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45 終わらない夢 5 ハダートン卿の恋慕 3
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「父上……私はこの令嬢のお守り役で御座いますか?」
自家の私兵による護衛ではなく、騎士団の騎士を護衛に付けるなんて一体どこの家の令嬢か?まずマーテルが思い浮かぶ家々を辿って見ても、このくらいの令嬢などいた記憶がない。
「何を言う、お守りではない!其方は教育係も兼ねておる!」
「教育……ですと?」
令嬢ならば令嬢らしく、淑女の教育を施すはずである。マーテルは学問や剣術では他の者に引けを取らない程のものを身に付けてはいるが、女子や令嬢の礼儀作法には指導する程詳しいものではない。それに大人であるハダートン侯爵とマーテルの会話に一言も口を挟む事もなく、じっと大人しくお行儀よく座っていられるこの令嬢は場を読む事に長けている様だ。あえて騎士団に入団している様な無骨な者を教師とする意味があるのかどうかさっぱりと理解できない。
令嬢は琥珀色の柔らかそうな艶のある髪に瞳の色と同じ薄紫の絹のリボンを結んだなんとも可愛らしい少女である。親戚が多い家ならば間違えなく誰にでも可愛がられる子供であろうに、マーテルが見ているこの令嬢からは少女特有の幼さや、無邪気さが一つも見られないのだ。それに父親譲りである精悍な顔つきになりつつあるマーテルと既に強面と言われてもいい様なハダートン侯爵を前にしても恐れるそぶりもない。ただじっと、静かな瞳でマーテルを見上げている。その令嬢の瞳はあまりにも澄んでいて、引き込まれそうになる錯覚さえ覚えてしまうほどだった。
「勿論だ。知識も剣も馬術も体術も、其方は他に遅れを取ってはいないのだから適任だろう。」
「いえ、ですからお待ち下さい父上!私は騎士なのです!ガサツな男共の中で日々鍛錬している様な者をどこのご令嬢のご両親が望まれるのです?護身術であるのならば私兵で十分でございましょう?」
マーテルの意見は至極尤もで、か弱い可憐な令嬢を相手に手取り足取りして教えるにしては、余りにも二人の力の差も体格の差もありすぎるのだ。まして体術まで?目の前の令嬢はマーテルの片手だけで吹っ飛んでいきそうなのに…
「何を言うか!護身術などではない。今言ったことをこの方に徹底的にお教えしなさい。この方はお前が命を賭けて護らねばならない方だぞ!」
「命懸けで…このご令嬢を?」
騎士ならば分からなくもない話なのだが、この方は一体………
「貴方が私の先生となる方ですか?」
今の今まで黙っていた令嬢が口を開いた。
「………」
まだ承諾しかねているマーテルはなんと答えていいのやら。
「私の名はルシュルトと言う。ルシュルト・クル・イリュアナ。これが私の名前。貴方にも手伝って貰いたい。」
ルシュルト……!?イリュアナ!?
「分かった様だな?この方は我が国の第一王子殿下にあらせられる。元より、其方が護るべき方だったであろう?」
「この姿の時は母の姓を名乗っている。ルシー・カザラントと。」
カザラント家…隣国カコール皇国では侯爵家、イリュアナ国では子爵家の家柄だ。身罷った王妃の親族がイリュアナ国に移住し子爵位を受けている。
「王子、殿下は…では今まではカザラント子爵家におられたのですか?」
大の騎士が動揺を隠せないのに、たった5~6歳ほどの少女の様なルシュルトは微動だにせずマーテルを見続けているのだ。
「そうだ。マーテル・ハダートン。私の力となって欲しい。」
澄んだ薄紫の瞳と、見紛う事なき可憐な少女の姿で、はっきりと前を見据えて意思を伝えてくる。儚い姿とは対照的に真っ直ぐにマーテルに向かう王子ルシュルトのその想い…
この瞬間にマーテル・ハダートンは、主人となるルシュルト・クル・イリュアナに心を奪われ、今も尚、彼の心の中には主人以上の者の存在はない。
自家の私兵による護衛ではなく、騎士団の騎士を護衛に付けるなんて一体どこの家の令嬢か?まずマーテルが思い浮かぶ家々を辿って見ても、このくらいの令嬢などいた記憶がない。
「何を言う、お守りではない!其方は教育係も兼ねておる!」
「教育……ですと?」
令嬢ならば令嬢らしく、淑女の教育を施すはずである。マーテルは学問や剣術では他の者に引けを取らない程のものを身に付けてはいるが、女子や令嬢の礼儀作法には指導する程詳しいものではない。それに大人であるハダートン侯爵とマーテルの会話に一言も口を挟む事もなく、じっと大人しくお行儀よく座っていられるこの令嬢は場を読む事に長けている様だ。あえて騎士団に入団している様な無骨な者を教師とする意味があるのかどうかさっぱりと理解できない。
令嬢は琥珀色の柔らかそうな艶のある髪に瞳の色と同じ薄紫の絹のリボンを結んだなんとも可愛らしい少女である。親戚が多い家ならば間違えなく誰にでも可愛がられる子供であろうに、マーテルが見ているこの令嬢からは少女特有の幼さや、無邪気さが一つも見られないのだ。それに父親譲りである精悍な顔つきになりつつあるマーテルと既に強面と言われてもいい様なハダートン侯爵を前にしても恐れるそぶりもない。ただじっと、静かな瞳でマーテルを見上げている。その令嬢の瞳はあまりにも澄んでいて、引き込まれそうになる錯覚さえ覚えてしまうほどだった。
「勿論だ。知識も剣も馬術も体術も、其方は他に遅れを取ってはいないのだから適任だろう。」
「いえ、ですからお待ち下さい父上!私は騎士なのです!ガサツな男共の中で日々鍛錬している様な者をどこのご令嬢のご両親が望まれるのです?護身術であるのならば私兵で十分でございましょう?」
マーテルの意見は至極尤もで、か弱い可憐な令嬢を相手に手取り足取りして教えるにしては、余りにも二人の力の差も体格の差もありすぎるのだ。まして体術まで?目の前の令嬢はマーテルの片手だけで吹っ飛んでいきそうなのに…
「何を言うか!護身術などではない。今言ったことをこの方に徹底的にお教えしなさい。この方はお前が命を賭けて護らねばならない方だぞ!」
「命懸けで…このご令嬢を?」
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「貴方が私の先生となる方ですか?」
今の今まで黙っていた令嬢が口を開いた。
「………」
まだ承諾しかねているマーテルはなんと答えていいのやら。
「私の名はルシュルトと言う。ルシュルト・クル・イリュアナ。これが私の名前。貴方にも手伝って貰いたい。」
ルシュルト……!?イリュアナ!?
「分かった様だな?この方は我が国の第一王子殿下にあらせられる。元より、其方が護るべき方だったであろう?」
「この姿の時は母の姓を名乗っている。ルシー・カザラントと。」
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「そうだ。マーテル・ハダートン。私の力となって欲しい。」
澄んだ薄紫の瞳と、見紛う事なき可憐な少女の姿で、はっきりと前を見据えて意思を伝えてくる。儚い姿とは対照的に真っ直ぐにマーテルに向かう王子ルシュルトのその想い…
この瞬間にマーテル・ハダートンは、主人となるルシュルト・クル・イリュアナに心を奪われ、今も尚、彼の心の中には主人以上の者の存在はない。
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