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26 再び追って
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精霊魔法……リレランを探していた時にも使ったもの。そして、今ならシェルツェインがおまじないとして教えてきたものが、精霊魔法に当たる事もレギル王子は十分に理解していた。
"探し物を見つけて"
レギル王子ははっきりと自信を持ってそう呟いた。
パチンッと目の前で散る火花にはまだ慣れなかったがレギル王子の上空には見たことがある虹色の糸がまたもや北に向かって伸びているのが見えた。迷いの森から少しそれた方角には大国ソラリスに当たるはず…
「そこか…」
国を出ると行動に移した今朝は、何とも言えない清々しい気分だ。
「ハァッ!」
掛け声も高くレギル王子は颯爽と駆け出す。不安に慄き焦燥に駆られながら出て行ったあの日とは違う。
「リレラン、私は必ず、もう一度君に…!」
龍リレランに会う。その希望だけが不思議と胸を支配している。対価を払いに行くのだが、高鳴る胸の鼓動が抑えられないでいる。命以上の物を所望されたら支払い切れないのだが、それさえもなんだかワクワクしてレギル王子は気持ちが昂ぶる…
「へぇ…兄さん見かけない顔だね?どっからきなすった?」
カシュクールを出てから一番最初の国ガランド、ほぼ一日中走りに走りきって馬が潰れてしまう前に宿に泊まった。手持ちが少ない為、ほぼ素泊まりの状態で外で夕食をとる。そんな中では気さくに声を掛けてくる気の良い親父もチラホラ集まっていて、どっから見ても身なりの良いレギルは注目の的になってしまっていた。
「南の、カシュクールから…」
暖かい汁物の皿を片手に親父達の会話にレギル王子は引っ張り込まれていく。
「ほぉ!どうだい?今のカシュクールは?雨が降ったって言うじゃねぇか?」
「ああ、やっと東西の山の泉も潤った…」
レギル王子が食べている物は道端の露店で買った食べ物だが中々の味だ。
「そりゃ、良かったな!ところでよ?」
ずずいっとハチマキをした男が顔を近づけて小声で聞いてくる。
「兄さん。何やってる人よ?あれか?今流行りのさぁ…」
「…流行り…?」
「なぁんだ、知らないのかよ!カシュクールがあんなだっただろ?死にたくないって奴は五万といてさ?国を出る者もいただろ?」
それはそうだ。だが、大部分は住み慣れた、代々の土地を離れたくないと言ってその土地から離れた者は多くは無いとレギル王子は聞いている。
「だから、どうせ死んじまうんだったらさ、それらを有効活用しようって言う輩が出てきてもおかしく無いだろう?」
「………有効活用とは?」
「なんだ、本当に知らねぇの?アレだよ、ア、レ!」
「…なんだと言うのだ?」
「はっはっ!おい!この兄ちゃん本当に知らねぇみてぇだぞ?」
ハチマキの隣にいた色黒の男が横から口を出して来た。
「良いかい。食べられねぇと人は死ぬ。じゃあ、死なねぇ為に何をするか?子供が飢えて死ぬのを見るか、何処かに売っぱらちまうか兄ちゃんだったらどっちが良い?」
どっちが良いと聞かれても…売っぱらう…子供を人身売買すると言う事だろう。家族が食べていく為には、またその子供が食べていく為には当時は致し方なかったのかも知れない…が。
ギリッ……レギル王子が持つ皿が軋んで音が鳴る。
「そう言う奴らが国境沿いにウロウロしてんだよ。あんたみたいな小綺麗な格好してな?奴ら羽振りは良いからな身なりは綺麗だけど、中身が腐ってやがる…!!」
最後の言葉を地面に吐き捨てるように色黒の男は言い捨てた…
「あ~あ、まだ割りきれねぇのか?」
ハチマキの男はやれやれと言いたげだ。
「はん!無理に決まってるだろうが!!」
色黒の男はこの辺りの山でキコリをしているザックと言った。いきなりの激昂振りに若干呆気にとられたレギル王子だが、その理由をハチマキの男が教えてくれた。
「こいつの息子もキコリでよ?何時もの様に山で仕事をしてたんだよ。そしたら、奴らが来たのさ、子供達を数人引き連れてな?」
どうにも様子がおかしいと思った息子は、仕事をしているか風を装って近づいてみる。連れられて来た子供はどの子もみんな泣いていて、見れば山道だと言うのに靴さえ履いていない子供もいた。息子はキコリ仲間の若者に声をかけて、奴らに気が付かれない様に後ろへ回ったそうだ。子供を連れてた大人達は、ちっとも子供を気遣う素振りさえ見せずに子供達を小突き回して歩かせてたそうで、こりゃ、人攫いの一団だ、と若い者達がその大人達に立ち向かったそうな。一方はキコリの若衆、一方は手練れの様な得物を持ったその道に慣れている奴ら。どっちが勝つかなんて考えなくてもわかったろう。子供を助けようとした息子は犠牲となり、一人だけ帰らぬ人となってしまった。
それからだ、国境付近の村や町では自警団らしき物を作ってはそんな集団から国民を守る為に動き出す。けれどイタチゴッコで実際の被害は減っていない。
「けどよ、お前の息子は立派だったよ…あの子みたいのがいるから腕っ節に自身がある奴らが自警団に名乗り出してくれたんだしな…」
ハチマキの男はザックの背中をバンバン叩いて慰める。
「あぁ、もうちょっと北に行くとものすげぇ腕の立つ用心棒も出てきたって言うし、無駄じゃなかったよ、な?」
「くぅぅ…」
男泣きに泣き始めたザックをハチマキの男はひたすらに慰める。
「なぁ、兄さん。あんたは何の為にここに来たんだい?」
先程から静かに食事をしていた小柄な男が聞いて来た。
「私は、探し者です…とても、大切な者を探しているのです。」
「そうかい…見つかると良いなぁ…」
そう言うとまた静かに食べ始める。レギル王子も男に倣って食べ始めた。
"探し物を見つけて"
レギル王子ははっきりと自信を持ってそう呟いた。
パチンッと目の前で散る火花にはまだ慣れなかったがレギル王子の上空には見たことがある虹色の糸がまたもや北に向かって伸びているのが見えた。迷いの森から少しそれた方角には大国ソラリスに当たるはず…
「そこか…」
国を出ると行動に移した今朝は、何とも言えない清々しい気分だ。
「ハァッ!」
掛け声も高くレギル王子は颯爽と駆け出す。不安に慄き焦燥に駆られながら出て行ったあの日とは違う。
「リレラン、私は必ず、もう一度君に…!」
龍リレランに会う。その希望だけが不思議と胸を支配している。対価を払いに行くのだが、高鳴る胸の鼓動が抑えられないでいる。命以上の物を所望されたら支払い切れないのだが、それさえもなんだかワクワクしてレギル王子は気持ちが昂ぶる…
「へぇ…兄さん見かけない顔だね?どっからきなすった?」
カシュクールを出てから一番最初の国ガランド、ほぼ一日中走りに走りきって馬が潰れてしまう前に宿に泊まった。手持ちが少ない為、ほぼ素泊まりの状態で外で夕食をとる。そんな中では気さくに声を掛けてくる気の良い親父もチラホラ集まっていて、どっから見ても身なりの良いレギルは注目の的になってしまっていた。
「南の、カシュクールから…」
暖かい汁物の皿を片手に親父達の会話にレギル王子は引っ張り込まれていく。
「ほぉ!どうだい?今のカシュクールは?雨が降ったって言うじゃねぇか?」
「ああ、やっと東西の山の泉も潤った…」
レギル王子が食べている物は道端の露店で買った食べ物だが中々の味だ。
「そりゃ、良かったな!ところでよ?」
ずずいっとハチマキをした男が顔を近づけて小声で聞いてくる。
「兄さん。何やってる人よ?あれか?今流行りのさぁ…」
「…流行り…?」
「なぁんだ、知らないのかよ!カシュクールがあんなだっただろ?死にたくないって奴は五万といてさ?国を出る者もいただろ?」
それはそうだ。だが、大部分は住み慣れた、代々の土地を離れたくないと言ってその土地から離れた者は多くは無いとレギル王子は聞いている。
「だから、どうせ死んじまうんだったらさ、それらを有効活用しようって言う輩が出てきてもおかしく無いだろう?」
「………有効活用とは?」
「なんだ、本当に知らねぇの?アレだよ、ア、レ!」
「…なんだと言うのだ?」
「はっはっ!おい!この兄ちゃん本当に知らねぇみてぇだぞ?」
ハチマキの隣にいた色黒の男が横から口を出して来た。
「良いかい。食べられねぇと人は死ぬ。じゃあ、死なねぇ為に何をするか?子供が飢えて死ぬのを見るか、何処かに売っぱらちまうか兄ちゃんだったらどっちが良い?」
どっちが良いと聞かれても…売っぱらう…子供を人身売買すると言う事だろう。家族が食べていく為には、またその子供が食べていく為には当時は致し方なかったのかも知れない…が。
ギリッ……レギル王子が持つ皿が軋んで音が鳴る。
「そう言う奴らが国境沿いにウロウロしてんだよ。あんたみたいな小綺麗な格好してな?奴ら羽振りは良いからな身なりは綺麗だけど、中身が腐ってやがる…!!」
最後の言葉を地面に吐き捨てるように色黒の男は言い捨てた…
「あ~あ、まだ割りきれねぇのか?」
ハチマキの男はやれやれと言いたげだ。
「はん!無理に決まってるだろうが!!」
色黒の男はこの辺りの山でキコリをしているザックと言った。いきなりの激昂振りに若干呆気にとられたレギル王子だが、その理由をハチマキの男が教えてくれた。
「こいつの息子もキコリでよ?何時もの様に山で仕事をしてたんだよ。そしたら、奴らが来たのさ、子供達を数人引き連れてな?」
どうにも様子がおかしいと思った息子は、仕事をしているか風を装って近づいてみる。連れられて来た子供はどの子もみんな泣いていて、見れば山道だと言うのに靴さえ履いていない子供もいた。息子はキコリ仲間の若者に声をかけて、奴らに気が付かれない様に後ろへ回ったそうだ。子供を連れてた大人達は、ちっとも子供を気遣う素振りさえ見せずに子供達を小突き回して歩かせてたそうで、こりゃ、人攫いの一団だ、と若い者達がその大人達に立ち向かったそうな。一方はキコリの若衆、一方は手練れの様な得物を持ったその道に慣れている奴ら。どっちが勝つかなんて考えなくてもわかったろう。子供を助けようとした息子は犠牲となり、一人だけ帰らぬ人となってしまった。
それからだ、国境付近の村や町では自警団らしき物を作ってはそんな集団から国民を守る為に動き出す。けれどイタチゴッコで実際の被害は減っていない。
「けどよ、お前の息子は立派だったよ…あの子みたいのがいるから腕っ節に自身がある奴らが自警団に名乗り出してくれたんだしな…」
ハチマキの男はザックの背中をバンバン叩いて慰める。
「あぁ、もうちょっと北に行くとものすげぇ腕の立つ用心棒も出てきたって言うし、無駄じゃなかったよ、な?」
「くぅぅ…」
男泣きに泣き始めたザックをハチマキの男はひたすらに慰める。
「なぁ、兄さん。あんたは何の為にここに来たんだい?」
先程から静かに食事をしていた小柄な男が聞いて来た。
「私は、探し者です…とても、大切な者を探しているのです。」
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