32 / 72
32 サーカス
しおりを挟む
「大きいな……」
人間の町に来て多分これより大きな建物?幕屋?をリレランはまだ見たことが無い。数日前までは、ここは大きな草原で子供達が自由自在に遊んでいた所をチラッと見た様な気がする。が、ベレッサとサラに今日連れられて来てみればその草原には色々な色で染められた布が何本ものカラフルな支柱に付けられてはためいており、その支柱が囲む様にして中央にこれまたカラフルなそれは大きな天幕が張られていた。
「凄い…人…」
リレランは一度にこんなに大勢の人が集まる所を見た事はない。龍はどこにも居ないのに、人間の繁殖力はもの凄いものだと感心させられる。
「リラ!こっちよ!離れないでね?」
足を止めて周りを見渡していたリレランの元にセラが走り寄って来た。
「こんなに混むなんて思わなかったわ。迷子にならない様に、リラ、手を繋ごう?」
小さな暖かい手でセラはリレランの手を引いて行く。今日のリレランは頭からスッポリとフード付きのマントを着て、珍しい瞳と髪の色を隠している。そうする意味がリレランにはまだよく分からないのだが、どうしてもとベレッサとサラに頼まれてしまっては断る理由もない。手を引かれながらリレランの目に入って来たものは、人々の笑顔…特に子供達は大はしゃぎして走り回り興奮しながら天幕の中に入って行った。外にいる子供達も手に手に彩り豊かな物を持って時々口にそれを入れては喜んでいる。フワフワと飛ぶ丸い物を持っている子供さえいる。魔法か?
「セラ、あれは何?」
「どれ?」
リレランが指差す方には、子供達が手に持っていた物を売っている店だ。子供が持っていたものが、綺麗に整列されて並べて立ててある。大勢の子供が群がってアレコレと何やら店の者に話しているのも聞き取れた。
「あ!飴!!飴だよ!リラ!」
「あめ?」
知らない言葉だ…
「それはなんだ?」
「え?リラ、飴食べたとこないの?」
「無いな…」
人間の食べ物と言うとベレッサの店で食べた物が全てになる。飴と言われてもリレランには何かわからない。
「え~~嘘でしょう?ベレッサさーん!!リラ、飴食べたことないって!」
飴は子供ならば誰でも知っているお菓子だろうに、リレランは知らないと言った。普段森の中で暮らしていたと言うからそれもしょうがないのかもしれないけど。決して裕福ではなかったセラだって何度か食べたことはあるのに……
セラは深くリレランの出身を聞いたことが無い。もしかしたらリレランはここよりもずっと遠くて、文化も何もかも違う所から来たのかもしれない。それなら仕方ないけど、でも飴を知らないなんてとても可哀想だとセラは思う。
「本当に?よし、じゃあ、買ってあげる!セラ、貴方も食べるでしょ?」
「いいんですか?わぁ!良かった、リラ、飴食べてみようね?」
リラの出身はどこでもいい。もしかしたら本当に私よりも貧しかったのかもしれない…だったら、これから一杯体験すればいいんだ!なんでも見て、笑って、食べて………少し、人から離れていこうとする、距離があるリラの事がセラは心配だったし、もっと親密に仲の良い友達としてセラはリレランと一緒にいたかったから。
「甘い……?」
「うん!甘いね?美味しいね?」
まるで、リラは小さな子供の様だとセラは思う。ならず者を有無を言わさず倒してしまう強さはあるのに、スープが熱い事も、飴が甘い事も全く知らないって言うし…空に浮かぶ風船すら見た事なかったと言っていた。
不思議なリラ…あなたは一体どこから来たの?
なんだか聞いてはいけない気がして、セラはまだ尋ねられないでいる……
「さあ!!入った!入った!!始まるよーー!!」
珍妙な服を着た人間が開始の旨を叫びながら辺りを練り歩きだす。なんだあれは?とジッと見つめているリレランをセラが引っ張りベレッサと共に天幕の中へと移動する。外にいて楽しんでいた人々も一斉に天幕の中へと移動して来る。
「何がある?」
ゆっくりと人の流れに沿ってベレッサの後をついて行く。
「これからよ、サーカスって言ったでしょう?中で見るものなの!」
ベレッサが説明してくれている間に天幕の内側をぐるっと囲む様にして作られている座席に着いた。中央に舞台があってその後ろに更に幕が張ってある。どうやらサーカスはその舞台の上で行われる様だ。
なるほど…舞台裏の幕の向こうに人間と、獣の気配がある。忙しなく動いている人間と動かない、じっとしている人間数名と動物達…か。動かない物は何かに入れられていて動くに動けないと言った所の様だ。
「人間も、見せ物になるの?」
「え?」
「芸を見せてくれるわよ?空中を飛んだり、ほら、早技なんか!」
舞台では戯けた様な人間達が何やら色々と立ち回っている。道具を使ったり、時には刃物も出てきたり…その度に周りからは拍手喝采が湧き上がる。
それはそれで良い見ものだと思う。けど、気になるのは幕の裏……動きがない物達には活気がない、生気がない?生きる気力とか?それよりも恐怖や悲しみの方が強いな……
「囚われてるのか………」
ポツリとリレランが呟いた言葉は周りの観客の声にかき消される。
"お帰り…お前達の住む場所へ…人を傷つけてはいけないよ?"
そっと風に乗せてリレランは言葉を飛ばす。歪んだ力を元に戻す為に………
人間の町に来て多分これより大きな建物?幕屋?をリレランはまだ見たことが無い。数日前までは、ここは大きな草原で子供達が自由自在に遊んでいた所をチラッと見た様な気がする。が、ベレッサとサラに今日連れられて来てみればその草原には色々な色で染められた布が何本ものカラフルな支柱に付けられてはためいており、その支柱が囲む様にして中央にこれまたカラフルなそれは大きな天幕が張られていた。
「凄い…人…」
リレランは一度にこんなに大勢の人が集まる所を見た事はない。龍はどこにも居ないのに、人間の繁殖力はもの凄いものだと感心させられる。
「リラ!こっちよ!離れないでね?」
足を止めて周りを見渡していたリレランの元にセラが走り寄って来た。
「こんなに混むなんて思わなかったわ。迷子にならない様に、リラ、手を繋ごう?」
小さな暖かい手でセラはリレランの手を引いて行く。今日のリレランは頭からスッポリとフード付きのマントを着て、珍しい瞳と髪の色を隠している。そうする意味がリレランにはまだよく分からないのだが、どうしてもとベレッサとサラに頼まれてしまっては断る理由もない。手を引かれながらリレランの目に入って来たものは、人々の笑顔…特に子供達は大はしゃぎして走り回り興奮しながら天幕の中に入って行った。外にいる子供達も手に手に彩り豊かな物を持って時々口にそれを入れては喜んでいる。フワフワと飛ぶ丸い物を持っている子供さえいる。魔法か?
「セラ、あれは何?」
「どれ?」
リレランが指差す方には、子供達が手に持っていた物を売っている店だ。子供が持っていたものが、綺麗に整列されて並べて立ててある。大勢の子供が群がってアレコレと何やら店の者に話しているのも聞き取れた。
「あ!飴!!飴だよ!リラ!」
「あめ?」
知らない言葉だ…
「それはなんだ?」
「え?リラ、飴食べたとこないの?」
「無いな…」
人間の食べ物と言うとベレッサの店で食べた物が全てになる。飴と言われてもリレランには何かわからない。
「え~~嘘でしょう?ベレッサさーん!!リラ、飴食べたことないって!」
飴は子供ならば誰でも知っているお菓子だろうに、リレランは知らないと言った。普段森の中で暮らしていたと言うからそれもしょうがないのかもしれないけど。決して裕福ではなかったセラだって何度か食べたことはあるのに……
セラは深くリレランの出身を聞いたことが無い。もしかしたらリレランはここよりもずっと遠くて、文化も何もかも違う所から来たのかもしれない。それなら仕方ないけど、でも飴を知らないなんてとても可哀想だとセラは思う。
「本当に?よし、じゃあ、買ってあげる!セラ、貴方も食べるでしょ?」
「いいんですか?わぁ!良かった、リラ、飴食べてみようね?」
リラの出身はどこでもいい。もしかしたら本当に私よりも貧しかったのかもしれない…だったら、これから一杯体験すればいいんだ!なんでも見て、笑って、食べて………少し、人から離れていこうとする、距離があるリラの事がセラは心配だったし、もっと親密に仲の良い友達としてセラはリレランと一緒にいたかったから。
「甘い……?」
「うん!甘いね?美味しいね?」
まるで、リラは小さな子供の様だとセラは思う。ならず者を有無を言わさず倒してしまう強さはあるのに、スープが熱い事も、飴が甘い事も全く知らないって言うし…空に浮かぶ風船すら見た事なかったと言っていた。
不思議なリラ…あなたは一体どこから来たの?
なんだか聞いてはいけない気がして、セラはまだ尋ねられないでいる……
「さあ!!入った!入った!!始まるよーー!!」
珍妙な服を着た人間が開始の旨を叫びながら辺りを練り歩きだす。なんだあれは?とジッと見つめているリレランをセラが引っ張りベレッサと共に天幕の中へと移動する。外にいて楽しんでいた人々も一斉に天幕の中へと移動して来る。
「何がある?」
ゆっくりと人の流れに沿ってベレッサの後をついて行く。
「これからよ、サーカスって言ったでしょう?中で見るものなの!」
ベレッサが説明してくれている間に天幕の内側をぐるっと囲む様にして作られている座席に着いた。中央に舞台があってその後ろに更に幕が張ってある。どうやらサーカスはその舞台の上で行われる様だ。
なるほど…舞台裏の幕の向こうに人間と、獣の気配がある。忙しなく動いている人間と動かない、じっとしている人間数名と動物達…か。動かない物は何かに入れられていて動くに動けないと言った所の様だ。
「人間も、見せ物になるの?」
「え?」
「芸を見せてくれるわよ?空中を飛んだり、ほら、早技なんか!」
舞台では戯けた様な人間達が何やら色々と立ち回っている。道具を使ったり、時には刃物も出てきたり…その度に周りからは拍手喝采が湧き上がる。
それはそれで良い見ものだと思う。けど、気になるのは幕の裏……動きがない物達には活気がない、生気がない?生きる気力とか?それよりも恐怖や悲しみの方が強いな……
「囚われてるのか………」
ポツリとリレランが呟いた言葉は周りの観客の声にかき消される。
"お帰り…お前達の住む場所へ…人を傷つけてはいけないよ?"
そっと風に乗せてリレランは言葉を飛ばす。歪んだ力を元に戻す為に………
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
兄のやり方には思うところがある!
野犬 猫兄
BL
完結しました。お読みくださりありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
第10回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、そしてお読みくださった皆様、どうもありがとうございました!m(__)m
■■■
特訓と称して理不尽な行いをする兄に翻弄されながらも兄と向き合い仲良くなっていく話。
無関心ロボからの執着溺愛兄×無自覚人たらしな弟
コメディーです。
【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心
たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
BL
【美形の王×異種族の青年の、主従・寿命差・執着愛】ハーディス王国の王ナギリは、両性を持ち、魔性の銀の瞳と中性的な美貌で人々を魅了し、大勢の側室を囲っている王であった。
幼い頃、家臣から謀反を起こされ命の危機にさらされた時、救ってくれた「千年族」。その名も”青銅の蝋燭立て”という名の黒髪の男に十年ぶりに再会する。
人間の十分の一の速さでゆっくりと心臓が鼓動するため、十倍長生きをする千年族。感情表現はほとんどなく、動きや言葉が緩慢で、不思議な雰囲気を纏っている。
彼から剣を学び、傍にいるうちに、幼いナギリは次第に彼に惹かれていき、城が再建し自分が王になった時に傍にいてくれと頼む。
しかし、それを断り青銅の蝋燭立ては去って行ってしまった。
命の恩人である彼と久々に過ごし、生まれて初めて心からの恋をするが―――。
一世一代の告白にも、王の想いには応えられないと、去っていってしまう青銅の蝋燭立て。
拒絶された悲しさに打ちひしがれるが、愛しの彼の本心を知った時、王の取る行動とは……。
王国を守り、子孫を残さねばならない王としての使命と、種族の違う彼への恋心に揺れる、両性具有の魔性の王×ミステリアスな異種族の青年のせつない恋愛ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる