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「今日はどうだった?」

 
 座敷に座ってお茶を飲む。まるで高齢者の茶飲み友達の様なスタイルだが、なんでかすごく落ち着く。刀貴の視線はいつも優しく柔らかく包み込む様に、本当にこっちがどうにかなりそうなくらいに見つめてくるけど、男である自分を全部受け入れてくれてるっていう、安心感に信頼感に…愛情やら、色々混じって、くすぐったくも居心地がいい。


「まぁ、普通かな?刀貴、本当に病欠になってたのな?」

「あぁ、一番角が立たないのはそれだと思って。」


 ニコニコしながら、何気ない会話を楽しむ。お茶にお茶菓子、でもそれさえなくてもいい。こんな穏やかな時間が自分達は心から欲しかったんだ。


「何で刀貴は蒼梧の親父さんと知り合いなのさ?」


 妖刀紫を持っているにしても、神主は時の流れと共に変わっていくものだろうに。刀貴が見知っている神主なんてとっくに亡くなっているだろう。


「昔々の約束がある。」

「それ!!聞いてもいいか?」

   
 刀貴と神主だけが持っているであろうその約束が、どうしても気になってしまう。


 刀貴の答えはあっさりいいよ、というものだった。


「楓矢はどこまで思い出してる…?」

「えっと…?あの時、宝利の家で産まれた紫眼の女子は俺だけだったから……」


 そうだ、今とかけ離れ過ぎてて思い出というよりはいつか見た時代劇の映画みたいな感覚だ。


 神主への嫁入りが決まっていたゆうらは頑なに嫁入りを拒み、何度も村を出ようとする問題行動が目立っていた。その為に護衛と監視役を含めた剣士が付けられた。これが刀貴だ。

 当時ならば村の決まり事を破ってはその村で生きて行くことなんて出来ない。まして、当時の神主には何ら問題となる様な如何わしい欠点も無かった。だからゆうらの両親もゆうらの行動が理解できず、親戚一同からもゆうらを逃さない様に護衛にも言い含めていたほどだ。

 勿論、護衛となった刀貴にもゆうらの行動が理解できなかったはずだ。嫁ぐことが生まれ落ちた瞬間に決まっていたとしても、村の守り神ともされている神社に嫁ぐのだ。生涯食べる事に困らないだろうし、男児を産めばその子は後継として皆んなから慕われる存在になる。喜びこそすれ、何を嘆いているのか理解に苦しんだに違いない。同時に、刀貴は気がついてしまった。
ゆうらの側にいる者達は誰もゆうらの気持ちに寄り添っていない事を。

 ゆうらはまだ少女の域の子供だ。嫁に行く事の不安も恐れもあるだろうに、誰も真剣に話を聞こうとしなかったのだ。

 だから、刀貴は少し自分から近付く事にしたのだ。護衛対象でしかも他人の嫁になる。深入りしていい者ではない事が分かっていても。

 ゆうらはただ恐れていた。自分の運命を知って、自分が愛してもいない人の前で淫猥に貪欲に代わってしまう事を。その変化に幼い彼女は耐えられなかった。
 
 愛を知らぬ少女は穢れを恐れ、少女を守り神主に無事に嫁がせる役目をおった剣士はその少女の清廉さに心を奪われた…


「けど………」

「そう…出来れば、思い出さないで欲しい…が、これは俺が負うべきもの。どれ程苦しもうと、懺悔の言葉を吐こうとも、地獄の様な後悔は消えることはなかった……」

 苦しむ刀貴の歪む顔…もう、見たくないと思った顔……

 そっと刀貴の手を握る。


「俺が…頼んだんだろ?刀貴の苦しみも考えないで、ただ自分の事だけで…だから、俺が、ゆうらが悪い……」


 酷い我儘だ…後に残される者の事など何も考えずに、一方的に刀貴に強請ったのだから。


「いいや…あの時に共に殺されてもいいから連れて逃げるべきだった。」

「でも、それを俺は拒否した…」

「覚えているのはここまでか?」

「ん…ゆうらとして生きていた頃のは、その位?後の時は思い出せもしない…」

「それがいい。どれもあまり変わらん。」

「刀貴…?大丈夫か?」


 全てを思い出したわけではない自分と違い、刀貴は全てを覚えている。何度好きな女の胸に刃を立ててきたか…その時々を五感全てで憶えているはず……


「お前…辛かったよな…?」


 どうしても、ジワリと流れてきてしまうものは止められない。


(涙腺、壊れてるな。)


 そっと頬に手を伸ばしてきた刀貴の答えは深いキス…













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