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62 王太子妃とは何をする人ぞ? 5

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 ルシュルト王太子は成人間際になっても将来の伴侶となる婚約者を作らなかった。これ幸いとベストク公爵家側からは、ベストク帝国最後の姫君であるシェリン嬢を根強く薦められはしたものの、イリュアナ国王もルシュルト王太子も首を縦には振らずに頑なに断り続けていた。
 普段から神出鬼没のルシュルト王太子であった為、婚約者を推し進めようとする者達も遅々として話すらまともに薦められなかったことにも原因はあっただろう。

 そんな時に、国王の特別侍女として召し上げられる事になったルシーが城内に現れる様になった。そのやや色素の薄い容姿は隣国カコール皇国の血筋を思わせるものだし、王の覚えもすこぶる良い。極め付けに城内にいるルシーには必ず、王太子の護衛筆頭役であるハダートン卿とカザラント子爵のどちらかがいつも付き従って護衛役を買っているという事実が城内ではまことしやかに流れていくことになる。
 ここから考えられることは、ルシーはルシュルト王太子殿下の婚約者では…?と言うまだ公にもなっていない憶測だ。

「これで母を狙った様に、事が公になる前にルシーを狙ってくれば良いと思っていた。そうしたら……」

「そうしたら…?」

「なんの憂もなく、サラに求婚する事ができるだろう?」

 夢の様に綺麗に笑うルシュルトが目の前にいて、おかしな事にもう結婚していると言うのに求婚なんて言葉を聞くと照れ臭くてサラータの顔は熱くなる…

「ふふ…本当にサラは可愛い…」

 ルシュルトはそう言うと、そうするのが当然の様にサラータの唇に軽くキスを落とす…

 柔らかくて、少し冷たくて、でも暖かくて…フッと濃くなるルシュルトの香り……顔にかかってくる琥珀の髪が優しくサラータをくすぐった…

「でも、間に合わなくてね…あちらもなかなか手を出してこなかった。」

 だから、王太子婚礼をお膳立てしてそれに乗せる様に裏でサラータを呼び寄せて本当の婚礼を挙げてしまった。本来ならば王族の婚礼である。まずは婚約者を立ててから何年もかけて準備期間を設けるのも珍しくはないほど慎重に行われるはずであった。が、その間に前王妃の惨状が再び起こらないとも限らない。ルシュルト王太子はサラータとの婚礼のために異例中の異例を作った。婚約式お披露目のわずか数日後に婚礼を挙げたのだ。婚礼については国内の各地領主には通達済で婚礼前のあの舞踏会が略式ではあったが婚約式の代わりであった。

「それで……」

 手を出してこなかったと言うあちら側はどうなったのだろうか…

「今、私はとても立て込んでいてね?状況を整理するのや裏付けを取るのや、解毒作業に励まなければいけなくて…」

「……?」

「つまりは、そう言う事だよ、サラ。婚礼の手前で、ルシー宛に差出人の無いお茶が届いてね…」

「…!?……飲んだの!?」

「まぁ少しね。ああいうものはテイスティングしてみた方が見分けを付けるのに早いからな。」

 ニコニコと微笑みながら言う内容ではない無いのに、ルシュルトは笑顔のままだ。

「向こうがちゃんと動いてくれて良かったよ。これで安心してサラを迎え入れられるし……」

「だから…解毒薬……」

「そう。あの時敢えて飲んだ分と、今まで毒に慣れさせる為に体内に溜まってただろう分を外に出し切る為にね。」

「今まで健康に害はなかったのよね?」

「勿論!でもこれからはもっと身体には留意しなくてはいけないからな。」

 ルシュルトは王太子なのだから身体大事は当たり前だ。

「サラと家族になるんだ。私達の子供の事だって考えなくてはいけないだろう?」

 ボッと、サラータの顔に火が付いた。

「……ぅっ………」

「私はサラと家族になる。いずれ子供を儲けて私が得られなかった家族一緒の生活がしたいんだ。」

「ルシー………」

 幼い子供の頃に奪われてしまった家族との幸せな時間………

「サラには無理を強いるかもしれない…なんて言ったって王妃になるんだからね?大変な山はあるだろう…けど、私が護るから…サラは、私の家族になって、ここにいて欲しい……」

 いつの間にかサラータを抱きしめていたのはルシュルトの力強い腕。

 ルシュルトは王太子妃となって支えてほしいとは言わなかった。サラータと家族になりたいと、ただそばに居て欲しいと、ルシュルトは心からそう言っていた。










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