[本編完結]死を選ぶ程運命から逃げた先に

小葉石

文字の大きさ
上 下
8 / 46

8

しおりを挟む
「……う」

「……楓……!」

「……楓!」

「…………ん………?」

 目を開けたら目の前には蒼梧のドアップ。

「……おわ………」

 半ば寝ぼけたまま、蒼梧の顔を押し戻す。

「俺、寝てた?」

「ん、ガッツリ寝てた。ほれ……」

 ポン、と頭に乗せられたのは薄い本みたいだ。

「何?」

「楓が欲しいって言ってた物?パピーから貰ってきた。」

「あ。サンキュ…」


(まさか、こんなに早く見れるとは思わず…)


「楓が見たかったのは、これだろ?」

 呆けた俺の前には古い資料であるにも拘らず随分と新しい物だ。

「昔の原本は保管されてるけど、こっちは複写版。分かりやすくしてあるってさ。」

「俺、読んでも良いのか?」

「良いも悪いも、うちら若い世代のために描き直されたもんだし?読んだ方がいいんじゃねぇの?」

「あ、なる…」

 ゴロリと転がったままペラペラと本を捲る。初版の物ならきっと古文かと思われるくらい難しくてきっと読めない。けど現代文で書き直されているこの本は、堅苦しい事が書いてあるのを除けばまぁ、読みやすいものだ。

 丁寧に目次もあって、それを頼りに開いていく。

「……似てたよな…?」

 サラリと読みながら、未だに残る夢の感想。

「だ~れが?」

「…夢で見た人…」

「何?楓の願望出てきた?」

「…え、願望?」

「ほら、夢の中で本音を見るとか?」

「…………」


(それは、ちょっと笑えない。そんなだとすると、俺はクラスメイトを殺人鬼だったら良いと思っていることになる…)


「いや…ありえん…」

「そんなに面白そうな夢だった?」

 蒼梧がゴロンと寝転がって、あくびをしながら目を瞑る。


(ま、もう良い時間だし眠くなるか…)


「いや、胸糞悪りぃやつ…」

「ホラーか………」

 蒼梧はガタイはいいがホラーは苦手。めっちゃ嫌そうな顔をしながら部屋の電気を消す俺の方をじっと見つめてる。

「まぁ、な~それに近い…」

「よし、一緒に寝てやる!」

「はい?」

「だから、楓と寝てやるから!」

 蒼梧は人をベッドに引き摺り込んで、暑苦しい事この上ないのに、ガッチリとひっつきながら寝ると言う…

「勘弁して………」

 ただでさえ、夢見が悪かったのに、これじゃあ拷問だ……

「何言ってんの?二人でいれば怖くないだろ?」

「お前こそ何言ってんの?そんなの子供の戯言だろ?」

「やだ!楓が悪いんだからな?」

「何で、俺?」

「ホラー、見たんでしょ?」

「う………」


(ある意味、否定できない………)


「ほら!だから責任取って一緒に寝る!」

「蒼梧!お前、いつもどうしてんだよ!」

「え?そんなの。女の子呼んだり、行ったり?」

「うわぁ……」

 
(こう言うやつだった……)


「だって、今日は楓達のせいだし?責任とって~」

 絶対、こいつ大丈夫だろ…って俺の本能が叫んでる…楽しそうに目をキラキラさせちゃってさ、一足先に大人の階段登ってやがるのに、まだまだガキっぽい。

「しょうがねぇなぁ…」


(キラキラの瞳に負けてやるか…)
 

 ベッドサイドの照明だけつけてさっき開いたページを捲る。

「やっぱ、楓のことだろ?」

 そのページには紫の瞳を持つ者は、非常に子孫を残しやすいとあった。だから神社の存続と繁栄の為に大昔から差し出されていた。
 
「俺って言われてもな…」

 頭の隅に残る少女の痴態…あれだけ性に執着すれば子作りだって問題なくこなせそう…………だが…………
 
「まぁね~楓がどっかで子作りしたわけじゃないしね。」

「女に限るんじゃないの?」

「さぁねぇ?」

「じゃなきゃ、お前の方が当てはまるじゃん……」

「え、ひど……」

 この資料に書いてあることで、紫の瞳を持つ女子が理に適った者であった事は分かった。そして夢の中で見た様な性質を持ち合わせているとはどこにも書いてはおらず、また夢のような殺され方をしてきたとも書いていないのは救いだった。


(夢だしな…あれが本当かどうかなんて分からない…)


 そう、ただの夢だとしたら、何度も泣きながら殺してくれと嘆願する少女も、その少女を苦しみながら刺し殺す男もいなかった事になるのだから。


(似てたのは…そうだ、他人の空似だ。)


 この世には自分のそっくりさんがいるらしいから、よく似た人間がいても大した問題ではないだろう。

「蒼梧寝るぞ…」

 楓矢が言った事に蒼梧はまだブチブチ言いながらも、ちゃんと布団をかけ直し寝に入る。


 いつもの夜で、しょっちゅう来ていた幼馴染の部屋、変な夢を見たって変わらない日常がここにはある。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...