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6 精霊門
しおりを挟む"行く手を阻む崖を避け、道なき道を我に示せ……"
シェルツェインに教えられてきたおまじない……どこまで通用するものか、レギル王子はとことん試す決意をする。コアットが言う様にこれ以上、レギル王子自身も待つ事叶わず、強行突破を選びそうになってしまっていたからだ。他国の王子が他国の国境警備隊を剣で襲うなど……考えるまでも無く悲惨な結末しか頭に浮かんでこない…悪くすれば侵略の恐れありと捉えられて、ゆっくり滅亡を待たずして人の手でカシュクール国はこの世から消えることになる…そんな本末転倒を願っているのでは無くて、カシュクール国を救いたいのだ。出そうになる手をぐっと堪えて、出来る限りの手段を選ぶ、今はその時だ。
ここ数日の見せ物の様になっていた小競り合い?が終わればレギル王子一行は国境を離れなければならなくなる。この後、どこかから外に出られないか、何か他の手立てはないかと作戦を立てるのだが、ここ一帯の国境線に張られた壁はなんと石造りで厚みもあり、高くまで聳え立っている。それだけランダーン国側は何人たりにでも突破されたくは無いのだ。
そんな中、国境警備の検閲所から少し離れた場所で、レギル王子はこのまじないを口にした。道標となっていた虹色の糸の様な印は道筋を変えず、真っ直ぐに迷い森を指している。何としても行くべき理由が彼らにはある。
まじないが終わると、チカリ、とまた目の前で火花が散った様にレギル王子は感じた。一時、瞬きを繰り返していたレギル王子の目の前の石塀に見た事もない光る扉が現れているのだ。居合わせた一同、言葉もなくただ呆然とその扉を見つめる事しか出来ない…
「王子……これは……?」
意を決した様に、最初に声を絞り出したのは年長者の宮廷魔術士マラール。
「…道を…行く手を遮られぬ様なまじないを使った………」
レギル王子も茫然自失とただ聞かれた事に答えている。
「………なんとも…驚かされる、事ばかりですね……」
ここを出る方法が無いものかと一番ヤキモキとしていたコアットもすっかり毒気を抜かれた様になっている。ここまで来るとシェルツェインの伝えてきたまじないは最早まじないの域を有に超えていた……
「……精霊魔法…………」
ボソリ、とマラールは呟く……
「…マラール先生もそう思いますか…?」
もうこんなにまざまざと目の前に見せられては、最早滅びさって久しい精霊が使う魔法だと言わざるをえない……
「しかし、マラール先生。私の魔力はそんなに強いものではありません。」
この時代の人々にも若干魔力を持つ者達もいる。しかしそれらは忘れ去られて久しく、その持って生まれた魔力をも持て余し、利用して実用にまで練り上げる事が出来ずに世をさる人の方が多い位だ。かく言うレギル王子は魔力を若干有しはしても魔術士と比べる事もできないほど微力なもので、王城と言う環境下で優秀な教師に就き習ってやっと扱える程度のもの……扉を出すなど、まして道を開くなどの大技は出来ようはずもなかった。伝説にもなっている精霊魔法など、夢のまた夢の話しだったはずだ…………
けれども、はっきりと今目の前に光り輝く扉がある…開けと言えば実に簡単に開けてしまいそうな扉が……
「王子が、頂いた精霊の祝福としか……。最早言葉では説明が尽きますまい…」
「ど…どうします?ここを通りますか?」
騎士として、厳しい訓練を積んできたヨシットにも動揺が見られた。非現実的な物よりも目の前の敵に斬りかかり人を守る訓練を常としている彼らには常軌を逸する出来事だ。吃ってしまっても意気地なしと揶揄うことなど出来ない。
馬を引き、一歩一歩その扉にレギル王子は近付いた。
「王子!」
ヨシットは緊張した声を上げ、守るべき主人に付き従う。慌てふためく従者に比べ、驚きはしたもののレギル王子は平静を取り戻している。この扉、いや、小さめの門とも取れる光るそれは、未だ消えもせず静かに発光していた。夜で無くて良かった…もし、国境警備隊のすぐ近くでこれが出てしまったら、国境破りと怪しげな魔術を使う他国の王子として追ってを掛けられても文句は言えまい…先はまだまだ見えない。けれど国の終わりは差し迫っている。ならば、もう考える事もなくやるべき事をやるだけだろう。
レギル王子は一つ深呼吸をすると、小さな門に手を伸ばす。
"我らを、求める場所に……"
そう、龍が眠っているかもしれない、迷い森へ………
その手が触れるかと言う瞬間、フワリとした光が舞い上がった。周囲に光を撒き散らし音も立てずに門は開く…
"求める者の、望むところへ"
確かに門はそう答えた…!
「行こう!この門は迷い森まで繋がっている。覚悟は良いか?」
皆を振り返ったレギル王子の吹っ切れた様な笑顔に、いや待たれよ、と水を刺す者などいるはず無かった。覚悟なら、国を出る前にとっくに付けて来たのだから……
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