[本編完結]死を選ぶ程運命から逃げた先に

小葉石

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(馬鹿だ………!
 俺は地上で最悪の大馬鹿だ……………
 どこかで会わなかったかって?一生懸命介抱してくれたクラスメイトなんだから、それもとっくの昔に、山手が入学してきてから何度も会ってるだろ……
 それを……それを……したこともないけど、ナンパの常套句の様な台詞を恥ずかしげもなく、そのクラスメイトの前で吐いちまった……………!)


 山手はキョトンとした顔になっている。

 
(こんな事、言われた方も困るだろ………)


「ご、ごめん!いやぁ、一瞬、知り合いに似ている様な似てない様な感じでさ!あれってなっちゃって…ごめん、変なこと言ったわ…!」

「知り合い?」

「そうそう!」

「どこで会った?」

「どこだったかな~?夢の中かも?」

 自分で言ってみて、これが一番しっくりくる。前にも思ったのだが、山手は夢に出てくる剣士の男に良く似ているのだ。剣士の方は一度も笑っている所を見せなかったけど…

「夢…?宝利君がいつも見る夢?」

「ん?いつもってわけじゃないぞ?ま、時々……」

「どんな事をしているのかな?その僕に似ている人は…」

 柔らかい表情は変わりなくて、いつもの山手だ。

「何?興味ある?」

 
(そう言えば、さっきも聞いてくれたっけ…)


「うん…僕が、何をしていたのかは…切られる夢に関係ある?」

「………気を、悪くしたら嫌なんだけど…」

「うん。」

「夢で、俺を切ってるの、山手君にそっくりな人なんだよな…」

 なんでこんなにスルリと言葉として出たのか自分でも信じられないくらいだ。ずっと山手に頭を撫でてもらっててすっかり気が緩んでしまっていたからかもしれない。
  
 スッと細められる山手の瞳、どんな感情がその奥にあるのか、ちょっと読み取らせてはくれない様な不思議な感じ。
 失礼なことを言って、怒ったのとも、苛立ったのとも、呆れているのとも違う……


「山手君………怒った……?」

 人は時に無反応って怖いと感じると思うんだ。今、もの凄く山手の反応が怖い。

「ううん………」

「酷い夢だよな…?友達を殺人鬼みたいにしてさ?ほんと、ごめん!」


(言わなきゃよかった………)

   
 山手が怒っていないと言うのは本当だと思う。声のトーンも表情も何も変わらない。けど、怒ってないけど、何故か傷付いている様に見えてしまう…

「ううん……」

 怒るでもなく、気分を害した様に見えない山手は静かにそう呟くだけだ。

「でも、山手君の笑顔っていいな!あんまり大声で笑うタイプじゃないだろ?だから驚いたけど、クラスでももっと笑ったら良いのに。」

 悪いことをしてしまったと思う楓矢は山手の良い所を持ち上げようと必死だ。

「全く…君は。………と同じことを言う…」

 感情を読み取らせなかった山手の表情が一瞬ふわっと崩れて、それが先程の楓矢の様な泣き笑いにも見えた。

「え?誰って?誰か俺に似ている人がいるのか?」

「……ゆうら……」

「…ゆ?」


 誰だよ、その人…って聞き返そうとした所で、俺の視界が塞がれた…

 正しくは、目の前に山手の顔…お互いに密着する位に近付いてて、一部、完全に触れ合ってた……


(キス…してる……?)


 恥ずかしながら、女子との経験はゼロだ。勿論男子とも。だから楓矢がキスだと認識したのは、唇に触れた柔らかくて温かな唇から、もっと暖かくて柔らかくて湿った感触が楓矢の唇を刺激し出したから……

「…ふぅ…!」

 びっくりしたら身体がまずは反応する。反射的に山手から離れようとするんだが、いつの間にか楓矢の背中に回された山手の腕でガッチリと背中を抱えこまえてしまってる。顔を逸そうにも、頭の後ろには山手の大きな手……

 どうにも逃げ場が無い状態で、ただただ楓矢は山手から与えられる刺激を唇に受けるしかない。
 唇を舐められる感覚が生々しくて、背中がゾワゾワと泡立ち腰を捻る。

「んぅむ!」

 離せよ、って言ったつもりだった…力では絶対に身体の大きな山手が上だから、ちゃんと口で言わなきゃって…話せば分かる!そんな感覚で抵抗したのに……
 あろう事か口を開いた瞬間に、口腔内には侵入者が……

「んんっ!…っう……ん~ん!」

 口の中に入ってきた暖かい、けどゆるゆるした感覚…さっき散々唇を舐めてきた山手の舌って………

 楓矢がびっくりする暇もなく、ファーストキスの余韻に浸る間も無く、口腔に入って来た山手の舌は自由自在に、遠慮もなく楓矢の口腔内を触りだす。
 
「んっ…ぅ…っふ…」

 先程から楓矢の腰にはダイレクトに口腔内の刺激が響いてくる。痺れる様ななんとも言えない感じで、刺激が走る度に勝手に身体が反応して腰がビクリと勝手に動いてしまう。

「や…ぁ…っ…ふぅ……っ…」

 唇を塞がれてるのに、時おり漏れ出る声が止められない。

 
(まずいって…………)


 腰に響く痺れる様な感覚を楓矢は止める事ができない。


(まずい…!!!)


 グッと抱き寄せられているから、山手と距離を取ることは不可能…甘い痺れは隠しきれないほどの確かな疼きを持って主張していて、楓矢の脚の間に膝をついている山手にもはっきりと分かるだろう硬さを示す。

「ぁあっ…まっ……んっ……まぁっ…!」

 待ってと声に出したいのに、山手は息を付く時間さえ与えてくれなかった。




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