[本編完結]死を選ぶ程運命から逃げた先に

小葉石

文字の大きさ
上 下
9 / 46

9

しおりを挟む
「え?何、それ?俺らの班は決まってんの?」

 日本史選択の自由研究題材を唐突にグループメンバーから聞かされたのは昼休みを過ぎてからだ。

「あ、うん……先生がね?この班にはエキスパートがいるからって……」

 ちょっとおどおど話すのは、山手君だ。地元史、伝承についての自由研究なのだが何故だか自由研究班は担当教師に決められてた。

「まぁね…蒼梧いるしね?」

 山手、俺に、蒼梧の3名が組む事になっている。言わずもがな蒼梧は神主の息子だし、俺の家も大昔から関わってるしこの地元の伝承についてならこれ以上の適任メンバーはいない。で、山手君だが、おどおどしていて気は優しい彼、実は学年トップレベルの学力を誇っている。金銭的に苦学生なのは知っていたしバイトもしているのも知ってる。だけど学力の面では授業料を大幅にカットしてもらってるみたいだ。
 その秀才君も使って地元の歴史について素晴らしいものを作り上げよ、と言うのが教諭の本音と見た。

「やっぱ…似てるな…」


 夢で見たあの男…あの人はもっとほっそりとした精悍な顔つきだったか…?視線も鋭くて、振り向いた瞬間、射抜かれた様な視線にはゾクリとした寒気さえ感じたほどだった。


(人を…切ってるんだろうしな………)


 嘘か誠か…夢の話でならばそうなのだから……


 打って変わってこちらは平和。みんなギラギラしたところがない、どっちかと言うとほんわかとしているキャラが集まってるし…

「ん?宝利君?何に似てるって?え、と僕の聞き違いかな?」

 
(ほら、ほんわかオーラ全開。)


「いんや、勘違い……で~どうする?誰ん家でやる?」

 はっきり言ってレポート量が学校で済ませられる量じゃない。放課後使って誰かの家でやった方が効率もいいし。

「あの…良ければ、僕の家でどう?」

「おや?」

「ん?山手君の家?」

「そう。家には僕一人だし…」

「へぇ~一人暮らし?かっこい~。」

 蒼梧が尊敬の眼差しを向けるなんて珍しい。

「いや、そんなに格好良くないよ?僕、親を亡くしてるからね。一人でやってくしかないんだ。」

「え?」

「あら…?」

 ちょっとびっくりした事実だ。俺も蒼梧も目を大きく開いてしまうほど。

「あ、ほら…皆んなそうやって気を使うだろ?だからあんまり言ってないんだ。そんなんだからさ、二人とも黙っててくれると嬉しいんだけど?」

「お、おう…!」

「いいよ~だから、苦学生、ね…」

 理事の親戚である蒼梧だって全生徒のあれこれを把握しているわけじゃないだろうから初耳だったようだ。

 こんな重大な現実を背負ってても山手は優等生をキープしてる。俺の中で苦学生から凄いやつに昇格したわ…
 
 取り留めない事を話しながら昇降口で、何を買っていくだのと相談中。

「せ~んぱい!宝利先輩!」

 見なくてもぴょんぴょんと声だけで跳ねているのがわかる。


(女子ってすげぇ……)


「あ?」

 靴を変えようと屈んでる俺の前に1年を示す上履きを履いている女子が立っているのが見えた。

(誰だっけ?)

 素直な感想ならばこれ。きっと怪訝そうに顰めっ面をしてたんだと思う。

「あ~~私の事忘れてません?」

「え?いや、えっと~~~?」


(顔は見たことある。そう、図書室であったよな?で、名前、何だっけ?)


「あ!やっぱり忘れてる~~!麻耶です!上条麻耶!お友達になってくれるって言ってたじゃないですか!もぅ~」

 少し頬を膨らませた様に怒ってるんだぞ、アピールをする女子って可愛いな……


(そう、自分と関わらなかったならば!)


「へ~~~~~え?お友達?麻耶ちゃん?」


(蒼梧、へぇが長くね?)


 面白そうに楓矢の肩にガッチリと腕を組んでくる蒼梧。ぎっちりと離さないぞオーラが凄い…

「あ、ここ、こんにちは………」

「はい、こんにちは~~1年?」

「は、はい!1年3組上条麻耶です!」

「ふふ。1年生は元気があるねぇ。で、楓の友達なの?」

「あ、はい!」

「いつから?」

「えっと……この間、図書室で会いまして………」


 俺に対してはグイグイくるのに麻耶は蒼梧を前にするとどんどん態度が小さくなってくる。ま、蒼梧が気になるって言ってたしな……
 図書室で会った。そうそう、思い出した。蒼梧に近付きたくてまず何故だか俺に慣れようとしてたんだっけ?


「ふ~~~ん。楓、何にも言ってなかったじゃん?」

 楓矢が図書室で寝入ってしまった日。一限終わってから案の定蒼梧が起こしにきた。積もっていた睡眠不足が少し解消されて、さっぱりとしていた俺はすっかりそんな事忘れてたけど。

「あん?何で全部蒼梧に報告するの?蒼梧だって俺に全部を言ってる訳じゃないだろ?」


(付き合っているんだか、付き合っていないんだかよく分からない女子のあれこれそれこれ………幼馴染の俺だってよく知らんよ?)


「だってさ~水臭いじゃん?相談してくれればアドバイスしたのに~」

「何のだよ………」


(全くそういう雰囲気になり得ない関係なのに?)


「ここで言ってもいいの?」

 ニヤリ、蒼梧が意地悪く笑う。


(くっそ!こういう事にかけてはこいつの方が経験豊富だからな。何か変なこと口走って墓穴を掘りたくはない。)


「何をだよ?」

 ニヤニヤ笑う蒼梧に対し、徐々に険悪な表情に変わってくる俺。

「あの~~先輩達って、本当に仲良しですね?いいなぁ……」

「でしょ~~?ちっさい時から一緒だからね?兄弟みたいなもんよ~」

「はぁ……で?上条はどうしたのよ?」

 何の為に呼び止められたのか知らんままだし…
















しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

処理中です...