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「なぁ、俺帰らなくて良いの?」

 
 実際、グッタリしてまだ動けそうに無いんだけど、昨日も外泊をした身としては今日もこのままなんて事はあり得ないだろ?今日が休日で良かった…


「動けるか?」

 
 隣で一緒に横になっている刀貴がぐっと抱き寄せてくる。


「無理っす……」


 なんと言っても俺は初心者なんです…なのに、覚えているだけでもガッツリといたしていたわけで…目覚めた後も、色々と、したわけで……はっきり言って、まだ動きたく無い。


「このまま嫁に来い。」


 スリスリと頭に頬を擦り付けながら、刀貴はそんな事を言う。


「あのな?俺達まだ高校だぞ?それに男同士だし、嫁は無いだろ?」

「…嫁に来い………」


 抱き寄せた刀貴の腕に力が入る。こんな事を言われて、嬉しく無いはずがない…ずっと、ずっと添い遂げたいと思っていた相手だし………

 でも、今世の俺がストップをかけるんだ。今には今のやりようがある。何でか大昔の人間の刀貴が高校生をやれてる事実に、嫁に来いもまかり通ってしまう様な気がしないでも無いんだけど。


「刀貴って、何歳なの?」

「いきなりだな?」

「だって、ずっとそのままの姿なんだろ?」
 

 見たくも無い妖刀の力のせいだと言ってだけど。


「さて……数え忘れて久しいな…」


 刀貴も少し眠いのか、声に力が入ってない。


「…これからもずっとそうなのか?」


 ゆうらが手に入るまで、今までずっと一人で生きてきた人…もう人間離れしてる存在だと思うんだけど、まさかこれからもずっとそうなのか?自分だけ年取って老けて行っても、刀貴はこのまま?それは少し寂しい気がする…いずれ、また置いていく事になるし…


「嫌、それは嫌だ…もう待たなくて良いのに…お前と共に生きたい…」


(そっか…待つ事に飽き飽きしてるのは刀貴の方だろうしな…)


「紫を、あるべき所に戻す。それも約束のうちだ………」


 そう言って、刀貴はスゥッと寝息を立て始めた。


「妖刀…紫……」


 まだ名前を聞くだけで背筋にゾワッと寒気が走る。刀貴の家に来てからまだ目に入る所に妖刀がないことは救いだが、今までの歴史があるので、多分自分から見たり触ったりはできないと思う。

 昔々、ゆうらが産まれるよりももっと前から神社に祀られていた御神体……それに命を奪われ続けて、またそれに愛しい人を生きながらえさせてもらってきた。感謝すれば良いのか、恨めば良いのか複雑極まりない…





 妖刀紫、桐矢神社の御神体にして現在刀貴の所有物。妖刀と言われるだけあって、現在にも一癖も二癖もある逸話が残されている。
 神主以外の者を全て呪い殺すとか一度血に触れれば血が血を呼び、あたり一面地獄絵図になるとか…その昔、この妖刀を抑えることができた剣士がこれを鎮めるために神社を建て、刀の狂気に当てられ狂った神主を鎮めるために女達があてがわれてきたとかなんとか……

 現当主、神主である蒼梧の父は飄々とした人物だが殺戮に狂ってはいない。近年でも桐矢神社にはそんな凄惨な歴史は残っていない。だからこれらはただの言い伝えで逸話の括りだろうが、刀の刃をこの身に受けてきた者からしたら、あながち逸話で終わらない様な気がしないでも無い。


「約束って…?まだ俺の知らないことあるよな?」

 静かに寝息を立てている刀貴の短めな髪を少し弄びながら、自分も本格的な眠気に負けてしまった…









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