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20 ルシュルト・クル 2
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見れば見るほど、良く似ている…………
ジッと王族であろう方を見詰めるのは不遜だろうが、チラチラと顔を仰ぎ見ては、表情のどれもがルシーと似ているような気がしてならない。
(殿下は、精悍な男の方で有られるのに…)
「私の顔に何か付いているのか?」
ゆっくりとお茶を嗜みつつ、先程から挙動不審であったろうサラータに声をかけて来た。
「いえ…!申し訳ありません!余りにも殿下が私の知り合いによく似ているものですから…」
サラータは直ぐに頭を下げて無礼を謝罪した。
「ふぅん?サラータ嬢の?」
「はい、左様でございます。」
「なんと言う者だ?」
え、言ってもいいのだろうか…?あとでルシーに何某かのお咎めでもあったらばどうすればいいんだろう…
ただの貴族に対しての処世術も分からないのに、王族など未知のまた未知である存在だ。どうしろと言うのか……先程から殿下の側に付き従い後ろに立っているハダートン卿は何も言葉を発さないし、視線で助けを求めようにも、目があった瞬間にスッと逸らされてしまう…
「ん?なんだ、私はサラータ嬢を問い詰めているのではないぞ?其方の事を話して欲しいと思ったから聞いている。畏まらなくていいから。思った事を話すと良い。」
サラータの表情からも酷く困惑していることが伝わったのだろう。殿下は先程よりも更に笑みを深くして優しく話しかけてくる。
「はい。私が似ていると申した者は、子爵家の令嬢でして…」
「子爵?どこの家の者か?」
「はい。カザラント子爵家です。」
「あぁ…あそこだね?」
「ご存じですか?」
「知っているも何も、私が今彼女の雇い主だ。」
「まぁ!殿下の元で働いているのですか?ルシーと言うのです!」
「良く、知っているよ…」
「そうなのですね?」
ルシーの名を出した途端に、サラータの硬かった表情がパァと明るくなった。
「あぁ、今は少し所用を言い付けてある。」
「そうだったのですね。私はこのような席は初めてで、何をすれば良いのかも分からず…あの、ルシーがいない事にとても不安でした。」
思った事を話せというので、サラータはその様にしてみる。
「そうなのだな?今はどうだ?」
殿下と二人で座って話をしている間、ずっと笑みを絶やさずに殿下は話してくれる。その表情がルシーに似ているということもあってサラータは大分落ち着きを取り戻して来た。
「はい。少し、落ち着いて来ました。」
「クク…少しだけか?」
「えぇ……」
この状況下ではどのようにしても緊張や不安を無くすことの方が難しいだろうに……
「…殿下…もう少しでお時間です。」
今まで黙していたハダートン卿が何かの時間が迫っている事を知らせて来た。
「もう?」
如何にも不服、と言わんばかりに殿下は不機嫌な顔になる。
「はい、その様なお約束でした。」
「あ、あの!もうルシーも戻って来ますか?」
このまま殿下が去って行ってしまってはこの後にこの殿下との同席について興味を持った貴族達が押し寄せて来そうで恐ろしいのだ。先程から背中に視線の矢が刺さっている気さえする。
「そうか。サラータ嬢はルシーの働きぶりが見たいのだな?」
「え?えぇ……まぁ…?」
(いや、違うのだけど、ルシーの仕事場ってお城の中でしょう???)
「では、案内しようか?サラータ嬢?」
「は?」
「!?」
殿下のこの発言には私語を挟まず無言を通しているハダートン卿にも呆れた様な声を出させる威力があった。
「それと、殿下というのは敬称だろう?私の名前はルシュルト・クルと言う。」
(ルシュルト・クル…!では、招待状の?)
ジッと王族であろう方を見詰めるのは不遜だろうが、チラチラと顔を仰ぎ見ては、表情のどれもがルシーと似ているような気がしてならない。
(殿下は、精悍な男の方で有られるのに…)
「私の顔に何か付いているのか?」
ゆっくりとお茶を嗜みつつ、先程から挙動不審であったろうサラータに声をかけて来た。
「いえ…!申し訳ありません!余りにも殿下が私の知り合いによく似ているものですから…」
サラータは直ぐに頭を下げて無礼を謝罪した。
「ふぅん?サラータ嬢の?」
「はい、左様でございます。」
「なんと言う者だ?」
え、言ってもいいのだろうか…?あとでルシーに何某かのお咎めでもあったらばどうすればいいんだろう…
ただの貴族に対しての処世術も分からないのに、王族など未知のまた未知である存在だ。どうしろと言うのか……先程から殿下の側に付き従い後ろに立っているハダートン卿は何も言葉を発さないし、視線で助けを求めようにも、目があった瞬間にスッと逸らされてしまう…
「ん?なんだ、私はサラータ嬢を問い詰めているのではないぞ?其方の事を話して欲しいと思ったから聞いている。畏まらなくていいから。思った事を話すと良い。」
サラータの表情からも酷く困惑していることが伝わったのだろう。殿下は先程よりも更に笑みを深くして優しく話しかけてくる。
「はい。私が似ていると申した者は、子爵家の令嬢でして…」
「子爵?どこの家の者か?」
「はい。カザラント子爵家です。」
「あぁ…あそこだね?」
「ご存じですか?」
「知っているも何も、私が今彼女の雇い主だ。」
「まぁ!殿下の元で働いているのですか?ルシーと言うのです!」
「良く、知っているよ…」
「そうなのですね?」
ルシーの名を出した途端に、サラータの硬かった表情がパァと明るくなった。
「あぁ、今は少し所用を言い付けてある。」
「そうだったのですね。私はこのような席は初めてで、何をすれば良いのかも分からず…あの、ルシーがいない事にとても不安でした。」
思った事を話せというので、サラータはその様にしてみる。
「そうなのだな?今はどうだ?」
殿下と二人で座って話をしている間、ずっと笑みを絶やさずに殿下は話してくれる。その表情がルシーに似ているということもあってサラータは大分落ち着きを取り戻して来た。
「はい。少し、落ち着いて来ました。」
「クク…少しだけか?」
「えぇ……」
この状況下ではどのようにしても緊張や不安を無くすことの方が難しいだろうに……
「…殿下…もう少しでお時間です。」
今まで黙していたハダートン卿が何かの時間が迫っている事を知らせて来た。
「もう?」
如何にも不服、と言わんばかりに殿下は不機嫌な顔になる。
「はい、その様なお約束でした。」
「あ、あの!もうルシーも戻って来ますか?」
このまま殿下が去って行ってしまってはこの後にこの殿下との同席について興味を持った貴族達が押し寄せて来そうで恐ろしいのだ。先程から背中に視線の矢が刺さっている気さえする。
「そうか。サラータ嬢はルシーの働きぶりが見たいのだな?」
「え?えぇ……まぁ…?」
(いや、違うのだけど、ルシーの仕事場ってお城の中でしょう???)
「では、案内しようか?サラータ嬢?」
「は?」
「!?」
殿下のこの発言には私語を挟まず無言を通しているハダートン卿にも呆れた様な声を出させる威力があった。
「それと、殿下というのは敬称だろう?私の名前はルシュルト・クルと言う。」
(ルシュルト・クル…!では、招待状の?)
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