を走ったが、宿屋で会ったデイルのしつこい事にも辟易とする。森の途中馬を休ませる為に水辺に寄れば、後から追いついてきたデイルも追いつく。どうか次の町で仕事をしている所に寄って欲しいのだそうだ。物珍しい商売をしているとかで、レギル王子を満足させる自信があるからと。途中まで丁寧に断りを入れていたレギル王子も途中からは相手にもしないで走り出していた。

 虹色の帯は町へと続く…が、ここで問題なのが、道はそこまでだと言う事。蝶の谷の時もそうであったが、目的地に着いたならそこからは自分の目で探さなくてはならなくなる。今回は蝶の精霊達は居ない…勿論手助けしてくれたモールも。姿形も、噂もないのなら、龍は何処かと町民に尋ねたとしてもレギル王子が変な目で見られるだけだろう。それだけ龍などとは御伽噺の中の存在だからだ。

"どこにいる?"

 何度も精霊語で話しかける。精霊魔法を試したいが、ここでは人が多いし門も開けないだろう。幸いこの町にいる事は確かならば虱潰しに探すか…龍の体躯を隠せる森やら山やらに行くか…迷うところだ…

 取り敢えず、一旦町に入って動く拠点を確保しようとそのまま森を切り抜ける。と、一気に景色が騒然とし出した。街の方からは大勢の人々が、馬やら、ロバやら、牛やらを連れて急いで森に向かって移動してくる。中には素足のままで走り出して…

 町で…何かあった?森の方に来るものもいれば森に入らず道なき道を行こうとするものもいる。

「何があったのだ!!」

 レギル王子は大声で道ゆく人々に呼びかける。

「猛獣だ!!!」

「猛獣が逃げたぞーーー!食われちまう!!」

 逃げ惑う人々は口々に猛獣と叫んでは逃げ惑う。

「猛獣だと?」

 どこだ?森ではない町中で?そんな事があるものなのか?レギル王子は視線を周囲に走らせるが未だに猛獣らしき物を捕らえる事ができないでいる。

「旦那!!どうしたんですかい?これは!?」

 後から追いついたであろうデイルとその仲間も慌てふためいて周囲を見渡すばかりだ。

「なんてこった…こんな事今まで無かったぞ…!」

「町民は猛獣が逃げたと言っているが、ここには猛獣使いがいるのか?」

「うぇ!猛獣!?ってまさか!!うちの職場じゃねぇだろうな?」

「職場とは?そもそも何なんだ!?」

 逃げ惑う人々を避け上手く馬を繰りながら町の方へと歩を進めていく。

「サーカスでさぁ!知ってますかい?猛獣共が芸を見せるんですよ!!」

「サーカス!?」

 話には聞いた事がある。その様な芸当がある事は…しかし、カシュクール国は貧しさに喘いでいた折、遊興ごとに贅を尽くす事もできず、見たこともない国民が殆どだと思う。

「この町にその曲芸師達が居るのか?」

「へい!この時期はこの町で興業をしてますんで!!」

「そこに案内しろ!」

 猛獣が暴れているとなれば一般人には太刀打ちできないだろう。ここは、騎士の心得ある者か、冒険者の如く腕に自信のある者しかそれらを狩ることは難しい。

「へい!こっちです!!」

 レギル王子は速やかにデイルの後を追う。ここの町民は明らかに無防備すぎる。ここまで来ていない猛獣達が凄惨な結果を引き起こしていない事を祈りつつ、出来る限り馬を飛ばす!

 リレラン!この騒ぎに出て来てはくれないだろうか?猛獣を鎮める為にも龍は有効だとレギル王子は考えていた。何故なら龍が全ての生物の頂点なのだから!

 馬が疾走していく先には、彩り鮮やかな大きな天幕が見えている。

「旦那!!あれがサーカスの拠点です!!」

 近づけば近づく程、周囲には砂埃が立ち込め、騒然としている。時折低い唸り声と、人々の悲鳴…砂埃で視界が遮られ猛獣の種類も位置も頭数も確認ができない。最早ただの恐慌状態となり人々はパニックの渦の中で蠢くばかりだった…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

兄のやり方には思うところがある!

野犬 猫兄
BL
完結しました。お読みくださりありがとうございます! 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 第10回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、そしてお読みくださった皆様、どうもありがとうございました!m(__)m ■■■ 特訓と称して理不尽な行いをする兄に翻弄されながらも兄と向き合い仲良くなっていく話。 無関心ロボからの執着溺愛兄×無自覚人たらしな弟 コメディーです。

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...