[本編完結]死を選ぶ程運命から逃げた先に

小葉石

文字の大きさ
上 下
30 / 46

30

しおりを挟む
「じゃあ、これ頼むわ。」

 担任から預かるのは刀貴への2日分のプリントだ。勿論、学校帰りに寄るつもりでいたけど、公然とした理由もできた。


 刀貴が待つ家に行く。はっきり言って、浮かれてる……ウキウキした気分ってこういうもんなんだな。お付き合いとは無縁の生涯を送るもんだと思っていたから、非常に新鮮。だから、自分を抑えることって良く分からなくても仕方がない…


「ねぇ、みそえ?楓、何かあった?」

「え?何かって何?」

「君達双子でしょ?いつもとの違いとか分かる?」

「え~?楓でしょ?良く寝れたって言ってたし、体調バッチリなんじゃない?」

 
 双子といえども24時間一緒にいるわけじゃないから細かい変化云々なんてみそえだって把握しているわけじゃない。


「ふ~~~ん。良く、眠れたねぇ?それにしてもはしゃぎすぎじゃない?」

「そう?何?蒼梧。楓が元気じゃダメなの?」

「ん~にゃ、ちゃう。元気はいい事。でも何かあったのかは気になるね。」

「やだ、蒼梧ってそういう勘いいよね。何何?楓は知らない内に、私達が知らない扉でも開けましたか?」

「ふはは…ありえる~」

「秘密って言ったら、絶対に私や楓よりも蒼梧の方が多いからね?」


 今日だってまたどこぞの女子との密会連絡でもしてるのだろう、連絡がバシバシきてる。  


「俺のは先行投資。」

「何それ?」

「将来に生かすって事で…」

「うっさんくさ~……」

 
 みそえが盛大に嫌な顔をした所で、蒼梧はみそえと別れを告げる。どうやらこれから女子との待ち合わせの様子。


「本当、おさかんだ事…」

 
 憎まれ口を叩く割にはみそえはこの帰り道が嫌いじゃない。今日は楓矢がいないだけいつもよりは静かだが、蒼梧は自分に用事があっても必ずみそえを家の側まで送っていく。昔からの習慣で、いつも帰る時には破られたことがないくらいには3人の中では常識的な事。


「もう、皆んな自分勝手ね~。」


 楓矢もいない、蒼梧も…いずれはみんなそれぞれ離れていく様になるだろう。でもなんでか、みそえには大人になっても自分達は一緒にいる様な、そんな変な確信で一杯だった。
 






「おーい?こんちは~?」

 チャイムを鳴らし、勝手知ったる玄関を少し開けて中に呼びかける。刀貴には居ないときでも勝手に入ってきていい様に、昨日の時点で鍵まで渡されていたけれど、流石に他人様の家に家主がいない状態で入った事が無ければ躊躇もする。


 そして、昨日の今日で、照れ臭い………


「お帰り。楓矢。」


 バスルームの方から声がして、濡れたままの髪の刀貴がひょっこりと顔を出す。


「何?風呂入ってたん?」

 
 頬が火照るのを隠そうとしてわざといつも通りに振る舞う。


「そう、少し外出してたから。」

「ふ~~ん?これ、担任から預かって来た。」


 訪問にはちゃんとした理由があるんですよ、と何故かそんな理由を前面に押し出してしまう。


「ありがとう。楓矢……お帰り。」


 刀貴のは着衣し終わったラフな格好で、穏やかにニッコリ笑って、両手を広げてベタな出迎え方をしてくる。今まで友人にでもそんな事をされたら、なんじゃそりゃと華麗にスルーする所…なのに、吸い寄せられるみたいに自分から向かって行っちゃうから不思議だ。


「ん…ただいま……」

「ずっと、こうやって迎え入れたかったんだ。自分の、自分達の家に…帰ってきてくれたらって…」

 
 軽く抱きしめながら、そんな事を言う。愛する者を何度も自分の手で殺め、一度として叶わなかった小さな幸せ、ささやかな望み…
 長い間待ってて貰っていた身としては、それがくだらない願いじゃない事を骨身に染みて知っているから無碍にはできそうにもない。


「ちゃんと帰ってくるよ。これからはさ?いつでも来れるし。」


 ぎゅうっと力強く抱きしめて、刀貴は答える。だからこっちも背中に両手を回して逃さないくらいの力加減で抱きしめ返した。


"好いた方に触れるのを許してもらえる"


 ゆうらの歓喜の声を今めいいっぱい堪能してる。
 















しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...