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「それで、僕は君が好きなんだけど……」


 何故か、また山手を目の前に山手の家の畳の上に座っている俺………

 放課後話があると言ってきた山手へ、蒼梧から人身御供のよう送り出された俺…
山手のより、俺の一瞬固まった表情からやや深刻なものを蒼梧は感じ取った様で、蒼梧は揶揄う様子もみせず有無を言わせず背中を押して送り出してくれやがった……それを拒否せず、ちゃんと大人しく着いていく俺も俺で、俺自身がよく分からん…


 で、今男友達から2度目の告白……


「………………」 


 どうした……?山手よ……すっかりと草食系男子だと思っていたお前のイメージが、ここ数日でガラガラと崩れていくよ……
告白よりも何よりも先に、ガッツリそう言う関係を求めてきたなんて、今の爽やかそうなお前の表情からは思いつきもしねぇよ…


(で…?そんな事言われてもな……今すぐどうこう答えられるものじゃないだろ!?)

 すっかり固まる俺の顔には愛想笑いも貼り付けられないのに、山手はスッキリさっぱりしたいつもと変わらない表情がなんとなくムカつく…

「あの…さぁ?」

「ん?」

「山手君の気持ちは、一応分かった…」


(受け入れるかどうかはまた別だけど…)


「でも…なんで俺?」

 最大限の疑問だ。山手が転校してきてからといって、クラスメイトだと言うこと以外のことを除けばほぼ関わりなんて無かったのに。


「ずっと……ずっと、昔から好きなんだ…」

 整った山手の表情の穏やかなこと…


(普通もっと照れたり、はにかんだりしないか?)


 照れ臭そうにもせず頬も染めずに、10代男子が結構な2度目の告白をサラッと口にする事の、なんと言う違和感……


「ずっとって…そんなに…?前にあった事ないだろ?」


 なんだろう、この違和感。告ってくる本人よりも、告られてるこっちの居心地の悪さと言ったら……


「そう思う?」

 伏目がちにお茶なんて飲んでた山手の視線がスッと上がる。黒い綺麗な山手の瞳孔を見つめれば、冗談なんてものは吹き飛んだ。

(ごめん…罰ゲームか何かでやらされてるのかと、一瞬山手がいじめにでもあってるのかと思った……)


 じっと見つめる視線は動かなくて、なんだろう…何か、答えを求めるよりも、懐かしそうに、ただ見つめている、そんな印象を受ける。


「分からん……」
 
 本当に、分からん。山手が何を考えているのかも、本当のところ何が言いたいのかも……


「もう一度言う?」
 
「うえ!?」

(もう一度って、告白を!?)


「いい!!いいって!もう言わなくても良いから!」

「でも、宝利君納得してないでしょ?」

「あのな?一応お前の、山手君の気持ちはわかったって!けど、なんで俺が好かれるのかなんて自分自身で納得できないだろ?」

「あぁ、混乱させちゃったのかな?」

「するだろ?普通!付き合う前にあんなことしておいて!」

 あんな事の色々がブワって頭の中でフィードバックして、山手の前で盛大に赤面してしまう…


「君には刺激が強かったよね?」

 少しクスリと笑われて、こっちは悪かったな、童貞でって!ってなるの、仕方ないよな!?
 山手の言動にワナワナと震えてきそうだ。

「よかったよ。君が誰のものでもなくて…」


 こっちは怒ろうかどうしようかの瀬戸際なのに山手はそれはそれは嬉しそうに笑いやがる。これが今まで見たことない様ないい笑顔でやんの…


「お前のものでもないけどな……!?」

「……そう?残念だな。宝利君、僕のものにならない?」

「なんでだよ!?」

「僕の事、嫌い?」

「……………!?」


 当たり前じゃないか!?そう言おうとしてたと思う。だって、山手は付き合いは短いが友達としてはいい奴だと思う。けど男を恋愛対象として見たことがない俺に取って、恋愛的な意味で好きかって言ったらそれは違うだろ?


 でも………でも…………


 山手の表情がそれを言わせなかった…
 

 端正な整った顔がこっちをじっと見る。慌てるでも、照れるでもなくて…感情が無いんでもない…感情の起伏は大きくないからしっかり読み取れないけど、酷く悲しそうな、寂しそうな、諦めた様な笑顔………


(なんで、そんな顔すんだよ?告白したんだろ?答えを聞きたいんだろ?なのになんでそんな寂しそうなんだ……?)


 真剣味を帯びた山手の顔が、心の奥底のものと重なる………


「そんな…顔…するなよ……」

  
 自分の声が酷く弱々しくて、少し震えてて…まるで自分の声じゃないみたいだった。








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