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(まだお前、俺から返事ももらってないんだろ?)
結果なんてまだ出してないのに、山手の顔を見てるだけで……悲しい、寂しい、苦しい……でも酷く愛しい……こんな感情の渦、知らないはずなのに心の底から湧き上がるみたいな感覚に襲われる。
「泣かないで…?宝利君、無理させた…」
いつの間にか側に来ていた山手の大きな温かい手が頬に触れる。
「…泣いてないって……」
信じられない事に、俺が泣いてる…
「泣きそうなのは、いつも山手君だろ…?」
だからもう、傷ついてほしくなくて、悲しまないでほしくて、出来ればさっきみたいに幸せそうにずっと笑っていてほしくて………なんでだか知らないけど、ずっとこんな願いを引きずってきた様に思う…
「僕……?」
「そう…いつも、泣きそうなのは……」
いつも、最後の時は苦しそうで…きっと自分が泣いているのなんて気がついていないほど苦しんで、悲しみ悶えてる……
だから………
「もう、いいんじゃない…?十分だろ?止めたって誰も文句なんか……」
どうしてそんな言葉がすらすら出たのか、どうして山手が悲しんでるんだとか、良く考えてみればなんの事だか説明なんて出来ないけど、この時はこれしか出てこなかった。告白の答えとかそんな浮かれた話じゃすまない程、なんだが腹の辺りがこんな気持ちでみっちり詰まって、息もできない程だった。
「……………」
一瞬、山手は綺麗な瞳を大きく開けて、ピタッと動きを止める。頬にはまだ山手の手が添えられてて、少しだけ震えている様に感じた。
「いいの……?」
「……?」
「僕が………もう、止めても…?」
「…山手君が苦しいなら、もういいんじゃん…?」
この返答であってるかなんて考えられる余裕はない。山手に言ったもう止めたら、が何を指しているのかも知る由もない。それが自分にどんな風に降りかかってくるのかとかも、もちろん知らない。
泣いているらしい俺はその自覚もなく、ボゥッとした感覚のまま、ただ山手を見ている。今の言葉で少しでも山手が楽になればいいと、それだけ気にして見つめてた。
また、笑ってほしくて……
(私がいいと言うまで、私を殺して……)
夢の中の少女は言う。目の前で恐ろしい切先を少女に向けて振り下ろそうとしている男に向かって…
和装を着た少女は全部をその男に委ねる様に手を広げて………
男の腕が更に上がる。異様にギラギラと輝く日本刀の怪しい刀身がやけに生々し過ぎて、夢だろうと頭の隅では分かっていても、つい、叫ばずにはいられなかった。
「待って!!待てったら!!」
男の後ろ姿は今日見てきた山手に瓜二つで……刀身の生々しさと相まって映像やら夢だなんてものでは片付けられない様な焦燥に駆られる。
「もう…もう止めろ!!もう、殺さなくていいから!!」
山手と同じあの表情…絶対に泣いてるとしか思えない顔しか今は浮かばなくて、叫ばずにはいられない。
あんな顔をさせたかったわけじゃない。苦しめたかったわけじゃない。
本当は、本当は……ただ側にいたかった…当然の様に隣に立つことを許されたかった…愛し愛される喜びを互いに分け合いたかった……ただそれだけ…
「もう良いって!!もう殺すな!!!」
いつもこっちの声は向こうには届かない。何度止めても、惨劇は終わらなかったのに。
今日は違った…
………私は、貴方。貴方は、私………
すぐ近くで声がして、ばっと目が覚めた。
(あいつ……また、キスした………)
夜も明けきらない自室の暗闇の中、勢いよく跳ね起きた姿勢のまま楓矢は肩で息を吐く。
山手の家での記憶は……様子がおかしかった楓矢の顔を包み込む様にもう一度、触れる様な労わる様な、そっと触れてきた山手のキスが鮮明で…色々おかしな事を口走っていたのに、そんな事に一切気が回らない。
「あいつ…もう、あんな顔しなくなるかな……」
酷く苦しそうな山手の顔を思い出すだけで、ぎゅうっと胸が締め付けられる。
結果なんてまだ出してないのに、山手の顔を見てるだけで……悲しい、寂しい、苦しい……でも酷く愛しい……こんな感情の渦、知らないはずなのに心の底から湧き上がるみたいな感覚に襲われる。
「泣かないで…?宝利君、無理させた…」
いつの間にか側に来ていた山手の大きな温かい手が頬に触れる。
「…泣いてないって……」
信じられない事に、俺が泣いてる…
「泣きそうなのは、いつも山手君だろ…?」
だからもう、傷ついてほしくなくて、悲しまないでほしくて、出来ればさっきみたいに幸せそうにずっと笑っていてほしくて………なんでだか知らないけど、ずっとこんな願いを引きずってきた様に思う…
「僕……?」
「そう…いつも、泣きそうなのは……」
いつも、最後の時は苦しそうで…きっと自分が泣いているのなんて気がついていないほど苦しんで、悲しみ悶えてる……
だから………
「もう、いいんじゃない…?十分だろ?止めたって誰も文句なんか……」
どうしてそんな言葉がすらすら出たのか、どうして山手が悲しんでるんだとか、良く考えてみればなんの事だか説明なんて出来ないけど、この時はこれしか出てこなかった。告白の答えとかそんな浮かれた話じゃすまない程、なんだが腹の辺りがこんな気持ちでみっちり詰まって、息もできない程だった。
「……………」
一瞬、山手は綺麗な瞳を大きく開けて、ピタッと動きを止める。頬にはまだ山手の手が添えられてて、少しだけ震えている様に感じた。
「いいの……?」
「……?」
「僕が………もう、止めても…?」
「…山手君が苦しいなら、もういいんじゃん…?」
この返答であってるかなんて考えられる余裕はない。山手に言ったもう止めたら、が何を指しているのかも知る由もない。それが自分にどんな風に降りかかってくるのかとかも、もちろん知らない。
泣いているらしい俺はその自覚もなく、ボゥッとした感覚のまま、ただ山手を見ている。今の言葉で少しでも山手が楽になればいいと、それだけ気にして見つめてた。
また、笑ってほしくて……
(私がいいと言うまで、私を殺して……)
夢の中の少女は言う。目の前で恐ろしい切先を少女に向けて振り下ろそうとしている男に向かって…
和装を着た少女は全部をその男に委ねる様に手を広げて………
男の腕が更に上がる。異様にギラギラと輝く日本刀の怪しい刀身がやけに生々し過ぎて、夢だろうと頭の隅では分かっていても、つい、叫ばずにはいられなかった。
「待って!!待てったら!!」
男の後ろ姿は今日見てきた山手に瓜二つで……刀身の生々しさと相まって映像やら夢だなんてものでは片付けられない様な焦燥に駆られる。
「もう…もう止めろ!!もう、殺さなくていいから!!」
山手と同じあの表情…絶対に泣いてるとしか思えない顔しか今は浮かばなくて、叫ばずにはいられない。
あんな顔をさせたかったわけじゃない。苦しめたかったわけじゃない。
本当は、本当は……ただ側にいたかった…当然の様に隣に立つことを許されたかった…愛し愛される喜びを互いに分け合いたかった……ただそれだけ…
「もう良いって!!もう殺すな!!!」
いつもこっちの声は向こうには届かない。何度止めても、惨劇は終わらなかったのに。
今日は違った…
………私は、貴方。貴方は、私………
すぐ近くで声がして、ばっと目が覚めた。
(あいつ……また、キスした………)
夜も明けきらない自室の暗闇の中、勢いよく跳ね起きた姿勢のまま楓矢は肩で息を吐く。
山手の家での記憶は……様子がおかしかった楓矢の顔を包み込む様にもう一度、触れる様な労わる様な、そっと触れてきた山手のキスが鮮明で…色々おかしな事を口走っていたのに、そんな事に一切気が回らない。
「あいつ…もう、あんな顔しなくなるかな……」
酷く苦しそうな山手の顔を思い出すだけで、ぎゅうっと胸が締め付けられる。
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