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しおりを挟む………鬼の所業とは正にこの事よな………
照明一つ点いていない真っ暗な室内で人ならざる者の、声にもならない声が響く。
「やっと手に入ったのだ…水を刺すな…」
………腑抜けた顔をする………
「何とでも言え…」
………つまらぬ…我を抜かぬのか?………
「此度はやらんと言ったはず。」
暗闇に響く男の低い声と人ならざる者の声。
「…やはり、無理をさせた…」
暗闇の部屋で男がそっと撫でているのは、目の前に寝かされている人間の頬。人ならざる者の声の主はここには見えない。
………すっかり腑抜けおって、情けない………
「………ん………」
目を開けようとしたけど、瞼が酷く重い…身体の隅々に力がまるで入らなくて指を動かすのでさえ億劫だ。
「……………」
周囲は真っ暗…そして身体が動かないと言うのに、この状況に対して恐怖は無い。それよりも身体がジンジンする様な、暖かい様なだるい様な、変な感覚…
「気がついた…?」
直ぐ側で知った声がする。でも声だけ…部屋が真っ暗で見えないんだ。
「動くな…まだ身体が痛むだろう?」
知ってるんだけど、誰だ?と身体を起こそうとして先に声の主に止められる。命令口調なのに、声が優しい…?
(誰だ…?良く知っている様な、つい最近身近で聞いた様な…)
「無理をさせて、済まなかった…まだ夜中だ。良く寝て…?」
そう…良く寝る。凄く疲れてるんだ。酷い疲労で頭が回らないほど…
(誰だっけ…この声…………)
「……………っ!?」
(誰だっけ、じゃない!!山手じゃん!)
朝日が眩しい部屋の中で目が覚めてみれば、夢かと思った昨日の男の声は紛れもなく学校で自分を押し倒してきた山手のものだって!
「い……って…………」
ガバッと勢いよく起き上がったつもり……そう、つもりだったのに……上半身を起こした所で全身の筋肉が悲鳴を上げた。
「な…ここ、どこ?」
(確か、俺達学校……?まさか、学校でいたしてたん?)
さぁ…と顔から血の気が引いてくる。誰かに見つからなかっただけ良かったのかもしれないが、昨日、確かに学校の用具室の中で……
「まっじで……?嘘だろ…」
(けど、途中まではしっかり覚えてる…嘘じゃぁないな……どうする?どんな顔して……)
「ていうか、ここ、本当にどこ?」
ゆっくりと身体を起こし直して、ぐるっと見回した部屋は純和風な感じ。なんだか知っている気がしてならないんだけど…?
「起きたね…?」
部屋の奥から聞こえた声は、良く、そう良く知っている声だ…
「山手君…?」
「身体平気?」
「…まさかと思うけど、ここ、山手君家?」
「そうだよ?あのままあそこで夜を明かすわけにはいかないしね?君の事も心配だったし、あの姿のまま返すわけにもいかなかったし、家に泊まってもらったよ?」
遅くなったし危ないから泊まって行ったら、的なのりで山手は言ってくれるけど……
「あの…俺、昨日……」
頭が起きてくれば記憶だって甦るんだ。だけど、もうそれ以上言葉にならない…
「どうだった?」
山手は奥の台所から盆に乗せた朝食らしきものを運んできていた。それを布団の横に置きながら、顔色一つ変えずに聞いてくる。
どうだった?これは多分、昨日の行為に対する感想………
かぁぁぁぁ…!一気に顔中熱くなる。
何をしてたか、自分が何を言ったか、何をしでかしていたかと考えたらまともに山手の顔が見れない…
熱くて…変な汗まで出てきた……
「…嬉しかった……君とああなれて…」
楓矢の答えを待たず、山手はそっとつぶやく様に吐き出した。
ニッコリと笑顔を向けてくる山手の瞳はただただ優しい。
「覚えて…無い…途中から…何してたのか………」
「俺は覚えてるよ…全部。」
「………忘れてもらっても………?」
「駄目、絶対に断る。やっとこの手に掴めたんだ。死んでも断る。」
消え入りそうな声で無かったことにしようと言った提案は速攻で拒否された…
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