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シャリ…シャラン………
簪が音を鳴らす。
いつもの、夢だ……
夢なのに、本当にあったと事だと信じられる位には何度も繰り返される夢…
見ている側なのに、どっちが現実か分からなくなりそうで…
「なんで、逃げなかった…?」
ずっとこの夢の住人に聞いてみたいことが今日はすんなりと口をついて出てくる。
「そんなに嫌だったら、逃げて好きな男とでも一緒になればよかっただろ?」
紫の瞳をした少女は神社に嫁ぐ事が嫌なのだろう?死を受け入れてしまうほどに。
だったら、とっとと逃げれば良いんだ。逃げてこんな街、捨ててしまえばいい。好きな男がいたなら尚更で、そいつと一緒に駆け落ちでもなんでもすればよかったんだ。
(死ぬ必要なんてない……!)
夢で見る少女達の年齢は様々。だけど、1番最初は今夢に見ているこの少女だ。
長い黒髪に簪を刺して、多分着物を着ていると思う。濃い紫の大きな瞳は毎日鏡で見ている自分のものと同じ色だ。
少女はすっとその瞳を悲しそうに細めて、前方を指差した。
「何?」
今までにない展開に少し戸惑う。今までだったら問答無用で少女が刺されていく夢が繰り返されていたから。
指差す方向にもう一場面のシーンが映る。
映画の濡れ場…さながらの際どい映像が流れていく。半裸の女に覆いかぶさる男の姿。激しく動く腰つきや女の嬌声が艶かしくて…言葉に詰まった。
「な………」
何を見せられているか一瞬理解に苦しんだが、明らかに男女のベッドシーンだろう。常と違うのは女の求め方が尋常じゃなかったからだろうか。動き止まぬ腰つきに、男が果ててもまだ求める。扇情的な印象よりも狂気に近いその行為に、吐き気すら覚えて目を背けたい衝動に駆られた。
「なんだよ…これ…」
(嫌だった…こうなるのは嫌だった…)
絶望的な少女の声。振り返ればポロポロと涙を流している。
(私達の宿命…)
「え…?」
『だから私と逃げれば良いと…!』
まだ映像は終わってなかった。紫の瞳の少女の隣に後ろ姿の男が映る。
(こいつ……)
見覚えがある、この後ろ姿に。いつもいつもこの夢の中で少女達を刺し殺す殺し屋の様な男だ…!
『無駄なの……逃げても、無駄なの…貴方と契ったら、私は人ではいられなくなる……』
悲鳴の様な少女の声に、絶望を貼り付けた様な男の背中。
(人では、無くなる…?)
先程の性欲のタガが外れた様な少女の姿
…人間としてのはじらいも、理性もそんな物はかなぐり捨てた様な姿だった。
(まさしく、獣……)
そんな姿にこの少女がなるのか?今、隣でポロポロと泣いている儚い少女が?
『…殺して、私を好きなら殺して…!』
『出来るわけが、無いだろう…!私が、お前を斬るのか…!』
『生きている限り、私は連れ戻されて差し出されるでしょう?生きて、貴方にあんな姿を見せろと……?その後は……?どうやって、生きていけばいいの!?』
絶望だけが漂う映像…そこにはどこにも出口となる回答がなかった…
(あの方は私の護衛でした。死のうにも、常に見張りがいる。逃げても連れ戻されるか、好きな者とは一生添い遂げられ無い…逃げられても生きているだけで、いつああなるか…私には耐えられなかった……)
楓矢と同じ年代の少女だ。その潔癖さ故に、ああなりたく無いと思うのも肯けるのだが…あまりにも潔すぎでは無いのだろうか…
「あれを…我慢するとか…は?」
(欲を、自分で制するのは難しいものでしょう?好いた方の前で…あの姿には………)
ポロポロと涙を流す少女。
清らかな、ただ相手を思う恋…
『そこに持っておられるのは妖刀紫…どうか、どうか…どうか…!私を好きでいてくれるのならば、どうか!私が良いというまで、私を殺してくださいませ!!』
ここで、男は少女の胸を貫くのだ。血を流しながらも、満足そうに少女は笑う。その細くくずおれていく少女の身体を抱きしめる腕も、蹲って動かなくなった男の背中も深い後悔と悲しみに、いつまでも震えていた…
『お前が…落ちよと言うのなら俺は鬼にも身を落とそう…お前が……良いと言う日まで…………』
「ばかみてぇ…」
到底現代ならこんなの考えられない。
けれど、この馬鹿げた夢の大まかな流れがやっとわかった…少女は、自分が獣になる事に耐えられなかったんだ。
それに、馬鹿正直に男が答えたんだ。
「2人とも、バカだ……」
彼らにとってはもうそれが最善だったんだろう。けど、こんなのは嫌だと思う。理解も同調も全くできない。
(そうするしか…なかった…次に次にと託すしかなかったの……)
目の前の映画の様な映像は消えて、横にいる少女と一緒に取り残される。
「じゃ、じゃあ…今まで見てきた女の子達も?」
(……)
コクリ…声無き答えが返って来た。
(私達は皆同じ……宿命ですもの…)
はっと目覚めてみれば、自分の部屋で…全身は汗びっしょりで、生々しい緊張感がまだ残っている。楓矢の心臓は動悸が止まず、先程見た夢は実際に目の前で起こったことの様に鮮明に脳裏にも残っていた。
「まじか……宿命ってなんだよ……」
やっと熟睡できるかもしれないと思ったところをこうやって不意打ちで夢が追い打ちをかけるんだ。
簪が音を鳴らす。
いつもの、夢だ……
夢なのに、本当にあったと事だと信じられる位には何度も繰り返される夢…
見ている側なのに、どっちが現実か分からなくなりそうで…
「なんで、逃げなかった…?」
ずっとこの夢の住人に聞いてみたいことが今日はすんなりと口をついて出てくる。
「そんなに嫌だったら、逃げて好きな男とでも一緒になればよかっただろ?」
紫の瞳をした少女は神社に嫁ぐ事が嫌なのだろう?死を受け入れてしまうほどに。
だったら、とっとと逃げれば良いんだ。逃げてこんな街、捨ててしまえばいい。好きな男がいたなら尚更で、そいつと一緒に駆け落ちでもなんでもすればよかったんだ。
(死ぬ必要なんてない……!)
夢で見る少女達の年齢は様々。だけど、1番最初は今夢に見ているこの少女だ。
長い黒髪に簪を刺して、多分着物を着ていると思う。濃い紫の大きな瞳は毎日鏡で見ている自分のものと同じ色だ。
少女はすっとその瞳を悲しそうに細めて、前方を指差した。
「何?」
今までにない展開に少し戸惑う。今までだったら問答無用で少女が刺されていく夢が繰り返されていたから。
指差す方向にもう一場面のシーンが映る。
映画の濡れ場…さながらの際どい映像が流れていく。半裸の女に覆いかぶさる男の姿。激しく動く腰つきや女の嬌声が艶かしくて…言葉に詰まった。
「な………」
何を見せられているか一瞬理解に苦しんだが、明らかに男女のベッドシーンだろう。常と違うのは女の求め方が尋常じゃなかったからだろうか。動き止まぬ腰つきに、男が果ててもまだ求める。扇情的な印象よりも狂気に近いその行為に、吐き気すら覚えて目を背けたい衝動に駆られた。
「なんだよ…これ…」
(嫌だった…こうなるのは嫌だった…)
絶望的な少女の声。振り返ればポロポロと涙を流している。
(私達の宿命…)
「え…?」
『だから私と逃げれば良いと…!』
まだ映像は終わってなかった。紫の瞳の少女の隣に後ろ姿の男が映る。
(こいつ……)
見覚えがある、この後ろ姿に。いつもいつもこの夢の中で少女達を刺し殺す殺し屋の様な男だ…!
『無駄なの……逃げても、無駄なの…貴方と契ったら、私は人ではいられなくなる……』
悲鳴の様な少女の声に、絶望を貼り付けた様な男の背中。
(人では、無くなる…?)
先程の性欲のタガが外れた様な少女の姿
…人間としてのはじらいも、理性もそんな物はかなぐり捨てた様な姿だった。
(まさしく、獣……)
そんな姿にこの少女がなるのか?今、隣でポロポロと泣いている儚い少女が?
『…殺して、私を好きなら殺して…!』
『出来るわけが、無いだろう…!私が、お前を斬るのか…!』
『生きている限り、私は連れ戻されて差し出されるでしょう?生きて、貴方にあんな姿を見せろと……?その後は……?どうやって、生きていけばいいの!?』
絶望だけが漂う映像…そこにはどこにも出口となる回答がなかった…
(あの方は私の護衛でした。死のうにも、常に見張りがいる。逃げても連れ戻されるか、好きな者とは一生添い遂げられ無い…逃げられても生きているだけで、いつああなるか…私には耐えられなかった……)
楓矢と同じ年代の少女だ。その潔癖さ故に、ああなりたく無いと思うのも肯けるのだが…あまりにも潔すぎでは無いのだろうか…
「あれを…我慢するとか…は?」
(欲を、自分で制するのは難しいものでしょう?好いた方の前で…あの姿には………)
ポロポロと涙を流す少女。
清らかな、ただ相手を思う恋…
『そこに持っておられるのは妖刀紫…どうか、どうか…どうか…!私を好きでいてくれるのならば、どうか!私が良いというまで、私を殺してくださいませ!!』
ここで、男は少女の胸を貫くのだ。血を流しながらも、満足そうに少女は笑う。その細くくずおれていく少女の身体を抱きしめる腕も、蹲って動かなくなった男の背中も深い後悔と悲しみに、いつまでも震えていた…
『お前が…落ちよと言うのなら俺は鬼にも身を落とそう…お前が……良いと言う日まで…………』
「ばかみてぇ…」
到底現代ならこんなの考えられない。
けれど、この馬鹿げた夢の大まかな流れがやっとわかった…少女は、自分が獣になる事に耐えられなかったんだ。
それに、馬鹿正直に男が答えたんだ。
「2人とも、バカだ……」
彼らにとってはもうそれが最善だったんだろう。けど、こんなのは嫌だと思う。理解も同調も全くできない。
(そうするしか…なかった…次に次にと託すしかなかったの……)
目の前の映画の様な映像は消えて、横にいる少女と一緒に取り残される。
「じゃ、じゃあ…今まで見てきた女の子達も?」
(……)
コクリ…声無き答えが返って来た。
(私達は皆同じ……宿命ですもの…)
はっと目覚めてみれば、自分の部屋で…全身は汗びっしょりで、生々しい緊張感がまだ残っている。楓矢の心臓は動悸が止まず、先程見た夢は実際に目の前で起こったことの様に鮮明に脳裏にも残っていた。
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