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69 王太子妃の日常 3
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「ルシー、ありがとう!」
公務を終えて部屋へと帰ってくるなり、サラータに抱きつかれてしまった王太子ルシュルト。
「ただいま、サラ。私はサラに何かしたかな?」
まだ護衛のハダートン卿が側にいるのに、普段のサラータならばこんなに大胆な事はしてこない。
「お友達を作っていいと言ってくれたわ!」
飛び跳ねそうな勢いでルシュルトに抱きついていくサラータにルシュルトは物凄く嬉しそうである。
「そうか…シェリン嬢とは仲良くできそう?」
「ええ!素晴らしく色々な事を知っておられるご令嬢ですね?流石に高位貴族の方は違うと思いました!王城での私の仕事も頑張れそうで、楽しくなりそうだわ!」
温厚で博識で、さりげなくサポート役をこなしているシェリン嬢は物凄く遣り手のご令嬢だと思う。きっと彼女が商売をしたならば立ち所に事業を成功させてしまうのではないかとさえ思う。彼女が女性で良かった様な、勿体なくも思うサラータであった。
「そう?私といるよりも?」
「え?」
ふいに、ルシュルトの腕の力が強くなる。
「ルシー?」
「私にも公務があるから、いつもサラと共にいる事が出来ない…だから、サラには心を許せる友人が必要なのもよくわかっている。シェリン嬢がその役になってくれて、これ幸いにこちらも安堵しているのだが……」
ギュウッと、サラータを包み込むルシュルトの腕はとても力強くて、サラータには解けそうにもない。
「…ん、ルシー?」
ちょっとだけ、息苦しさを感じてしまうサラータはルシュルトの腕の中で身悶えた。
サラータの髪にキスを落とし、若干サラータにのしかかりながらぐりぐりぐりと頬を擦り付けてくるルシュルトの様は、サラータにとっては大きな熊にでも戯れつかれている様な気分になる。
「ルシー…!…重い……」
同い年とはいえ、男女の体格差はあり、男性の体重を女性が目一杯受け止めることはなかなかに難しいだろう。
「ん~…私もサラと一緒に居たい………」
小さな子供の様な我が儘をルシュルトは口にした。
幼い頃、ルシーと共に額を寄せ合って笑い合っていた思い出が、ぶわっとサラータの脳裏に浮かんできてきゅうう、とサラータの心を締め付ける。
(ルシー…寂しいの?)
夫婦となったのだからこれからはずっと一緒だ。サラータと生きたいとルシュルトの方から言ってきたのだから、ルシュルトが嫌だと言うまではサラータは共にいるつもりで……いや、サラータだってもう離れるつもりもないのに。
「今晩も一緒に寝る?」
(幼い頃の様に…)
怖い話を聞いた日は一人でお昼寝ができなくて、どちらかの家のベッドに潜り込んではくっついてよく寝たものだ。だから、婚姻してから初めてサラータの方からそう言ってみた。
一瞬、ルシュルトの身体がビクッとした…
「……………マーテル、ポーラ……」
「………?」
「「心得ました。」」
直ぐに返事を返した両名に比べ、ゆっくりと身体を起こしたルシュルトはニッコリと満面の笑顔だ。
「サラ……自分で言っている意味、分かってる?」
「…?…何か不安なのでしょう、ルシー?小さい頃も、今も良く一緒に寝ているから驚く事ではないでしょう?」
さわさわとサラータの頭や髪を撫でてくるルシュルトの手が気持ち良くて、ついうっとりとしながらサラータは答える。
「………サラ…君は、私の妃で、妻なんだよ?」
「…?…ええ、知っているわ。」
「私と一緒に寝るのが怖くない?」
結婚してから既に時は経っている。部屋は同じで勿論同じベッドで休んでいるのだ。寝付くまでおしゃべりを楽しんだり、読書をしたり、時に遅くなったルシュルトを待っていられずサラータが先に寝てしまったりしていても、二人はいつも同じ空間で過ごしていた。だからサラータには何も怖いと思ったことなどはない。
「何を怖がることがあるの?」
(夫婦になったんでしょう?)
仲の良い両親を見て育ってきているサラータだ。家族揃って暮らしたいと言うルシュルトの願いも幼い時に一番側にいたサラータには良く理解できる。夫婦は離れてはいけないのだ。どんな事にも話し合って、分け合って、与え合って、受け止め合う。
ルシュルトが寂しい思いをしているのならそれを埋めるのはサラータの役目。
「ポーラ、マーテル……明日の朝まで絶対に誰も訪室させない様に……」
サラータを見つめるルシュルトの瞳が熱を持つ。ずっとずっとサラータには隠していたものが隠しきれずに溢れてしまって……
「心得ましてございます。今晩はこのポーラが番をいたします。ごゆっくり、お寛ぎ下さいませ。」
音もなく、護衛と侍女は退室していった。
公務を終えて部屋へと帰ってくるなり、サラータに抱きつかれてしまった王太子ルシュルト。
「ただいま、サラ。私はサラに何かしたかな?」
まだ護衛のハダートン卿が側にいるのに、普段のサラータならばこんなに大胆な事はしてこない。
「お友達を作っていいと言ってくれたわ!」
飛び跳ねそうな勢いでルシュルトに抱きついていくサラータにルシュルトは物凄く嬉しそうである。
「そうか…シェリン嬢とは仲良くできそう?」
「ええ!素晴らしく色々な事を知っておられるご令嬢ですね?流石に高位貴族の方は違うと思いました!王城での私の仕事も頑張れそうで、楽しくなりそうだわ!」
温厚で博識で、さりげなくサポート役をこなしているシェリン嬢は物凄く遣り手のご令嬢だと思う。きっと彼女が商売をしたならば立ち所に事業を成功させてしまうのではないかとさえ思う。彼女が女性で良かった様な、勿体なくも思うサラータであった。
「そう?私といるよりも?」
「え?」
ふいに、ルシュルトの腕の力が強くなる。
「ルシー?」
「私にも公務があるから、いつもサラと共にいる事が出来ない…だから、サラには心を許せる友人が必要なのもよくわかっている。シェリン嬢がその役になってくれて、これ幸いにこちらも安堵しているのだが……」
ギュウッと、サラータを包み込むルシュルトの腕はとても力強くて、サラータには解けそうにもない。
「…ん、ルシー?」
ちょっとだけ、息苦しさを感じてしまうサラータはルシュルトの腕の中で身悶えた。
サラータの髪にキスを落とし、若干サラータにのしかかりながらぐりぐりぐりと頬を擦り付けてくるルシュルトの様は、サラータにとっては大きな熊にでも戯れつかれている様な気分になる。
「ルシー…!…重い……」
同い年とはいえ、男女の体格差はあり、男性の体重を女性が目一杯受け止めることはなかなかに難しいだろう。
「ん~…私もサラと一緒に居たい………」
小さな子供の様な我が儘をルシュルトは口にした。
幼い頃、ルシーと共に額を寄せ合って笑い合っていた思い出が、ぶわっとサラータの脳裏に浮かんできてきゅうう、とサラータの心を締め付ける。
(ルシー…寂しいの?)
夫婦となったのだからこれからはずっと一緒だ。サラータと生きたいとルシュルトの方から言ってきたのだから、ルシュルトが嫌だと言うまではサラータは共にいるつもりで……いや、サラータだってもう離れるつもりもないのに。
「今晩も一緒に寝る?」
(幼い頃の様に…)
怖い話を聞いた日は一人でお昼寝ができなくて、どちらかの家のベッドに潜り込んではくっついてよく寝たものだ。だから、婚姻してから初めてサラータの方からそう言ってみた。
一瞬、ルシュルトの身体がビクッとした…
「……………マーテル、ポーラ……」
「………?」
「「心得ました。」」
直ぐに返事を返した両名に比べ、ゆっくりと身体を起こしたルシュルトはニッコリと満面の笑顔だ。
「サラ……自分で言っている意味、分かってる?」
「…?…何か不安なのでしょう、ルシー?小さい頃も、今も良く一緒に寝ているから驚く事ではないでしょう?」
さわさわとサラータの頭や髪を撫でてくるルシュルトの手が気持ち良くて、ついうっとりとしながらサラータは答える。
「………サラ…君は、私の妃で、妻なんだよ?」
「…?…ええ、知っているわ。」
「私と一緒に寝るのが怖くない?」
結婚してから既に時は経っている。部屋は同じで勿論同じベッドで休んでいるのだ。寝付くまでおしゃべりを楽しんだり、読書をしたり、時に遅くなったルシュルトを待っていられずサラータが先に寝てしまったりしていても、二人はいつも同じ空間で過ごしていた。だからサラータには何も怖いと思ったことなどはない。
「何を怖がることがあるの?」
(夫婦になったんでしょう?)
仲の良い両親を見て育ってきているサラータだ。家族揃って暮らしたいと言うルシュルトの願いも幼い時に一番側にいたサラータには良く理解できる。夫婦は離れてはいけないのだ。どんな事にも話し合って、分け合って、与え合って、受け止め合う。
ルシュルトが寂しい思いをしているのならそれを埋めるのはサラータの役目。
「ポーラ、マーテル……明日の朝まで絶対に誰も訪室させない様に……」
サラータを見つめるルシュルトの瞳が熱を持つ。ずっとずっとサラータには隠していたものが隠しきれずに溢れてしまって……
「心得ましてございます。今晩はこのポーラが番をいたします。ごゆっくり、お寛ぎ下さいませ。」
音もなく、護衛と侍女は退室していった。
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